2016年03月08日

坊っちゃん

 夏目漱石さんの長編小説です。

あらすじ
 東京の物理学校を卒業したおれは松山の中学校に数学教師として赴任した。江戸っ子気質のおれは私生活を冷やかしたりいたずらをしたりする生徒たちと対立する。赤シャツや野だら他の教師らとも交流を持つが、どうもしっくり来ないことばかりだった……。




 妹に借りて読みました。喋り言葉(べらんめえ口調の江戸弁?)で書かれており、読みやすい部類に入ると思います。ストーリーも痛快で分かりやすいです。いい意味で、子供向けに近い感じがします。登場人物の役割付けがはっきりしていて、悪役がきちんと定められていますが、その悪役も悪役ながら愛すべき印象を与える。赤シャツや野だいこがその役回りですが、決して心から憎むということはできません。バイキンマンみたいな感じとでも言うのでしょうか。親しみやすいキャラクターですよね。この親しみやすさは、彼らのような俗物的存在がある程度誰の心にも存在しているからかもしれません。
 もう一つ、この小説が傑作としているのは、構成/物語と文体がぴったり合っているからだと思います。文章が『こころ』とかのそれならば、『坊っちゃん』はあまり面白いと思えないのかもしれません。微妙なバランスで絶妙な作品が出来上がっているのだと思います。

評価:B
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2016年03月05日

蜘蛛の糸/杜子春

 芥川龍之介さんの短編集です。収録作品は『蜘蛛の糸』『犬と笛』『蜜柑』『魔術』『杜子春』『アグニの神』『トロッコ』『仙人』『猿蟹合戦』『白』です。

あらすじ
 財産を使い果たした杜子春は宿もなく、洛陽の西の門にもたれかかって空を眺めていた。すると、どこからか片目すがめの老人がやってきた。老人の指示に従い、杜子春は再び金持ちになるが…。




 童話を中心に芥川さんの名作を収録した短編集です。そろそろ芥川さんのカテゴリ独立させようかな…。
 『蜘蛛の糸』『杜子春』は言わずとしれた寓話的な超有名作品です。『羅生門』のイメージが強すぎてか、個人的に芥川さんは暗くて重厚なイメージがあるのですが、この二作品は強烈な印象を残しながらも心をえぐってしまわない程度で歯止めが聞いています。絵本を読んでいるような少し懐かしい感じもしました。将来子供に読み聞かせてやりたい。そう思わせる作品です。
 『犬と笛』『魔術』『アグニの神』『仙人』『白』も童話の類ですね。子供向けの作品、というとまるで侮っているように聞こえますが、子供向けに書くって、大人向けに書くよりも遥かに難しいと思います。簡潔で、示唆に富んで、読む人を心躍らせ、感動させる。いずれも佳作で楽しめました。『犬と笛』『白』みたいな話を一回自分でも書いてみたいな、なんて思ったり。
 『猿蟹合戦』。解説で「所詮は気軽な戯作』とさらっと書いていて、「解説で作品批判してええん?」ってものすごく思いました。皮肉が効いていて面白いです。ただ、これは子供には読み聞かせたくないですね笑。
 『トロッコ』。実は読むのは初めて。子供の心理の描写が素晴らしいですね。先が分からず、次第に心細くなっていくあの気持ち。ものすごくよく分かります。山登りしてる最中によく獣道や踏み分け道に突っ込んでちょこっと冒険するのが趣味なので、今でもよく感じます笑 帰った後、アレが少し心地よいものに感じるから少し不思議。そもそも人生自体先の見えない不安なもの。そうですよね。。。
 『蜜柑』。どんよりと曇った暗澹たる気持ちが、色鮮やかな蜜柑が乱落する様子を通じて、見事に朗らかな気持ちに転換する描写がこの上なく秀逸だと思います。暖な日の色の蜜柑が汽車からバラバラと落ちていく様子。映画を見ているようにありありと目の前に浮かびます。読んでいる自分の気持ちまで作品の語り手に一致して変化しているみたいな感じがします。最終シーンの感情は、ほんとうになんとも言えないですね。明るくなれるとか勇気をもらえるとか心よいとか書くと、ものすごく陳腐で筆足らずになってしまいます。とにかく、読んでみてください! この短編集の中でも一二を争う名作だと思います。

評価:A
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2016年03月04日

私と踊って

 恩田陸さんの短編集です。収録作品は『心変わり』『骰子の七の目』『忠告』『弁明』『少女界曼荼羅』『協力』『思い違い』『台北小夜曲』『理由』『火星の運河』『死者の季節』『劇場を出て』『二人でお茶を』『聖なる氾濫』『海の泡より生まれて』『茜さす』『私と踊って』『東京の日記』『交信』です。

あらすじ(表題作)
 私は辛気臭い黒いワンピースを着てパーティ会場で壁の花となって突っ立っていた。不意に一人の少女と目があった。彼女はまっすぐに私に近づいてきて言った。私と踊って。私は彼女に連れられて廊下に出た。壁の下半分にある窓から差し込んだ陽射しが、廊下に光のステージを作っていた…。




 前期試験終了後早々の読書。試験会場からの帰り道に読み始めました。どんだけ読書に飢えててんって感じですね笑。
 短い作品ばかりですが、恩田ワールドを十分に楽しめました。
 『心変わり』。サスペンス感のある短編。純粋に面白かった。こういうできすぎた感じの話、長編だとイマイチなことが多いですが、短編だと面白くなる不思議。そう言えば、私ばかよね、って歌謡曲ありましたね。
 『骰子の七の目』『東京の日記』はちょっぴり社会風刺めいたSF。結構シャレにならない? こんな世界が来なけりゃいいな、と心底願うばかりであります。
 『忠告』『協力』の連作は中々お気に入り。結構怖いね。動物と喋りたい気持ちもあるにはありますが、喋れないからこそ可愛がれるのかも、などと思ってしまいました。
 『弁明』。『中庭の出来事』の裏話らしいですが、そちらを読んでいないので筆者の意図はつかめていないかもしれませんが、どこか臨場感があって好きです。暗い部屋、スポットライトに照らされた女の子が物慣れない様子でぽつりぽつりと喋っている様子が目に浮かびます。
 『少女界曼荼羅』。不思議な世界観です。諸星大二朗の漫画にありそう。
 『思い違い』。恩田さんがこれを書いた気持ち、なんとなく分かります。お店とかでふと耳に入ってくる話を聞いてしまうってたまにありますよね。あんまり行儀は良くないでしょうけど…。
 『台北小夜曲』『火星の運河』。幻想的でノスタルジック。こういう雰囲気好きやなぁ…。台湾に行きたくなりました。
 『理由』。短いオチ話。童話みたいやけど、よくよく考えたら怖いよ…。
 『死者の季節』。言葉にするって呪いって本当にそうですよね。実話怪談なんですね。怖。
 『劇場を出て』。短くまとまった、意図がはっきりした作品。J-POPの歌詞にありそうな内容です。
 『二人でお茶を』。こういう話ってありがちと言えばありがちかもしれませんが、書く人によってその人のカラーが出るのが面白いですね。
 『聖なる氾濫』『海の泡より生まれて』『茜さす』。写真シリーズとでもいうのかな。それこそ写真的というか、ものすごく視覚に訴えてくるシリーズです。それも、セピア色のフィルターをかけて見ているみたいな感じです。
 『私と踊って』。ノスタルジックで綺麗な作品です。
 『交信』。幼い頃に読んだ手塚治虫の漫画を思い出しました。はやぶさ帰還の記念作品なんですね。

評価:B
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2016年02月29日

合格していますように。

 お久しぶりです。先週前期の大学入試試験が終わり、今は後期試験の小論対策をしながらものんびりとした日を送っています。前期試験の合格発表が3月9日で、それまでは中々落ち着かない日が続きます。
 一応合格圏内とは言われてきましたが、恐らく競い合うのも自分と同レベルの人たち。やってきた努力も、そう大きく(上にも下にも)変わるものではないでしょう。答案用紙に自分の力を精一杯ぶつけた後は天に委ねるほかありません。どうか合格していますように…。
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2015年09月13日

地獄変

 芥川龍之介さんの短編集です。収録作品は『地獄変』『藪の中』『六の宮の姫君』『舞踏会』です。

あらすじ
 良秀は非凡な才能を持つ絵師だが、見た目にも醜く、絵のためであれば人の命をも危険にさらす非情の持ち主であった。そんな彼だが、唯一娘には煩悩で溺愛していた。あるとき堀川の大殿様に地獄変の屏風を描くよう命じられたが……。
 表題作『地獄変』ほか、藪の中で殺された男を巡る様々な食い違った証言を描いた『藪の中』、喜びも悲しみも少ない毎日を好んで送る姫君の物語『六の宮の姫君』、美しい菊と管弦楽の彩る艶やかな舞踏会の中人生の儚さが垣間見える『舞踏会』収録。




 受験生だというのにまたしても一気に読んでしまいました…苦笑。まあこうしてあらすじを書いたり感想を書くっていうのも現代文の勉強の一環ということで。記述力育成に…なるかなぁ笑。
 芥川さんといえば、中学二年のときに『藪の中』の短編集を読んで、『羅生門』に甚く感動を受けたのですが、それ以来。この人の作風、自分に合うな、などと思いつつも中々手を出せませんでしたが、ようやく。

 『地獄変』は、『羅生門』再びと言った体の感動。だんだんと狂っていくかのような不思議な迫力。良秀の奇行に得体の知れぬ恐怖感を抱きながら、同時に大殿にも薄気味悪さを覚えました。不安に近いような興奮が募ってゆくクライマックスシーンの、良秀の姿。やっぱり良秀も人の感情を持っていて、どうしようもなく可哀想だと思いきや…。ここまで芸術にこだわる良秀に、畏怖に近い尊敬と、微かな羨望、そしてやっぱりこういう人間とは付き合いたくないな、という思いも抱きました。芥川さんの芸術至上主義の表れなのでしょうか。
 良秀の描いた「地獄変」…。芥川さんのこの小説が、100年間の読者一人一人の心の中に投影してきたのですね。存在しない絵を、ここまで畏怖と感動を持ってみられるなんて、芥川さんの表現力ってほんまに凄いと思います。

 『藪の中』は、以前読んだときと比べものにならないくらいの衝撃を受けました。確か東野圭吾さんが『新参者』でこんな感じの構成の話を書いていたのを思い出しました。初めて読んだ中学二年のときは、推理小説一辺倒だったもので、「これってミステリ?」って思いつつ少し釈然としない思いを抱いていましたが、今回読んで、想像がいくらでも膨らんでいく名作だと思いました。読む人の想像力を上手く引き出し、かつ答えを一つに収斂させない。ある意味理想的な小説かもしれません。

 『六の宮の姫君』。これって、現代人を象徴しているようなお話ですよね。100年近く前に出された小説とは思えません。極楽も地獄も知らぬ…。現代人ってそんな状態を「平凡だけど幸せな」などと良いように言い換えて理想的な人生としている気がします。自分自身、そう思ってしまう時もよくあります。でも、人生無為に過ごすよりは、何か生き甲斐を持って過ごす方が良いと思います。平穏主義って結局自分の身を中心に考えている面もありますから。このお話は、そのことを気づかせてくれる良い小説です。現代の若者だからこそ読むべき小説。教科書に載せてほしいなって思います。

 『舞踏会』。題材的にはレトロなのに、全然古さを感じず、現代の本を読んでいる気分になりました。鹿鳴館の幻想、明治のノスタルジックな優雅さを感じさせるのに、同時にどこか清新な若々しさを感じさせます。明子の回想シーンはもちろんなのですが、ラストに出てくる小説家の青年ーー芥川さん自身でしょうかーーのごく短い描写からもそれが感じられます。最後の場面、本当に好きです。青年も、老婦人・明子も、ほんとに若々しい。昔を懐かしむおじいさんおばあさんって不思議な若々しさを持っているものだと思いますが、それが感じられるというのは他の小説ではなかなかありません。むしろ、そういう描写をするとかえって老いが強調されるものが多いくらいです。やっぱり芥川さんってすごいです!
 回想シーンから、現在に戻って筆者と思われる人物との会話に至るという設定、現代作家もたまにやる書き方ですよね。そこに大正小説が平成小説に通じるのを感じて、清々しい今様さを感じるのかもしれません。そういう平成の若者だからこそ感じるという個人的な理由こそあれ、やっぱり芥川さんの筆の妙がこの若さを生み出しているのに間違いはありません。この構成だからこそ生まれる小説の魅力が、精一杯引き出されています。
 ぜひこの物語も同世代の人たちに読んでもらいたいです。

評価: AA
posted by みさと at 20:05| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月25日

受験の夏

 六月に部活を引退してからいよいよ受験モードに突入している高三です。だいぶと勉強三昧な夏休みだった気がします。後輩や大人の方には「大変やろ〜」などと言われるのですが、不思議と部活やっているときより楽な気もします。クラブに労する精神や体力をその分勉強に捧げているみたいな感じで、ひょっとすると部活をやっていたときより精神状態は良いかもしれないです笑
 しかし、自習ばっかりの生活はやっぱり飽きてきますね。学校の補講で7コマ、塾の夏期講習で25コマとっていましたが、それも終わったここ数日は自習の集中力が下がっている気がします。明日からは学校の授業が始まるので、自習に飽きるということはなくなるかな〜と思っています。しかしそれは自分で自由に使える勉強時間が減るということでもあるので、一時一時を大切に過ごしていきたいです。

 あ、卒業文集書かなきゃ…。何書こかな。
posted by みさと at 23:31| 奈良 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月28日

情動

 新津きよみさんの短編集です。収録作品は『女友達』『愛甥』『別居』『義理の兄』『ステップファミリー』『実家』『ひとり』です。

あらすじ
 美登利は敏子と歌舞伎を見に来ていていた。敏子は別れた旦那・圭一の母親で、嫁姑時代から着物の着付けを教えてもらっていた。別れた後それで縁が切れたかと思ったが、着物で歌舞伎を見にいこうという誘いが来て、それからしばしば一緒に行っている。二人の奇妙な関係を、美登利の妹などは「キモい」などと表現するが…。(女友達)




 久々の新津さんの作品。そして、久しぶりにたった二日で読了した一冊です。中学生の頃などそれが普通でしたが、受験生としては中々そのようなことも残念ながらできずにいました。
 全て家族にまつわるストーリーです。いずれも非常に短いながら、嫉妬、妄信、憧憬、絆、愛着などなど様々な人間感情が、少しねじくれたというか。狂気を帯びて感じられます。しかし、現実の人間に思考を至らしめてみると、実際この小説に描かれているように、人間感情はねじ曲がって、複雑に絡み合って、狂気じみている気がします。
 新津さんを読むといつでも思うのですが、人間の感情の暗がりを描かせると本当に新津さんは当世随一ですよね。短い一編一編の小説群は、それぞれ現実世界を濃縮した傑作ばかりです。この「家族」というテーマはこの新津さんの作風によく合っていて、新津さんの魅力がよく現れた一冊だと思います。
 おすすめはねじれた愛情、愛着が強く感じられる『愛甥』『義理の兄』、少し毛色は違いますが『ステップファミリー』です。ぜひ、みなさん読んでみてくださいね。

評価:AA
posted by みさと at 23:00| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(新津きよみ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月10日

明日の記憶

 荻原浩さんの長編小説です。

あらすじ
 広告代理店営業部長の私・佐伯は50歳にして若年性アルツハイマーだと診断された。仕事の遂行が困難になってゆき、記憶が覚束なくなってくるのが恐ろしく感じた。娘の結婚・出産を控え、私の不安・恐怖はますます募る……。




 妹に勧められて読み始めた一冊です。私は最近社会福祉に興味があって、「こんな本があるのやけれど」と勧められたとき、迷わず読もうと決めました。
 あるはずの将来を奪い、日常を崩し、過去までも蝕ばんでゆく恐ろしい病気。こういう病気こそ周囲の理解が必要ですよね…。
 ともあれば夢の中に入ってしまいそうな不安定さが次第にページを繰っていくごとに増してくる感じがして、読んでいて自分まで不安になってきます。もし自分の身にこんなことが起これば…などと想像すると、本当に怖いです。恐怖と悲しみ、不安。それらすべてが身体にじわじわ染みこんでくるような感じがしました。
 ラストシーンは涙なくしては読めません。感動。電車の中で泣いてしまいそうになりました。社会福祉に興味ある人はもちろん、そうでない人にも是非読んでいただきたい一冊です。

評価:A
posted by みさと at 21:58| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月01日

春琴抄

 谷崎潤一郎さんの中編小説です。

あらすじ
 盲目の美女・春琴は三味線の達人であったが、吝嗇や嗜虐の気があるわがままな女性であった。少年・佐助は春琴の身の回りの世話をしていたのだが、ふとしたきっかけに年下の彼女を三味線の師匠として仕えるようになる。男女の関係を持つようになっても、春琴は佐助を旦那と認めず、佐助は弟子兼世話役としての生活を長らく続けた。
 あるとき、春琴は誰かに大火傷を負わされるが…。




 谷崎潤一郎さんは、学校の授業で読んだ『陰翳礼讃』に甚く感銘を受けて、興味を持ちました谷崎さんの本を何か読みたい、と思って家の書庫を探していて見つけたのがこの小説であります。あらすじを見てみると「被虐」とか「官能」とか書いていて「これって高校生が読んでもええんやろか…」と思いましたが、まあ江戸川乱歩さんの「芋虫」とか「人間椅子」とか読んでるし今更やなどと思いまして読み始めた次第でございます。
 先に挙げた二作品ほどエグみは少なく予想以上に読みやすかったです江戸川さんの持つ怪奇色は薄くやはり耽美派というだけあって官能的という言葉がよく合っています佐助が己の目を潰す場面には思わず自分まで目を覆いたくなりますが憐憫は殆ど感じず驚きと感嘆と少しの恐ろしさを感じました。盲目になったからこそ敬愛する春琴の永遠の美が保たれるようになったのです同時に複雑な恋愛関係もある意味でさらなる境地へ移行したように思えます中々常人では共感しがたい世界ではありますが読んでいて本当に圧巻されます。
 耽美派…。意外と好きなジャンルかもしれないです。もっと谷崎さんの本を読んでみたいな、と思いました。今年は受験勉強で中々読めないのが残念です…。

 気まぐれで句読点の使い方を真似てみましたが、素人がやったら読みにくいだけでしたね(苦笑

評価:A
 
posted by みさと at 22:56| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月15日

怪しい店

 有栖川有栖さんの短編集です。収録作品は『古物の魔』『燈火堂の奇禍』『ショーウィンドウを砕く』『潮騒理髪店』『怪しい店』

あらすじ
 「いらっしゃいませ」の言葉とともに得体の知れぬ見知らぬ人を招き入れる店というのは、日常にあるのに異常な空間である。場合によっては悪意まで同時に招き入れる店。ときには悪意までもが招かれて平気で上がりこむ。
 そんな不思議な空間を舞台に、臨床犯罪学者・火村英生と推理作家の有栖川有栖は五つの事件に挑む。

 久々に有栖川有栖さんの小説を読みました。そもそもミステリを読むこと自体かなり久しぶりかもしれません。有栖川さんの作品の魅力は、「紳士的」であることかもしれません。軽妙な要素もありますし、会話も関西弁ですし、むしろ割と読みやすいテンポの良さを持った文体でありながら、どこか気品があります。
 特に『燈火堂の奇禍』『潮騒理髪店』の二作品は、そのようなジェントル・ミステリの最たるものだと思います。前者では、リアリティのある、しかし薄赤いセピアのフィルムを通したようなそれぞれの人間像を脳裏に映写します。本当に短い作品でそこまで踏み入った人間描写はないのに、不思議と冬美ちゃんも半井爺さんにも愛着がわきます。最後の終わり方も、有栖川さんが微笑みを以ってそっと描いているような描き方で好きです。
 『潮騒理髪店』でもセピア色の風景が広がっています。なかなか散髪のシーンを描いた小説というものは目にしませんが、これは切られている様子を読むだけで、気持ちよく感じます。谷崎潤一郎さんの『陰翳礼讃』を読んだときの心地よさにも似ています。こんな店で自分も散髪してもらいたいな〜と。火村と有栖川のやりとりが魅力的なことはもちろんですが、会話の一つ一つ、例えば「奥でおやつをいただいておりました」や「桐杉さんですか」なども温かみを感じて好きです。
 『ショーウィンドウを砕く』は一転現代らしい作品。物欲の強い彼女と、それを愛しく思う彼氏。フォーマットに沿ったような心理ではなく、より生きた人間らしい心理描写です。そういう嗜好はない自分も共感してしまいます。
 もちろん、他の作品も魅力的です。本当に短編集のタイトルがよく内容を表していますが、『怪しい店』です。不気味なのだけれど、どこか心惹かれる。妖怪世界にギリギリ足を踏み入れないくらいの現実世界の隅っこにいるような感覚を受けます。

 ジェントル・ミステリ。久々でしたが、つくづく有栖川さんの文章の魅力を感じました。小学校のころから6年くらいのファンですが、本当に人生を通して読んでいきたい作家さんです。

評価: AA
posted by みさと at 19:12| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(有栖川有栖) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする