2017年04月18日

D坂の殺人事件

 江戸川乱歩さんの短編集です。収録作品は『二廃人』『D坂の殺人事件』『赤い部屋』『白昼夢』『毒草』『火星の運河』『お勢登場』『虫』『石榴』『防空壕』です。

あらすじ(表題作)
 私はD坂にある喫茶店「白梅軒」で変わり者の友人・明智小五郎と話しながら珈琲を啜っていたところ、向かいにある古本屋の異変に気付く。駆けつけると、古本屋の細君が首を絞められて倒れていた…。




 久しぶりの乱歩作品です。ワンゲル合宿のお供に読みました。推理小説を中心に、色々な作品が収録されています。ちょっとネタバレ注意かもしれません。
 収録作品の中でも一番有名なのはやはり表題『D坂の殺人事件』でしょう。明智小五郎の初登場作品。中学時代(ですから五年ほど前?)に読んだことがありましたが、意外と結末を忘れているものでした。ミステリマニアだった中学生のころを思い出して少し懐かしい気分になったり…。
 『二廃人』も以前読んだことがありましたが、それでも結末には唸らされました。個人的には『D坂〜』よりもこちらのほうが好み。
 『赤い部屋』。気味の悪いブラックな話。こういうテイストが乱歩の醍醐味ですね。どんよりとした夢幻の空気が陳腐な本性を現すという結末も示唆的で、架空の小説の儚さを感じさせて好きです。
 『白昼夢』『虫』はよく似たテイストのお話。大人向けの乱歩小説らしい、とことんグロテスクながらもどこか美しさを持ったよい作品です。
 『毒草』は当時の貧しい庶民の暮らしを黒く痛烈に描き出した話でした。
 『お勢登場』は他作品ほどの後味の悪さはありませんが、かなり完成度の高いお話な気がします。乱歩版『玄鶴山房』といったところか。主人公の悲惨な運命にかなり辛くなります…。
 『火星の運河』は少し幻想的な、乱歩にしては異色の作品。と思いきや肉感的な美しさ、気味の悪さがあり、やっぱり乱歩。なかなかに好きな掌編です。
 『石榴』はザ・推理小説といった感じ。『二廃人』と同じ空気を持つ佳作です。
 『防空壕』も異色作です。切ないような、恥ずかしいようなお話。
 どの作品も短いながらも、それぞれ読み応えのある良作ばかりでした。久々の乱歩ワールドを満喫できてよかったです。

評価:B
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2017年03月02日

やさしい教育心理学

 鎌原雅彦さん、竹綱誠一郎さんらによる教育心理学の教科書です。教職免許をとるわけではありませんが、子供相手のボランティアをしている中、興味がわいて読みました。入門書であり、かなり平易な内容。経験則的に知っていることも多くありましたが、自分や周囲の人の行動に照らし合わせながら読んでいると、なるほど、と思わされることが何度もありました。何かにすぐ応用できるというわけではありませんが、教育や心理について考えていくうえでの基礎となりそうです。

評価:B
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2017年02月20日

四畳半神話体系

 森見登美彦さんの小説です。

あらすじ
 私は京都大学の三回生。バラ色の大学生活を夢見ていたが、実際のそれは無気力と暗い情熱に包まれた奇妙なものとなっていた。唾棄すべき親友で宿敵でもある小津、孤高な後輩の明石さん、超然とした不思議な自由人・樋口師匠に囲まれて送る私の奇天烈な青春物語。




 京大生の教養のようなところのあるこの小説。大学一回生も終わろうとする今頃、妹に勧められてようやく読みました。
 現実の京大生はここまで奇天烈な生活を送っているわけではありませんが、主人公の感情は京大生男子ならある程度共感できると思います。女っ気もなく(男女比4:1だから仕方ない^^;)、勉強にも左程熱心というわけでもなく、おふざけと怠惰で結構な時間を過ごしてしまう…。作中の主人公はよくいる京大生像を強調しつつも忠実に再現している気がします。
 この小説で示されているのは、人生多少の選択の違いがあっても結局のところ境遇はそう変わらないということ。絶対そうというわけではないでしょうが、自分の性格が変わるわけではないのですから、ある程度真な面もあると思います。「あのときこういう選択をしていれば…」という後悔をすることはよくありますが、ひょっとしたらその選択をしていたとしても現実と最終的な結果は変わっていなかったのかもしれない…。そう思うと、行動判断をもっと思い切って為すことができるようになる気がします。
 ちなみに実在のお店や町名が登場してニヤニヤとしてしまうのもこの小説の醍醐味の一つ。猫ラーメンというのもどうやら実在するようで……。

評価:B
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2017年02月16日

夜叉ケ池

泉鏡花さんの戯曲集です。収録作品は『夜叉ケ池』『海神別荘』『天守物語』です。

あらすじ(表題作)
 三国岳の麓、琴弾谷。萩原晃は妻・百合とともに鐘楼守をしていた。明六つ、暮六つ、夜中丑満に一度ずつ撞かねば、山奥にある夜叉ケ池の水があふれて田地田畠、陸という陸が水に呑まれるという伝説があるのだ。村の信仰も最早廃れ、百合と外から来た自分だけが迫害されながらも鐘の信仰を守っていた。ある旱の夏、晃の旧友の文学士・学円が偶然訪れたが……。




 最近はまりつつある鏡花さんの戯曲。夜叉ケ池、三国岳はワンダーフォーゲル部で訪れたことがある場所でありまして、そのときまでにこの本を読んでいたならばもっと楽しめたのに、と悔しく思うところであります。夜叉ケ池までは登山道もあり、ミニアルプスといった体で景色も美しいところでありました。ところが池を抜けて三国岳のほうへ参りますと、次第に道も消え失せ、完全なヤブ山になります。ワンゲルは精神力の鍛練とルートファインディング(読図)能力の強化のためわざわざヤブに突っ込むなんてことをしているのです。あの時は『夜叉ケ池』という作品の存在は知っていたのですが、「ここが鏡花の戯曲の舞台か」という感慨も何もなく、「ヤブ!痛い!辛い!」みたいな感じでうんざりとしながら歩いていた記憶があります。
 閑話休題。『夜叉ケ池』、かねてより聞いていた通りの名作でした。人の手も入らないヤブ山の鞍部にある涸れることのない大池。未知の領域が大きく神秘性を帯びており、このような小説の舞台にぴったりです。失われつつある伝説を巡って行われる村人たちと晃たちの応酬が個人的には一番の良い場面だと思います。昔話ではなく、現代(執筆当時)を舞台としているのもポイントですね。
『海神別荘』は人間の小ささ、浅ましさがややSFチックな物語を舞台に描き出された佳作。舞台設定としてはSFに近い話なのに、ヴェルヌなどの雰囲気とは全然違います。鏡花の美しい文体ではまた日本の民話であるかのような印象を受けます。
 『天守物語』は人ならぬ者たちの描写が中心のお話。彼女らの美しさ、そして気味悪さが鏡花らしい文体でじわりと沁みてきます。ちなみに、作中で夜叉ケ池の話が出てきておっと思ったり。後半にて妖美な夫人が人間の乙女のように恋い焦がれる様子の描きっぷりはは本当に流石といった感じです。
 鏡花作品のいずれにも言えることなのですが、鏡花は起承転結の「転」が上手だと思います。美しさはそのままに物語が急展開していくダイナミズムは鏡花作品の大きな醍醐味なのかもしれません。

評価:A
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2017年02月14日

地方創生大全

 木下斉さんの本です。主に「経営」の立場から様々な地域事業の問題点などを考察しています。

 採算の取れないビジネスに延々とつぎ込まれる補助金、結果より手続きが重視される行政政策づくり、耳障りの良い真新しいだけのアイデア、合意ありきの議論…現在なされている地域事業によくある問題点を暴いています。
 実際読んでいて確かにな〜と思う指摘も多いです。当然なようで意外と意識しない観点が含まれていて面白かったと思います。特に「視察にお金を取る」というのははじめ見た時は目を疑いましたが、かなり良い案です。人に自分の事業を解説するのってかなり手間も時間もかかることです。成功したところに集中して視察が押し寄せて無料の解説を要求してはその団体が疲弊することは避けられません。
 ただ気になったのは、地域の活性化をお金の面だけからのみ見ていること。行政がすべきことは、住民の効用を上げることです。それはお金で測ることができるとは限りません。採算面で見ると赤字の事業でも、それによって住民が大きな効用を得られていればそれはやる価値があると思います。金銭利益以外の効用をどうやって評価するというのは難しいところではありますが…(費用便益分析というのがありますがこれも難しいところ。。)
 地域活性事業に関わる人には中々考えさせられる一冊だと思います。

評価:B
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2017年02月05日

島は僕らと

 辻村深月さんの青春小説です。

あらすじ
 瀬戸内海に浮かぶ冴島は人口三千人弱の小さな島。島には中学校まではあるが、高校はない。高校二年生の朱里の学年は彼女のほか網元の娘・衣花、リゾート開発業者の息子・源樹、演劇に熱を上げる新の三人だけ。高校卒業とともに島を出て進学するのを前提に、残り少ない日々を毎日四人で本土にある高校へフェリーで通って過ごしている。Iターンの増加や大人たちの取り組みで変容しつつある島を舞台に、島と本土の様々な人物が交錯する。



 青春小説の名手・辻村深月さんの作品の描いた地方小説です。現代の地方社会を絶妙に描いた名作でした。
 瀬戸内海の島。コミュニティデザイン。株式会社「さえじま」。読んでいてすぐに、兵庫県姫路市の家島がモデルではないだろうか、と思いました。以前紹介した山崎亮さんの本で紹介されている島です。山崎さんの『コミュニティデザイン』を合わせて読むと、おー、となるかも。
 「田舎」を描いた田園小説でありながら、その舞台はコミュニティデザインなど(先進的な)活性化の取り組みが積極的になされ、Iターンなど人口の移動が激しい島。旧態依然とした所謂「ムラ」が良くも悪くも変容しつつある、現代らしい舞台設定です(日本全国で見れば、冴島のようなところはかなり恵まれた「田舎」になるのでしょうが…)。怪しい作家・霧崎ハイジやコミュニティーデザイナー・ヨシノといった「ソト」の人物の目線も中々面白い描かれ方。古きと新しきが交じり合う現代の「田舎」での、複雑で微妙な人間関係の様子がよく描かれており、田園小説としては珠玉の作品だと思います。
 こうした舞台を背景に描かれる四人の青春劇も素敵です。特に、終盤。衣花の島を愛し、網元の娘として責務に従うことを受け入れながらも(あるいは進んでそれを選択した、と言えるかもしれません)、本土へ行く愛する友と別れるのが辛くて泣き叫ぶシーンは特に感情移入してしまいました。古くからのしがらみを打破するような描かれ方をする小説はよくありますが、このように、「しがらみ」を好んで受け入れながらも、それでも他の条件を考えて葛藤が起こるというのがかなりリアルに感じました。私自身の感情によく合っていたというのもあるかもしれませんが。
 大人と子供のあわいの、高校生という目線から見た島の社会、逆にその島の社会が彼女らを規定している様子、また島の社会での彼女らの生き方も注目ポイントです。
 そしてあと、女性の地方社会でのあり方もこの小説の一つのテーマですね。閉塞的・硬直的な地方社会はとりわけ女性をいろいろな形で生き方を規定し、悲しませ、ときには追いやってきた。そうした側面を描きながらも株式会社「さえじま」の代表を務める朱里の母、コミュニティデザイナーとして島の人たちの懐へ入ってゆくヨシノ、さまざまに思い悩み、暗中模索しながらも自らの道を選んできたシングルマザー・蕗子などなど、強く生きる女性たちの姿が描かれています。それを踏まえると、この作品のラストシーンはこれ以上にないほどこのテーマに調和的で、そしてかつ他の青春小説・田園小説としてのテーマも上手に落とし込んだ素晴らしい結末だと思います。

 ただ懐古的にもならず、かといって古きを全否定するわけでもない、良い作品です。田舎で生きるということ、そしてふるさとの意味を考え直させてくれる契機になることと思います。

評価:A
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2017年01月29日

高野聖・眉かくしの霊

 泉鏡花さんの小説です。

あらすじ(高野聖)
 ある旅館での夜ーー道連れの僧は飛騨山中の峠越えのとき体験した不思議な出来事を語った。行く道に横たわる大蛇に、雨のように降り注ぐ蛭の森、そして妖しくも美しい女性の暮らす峠の一つ家……。鏡花怪奇譚の名作の一つ。




 以前アンソロジーで読んだ『薬草取』に魅せられ、鏡花をしっかり読んでみようと思い、生協で購入した一冊です。
 妖しく幻想的な中に、どこか俗っぽさというか、親しみやすさが混じるのが鏡花の特徴なのかもしれません。これのあるおかげで不思議な世界に自らを没入させてくれるのかもしれないと思いました。
 鏡花の怪奇譚は妖しさ、気味悪さ、恐ろしさと同時に絶妙な美しさが存在しています。風景や世界観はもちろんですが、『高野聖』ならば、一つ家の女の妙に肉感的で、艶めかしい描写。俗なるもののような、聖なるもののような不思議さに幻想的な靄がかかったような美しさが感じられました。そしてここに「白痴」とされる少年を配することで女の妖しさが増しています。また僧侶も語り手に対して気安い態度をとり、また最終的に女に心惹かれるという俗性を持ちながらも、女に惹かれるのは性欲などではなく「白痴」にたいする優しさを持っているところに由来しており、動物に変えられることもなかったという聖性をも持っているのも一つ。聖俗の交わり、幻想的な美しさの両方がよく顕れており、そういう点で鏡花の良さがよく表れた作品といえるかもしれません。
 ちなみに蛭の森の描写も見どころの一つだと思います。自分はワンゲルで蛭にひどくやられた経験がありトラウマを抉られたということもあるかもしれませんが(汗)、気味悪さがひどく印象に残りました。この肉感的な気持ち悪さが幻想性を帯びた物語のよいアクセントとなっているように思います。

『眉かくしの霊』も佳作。先にもあげた鏡花の魅力がよく伝わってくる作品です。雪の山国のさびれた旅館というのも物語によく合っていて、聖性と俗性の交錯する地点としても、美しさ、妖しさ、そして儚さを醸し出す舞台としてもよく機能しています。日本の伝統的な怪談の妖美さが感じられる短編です。


評価:AA
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2017年01月22日

住まいを読む――現代日本住居論

 鈴木成史さんの本です。現代日本の住宅の歴史を追うとともに、それぞれの住宅についての意義を考察しています。取り上げられているのは、農村住宅、漁村住宅、町家、下町の住まい、中廊下型住宅、都市LDK型住宅、地方続き間型住宅、建築家の設計した住宅、集合住宅、コーポラティブ住宅などです。
 戦前から現代(といっても20世紀終わりまでですが)にいたるまでの住宅史が概観できるのもよかったですが、特に心に残ったのが、下町や漁村の住まいにおける家と路地との関係です。このような密集して暮らす地域では、路地が各戸により宅の延長として、日常生活(炊事、洗濯、etc…)の場所として使われているのです。これは住宅の狭さを補うと同時に同じ路地を使う人々の生活空間が重なり合って、町内での連帯心や防犯効果も生み出しているのです。路地で植木鉢をおいて自分の家の特徴を表す「表出」行為や開放的な家屋構造などもこれを支えているのです。
 また現代によくある閉鎖的、固定的な間取り構造についても批判をされています。鈴木氏の言うとおり、家族というものは不変的なものではなく、家族形態の変化に合わせて住宅の使い方も変えていくべだと思います。現代ではけ結婚するまでは実家、結婚したら夫婦でマンション、子供が育ってきたら一戸建ての新住宅、という風に、家族形態の変化を「引っ越し」という形で対応する傾向がありますが、これは人口に対する住宅の過剰供給を招いて将来の空き家問題につながります。また文化の継承という面を考えても、核家族ではなく、どちらかの親元の家に同居して、その昔からの家を住みこなし、住み変えていくべきだと思います。(もちろん、地域や建てられた時代によって住宅の特徴や広さは千差万別でありますから、一概にそうしろ、ということはできませんが…)
 個人的には中廊下型住宅が良い住宅だな、と思いました。部屋がふすまなどでつながっていて間取りの柔軟性が確保できている一方で個室というものができ、さらに各部屋への動線が分離することで一定のプライバシー性も生まれている。そして各部屋が完全に遮断されず音などがある程度通るからこそいざというとき駆けつけやすく、介護や育児などもしやすいのです。

 私は地域づくりを将来の仕事としたいと考えていますが、これまで考えてきたのは都市や村全体のことばかりだったような気がします。この本を読んで、改めてそれらは、個人の生活・個人の住まいの集合体だということに気付かされた思いです。当然のことで理解していたはずなのですが、まちのことを考えようとするときどうしても巨視的な方に思考が行ってしまっていた気がします。自分のものごとを考えるアプローチを増やしてくれた一冊でした。
 同時に、住宅や間取り、生活空間に俄然興味が……。建築関係の本ももっと読んでみたいと思いました。

評価:AA
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2017年01月03日

ピーター・パンとウェンディ

  ジェームズ・M・バリーさんの小説です。

あらすじ
 ウェンディら三姉弟の家にピーターパンが現れた。彼は三姉弟に魔法の粉へとふりかけ、ネバーランドへと一緒に飛び立った。人魚、人食いワニ、インディアン、海賊たちの待つネバーランドではピーターパンを中心に様々な冒険が繰り広げられる。




 ものすごーく久々の海外小説。児童文学と言いつつも、かなり残酷な描写があり、いろいろ深く考えさせるところがあったり、結構大人向けな印象を受けました。「本当は怖いピーターパン」なんていう話(これは大人になった迷子を間引くという記述からだったかと)を聞いた事がありますが、確かに…。なんとなくピーターパンにヒーロー的なイメージを抱いていたので、見事に破られて結構ショックを受けましたが、おもしろかったです。
 ネバーランドというのは、子供達が作る想像の世界なのではないでしょうか。小さい子供って、「ごっこ遊び」をよくします。そうした遊びをするとき、私たちはある一貫した世界(ときにはそれは夢の中にも通じます)を作っていたかと思います。それがネバーランドなのではないでしょうか。三姉弟がある程度共通したネバーランドを持っていたのは同じ環境で育っていたから。そして、ある程度「ご都合主義」もそうした想像の世界では問題がありませんし、ネバーランドにいる間いろいろなことをする「フリ」をして済ませていたのもそうしたことの暗示なのかもしれません。また想像世界の象徴たる妖精・ティンカーベルの死は子供達が大人になってそうした世界が失われたことの象徴とも言えそうです。
 フックを見栄っ張りで冷酷な大人像を崩さないまま殺す一方で、大人の代表格であるウェンディのお父さんが同じく見栄っ張りで卑怯なのにやけに子供っぽく書かれているのが面白いです。この小説は大人と子供を大きく分けているようで、通底するところがあることを認めているのかもしれません。

 この本を読んで、つまらない大人になることに嘆きながらも、それを何の抵抗もなく受け入れようとしている自分に気がつきました。ピーターは記憶を積み重ねないから大人になれない(+なりたくない)のかなぁ、なんて思ったり。

評価:B
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2016年12月12日

山怪 山人が語る不思議な話

 田中康弘さんの本です。山における不思議な話、怖い話をたくさん蒐集しています。何となく遠野物語を髣髴とさせるのですが、筆者の本職がらマタギにまつわるお話がかなりの割合で、内容も狐関係の話がやけに多い印象を受けました。あとがきで書かれていた蒐集方法を読むと、ああなるほど。作者はインタビューをするとき、呼び水としてここまでに蒐集した話を語ってみせているらしいです。
 内容に偏りがあるとはいったものの、やっぱり個々の内容は面白いです。そう遠くない昔の、名前の見える人の話だと思うと、かなりドキドキします。自分もどこかで不思議な体験に遭ってみたい気もしてきます(怖いから遭いたくないという思いもありますが…笑)。
なんだかんだ不思議な民話や怪談が好きな人にとっては十二分に楽しめる一冊だと思います。

評価:B
posted by みさと at 18:18| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(小説以外) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする