2012年07月29日

 森村誠一さんの長編推理小説です。

あらすじ
 谷せつの兄・木部信夫が急に失踪した。更に、失踪直後に木部の6億円もの不動産が売買されていることが分かった。このことを不審に思ったせつは夫の昭一とともに兄の身に何があったか調べ始める……。
 同じ頃、ある男がタクシー強盗を目論み実行に移すが……。




 文体に森村さんらしさが満載の一冊でした。ちょっと変わった文体ですが、私は結構気に入っています。ちょっと古めかしい感じとでも言うんですかね……?
 物語も精巧に練られていることがよくわかりました。タイトルの物語への絡ませ方も巧いですが、それをあえて物語の中で言わなくても良いんじゃないかと思いましたね。ちょっとわざとらしい感じがします。
 いろいろと気になることは多いけど、なぜか癖になる文章です。

評価:B
posted by みさと at 19:28| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月22日

御家人斬九郎

 柴田錬三郎さんの短編集です。収録作品は『片手業十話』『箱根の山は越えにくいぜ』『あの世で金が使えるか』『美女は薄命だぜ』『座敷牢に謎があるぜ』『青い肌に謎があるぜ』です。

あらすじ
『片手業十話』 松平残九郎はその副業ーーかたてわざーーから斬九郎の異名をとっている。俸禄の少ない彼は表沙汰に出来ない罪人の介錯をしているのだ。食にうるさくて小鼓の達人の母・麻佐女とともに暮らす彼の元に、今日も奇妙な依頼が持ち込まれる……。
『箱根の山は越えにくいぜ』 ある日、斬九郎は夜道を狙われた。相手は相当腕の立つ男であった……。後日、斬九郎は知り合いの与力・西尾伝三郎から自分の名を騙った誰かが天正大判の両替をしたと伝えられた。天正大判と言えば大変高価な貨幣で、持っているだけで罪になるような代物だった。斬九郎はこの間の刺客と何らかの関係があると睨むが……。
『あの世で金が使えるか』 美食家の麻佐女は錦鳳堂という菓子屋に招待された。最初は菓子では腹は満たされぬと後ろ向きだった麻佐女も、菓子屋の女将のある逸話を聞かされて行く気になった。そこで麻佐女を待っていた者とは……?
『美女は薄命だぜ』 斬九郎は西尾伝三郎から依頼を受けた。その依頼というのがこれまた奇妙なもので、一人の女にある男を殺させるーーしかも斬九郎自身は傍観者としてそれに立ち会わねばならんーーという依頼である。自体はさらに奇妙な進展を見せるが……。
『座敷牢に謎があるぜ』 同族の武家娘・須美が斬九郎の家にやってきた。彼女の何も言わずに行方知れずとなった父の居場所を探ってほしいと麻佐女に話していたところ、ちょうど帰ってきた斬九郎が自分が父上からの手紙を受け取っていると言った。だが、その手紙には行き先は書いていなかった。斬九郎は彼女の依頼を受けることにするが……。
『青い肌に謎があるぜ』 斬九郎の元に依頼が舞い込んだ。自分の死に様を見分して、世間に疲労してほしいというものだった。斬九郎と麻佐女は疑問を抱かぬでもなかったが、ともあれ斬九郎は行ってみることにした……。




 中々痛快な時代小説でした。特に最初の『片手業十話』はテンポよく読めて良かったです。スカッとして胸にもやもやが残らない。こういう小説も良いと思います。キャラクターも個性豊かで、愛着がわきました。斬九郎のしゃべり方、性格なども気に入りました。並の作家がこんなキャラクターを作っても、わざとらしくなるだけで良いキャラクターにならないでしょう。やっぱり作者の腕が現れていると思います。

評価:A
posted by みさと at 21:42| 大阪 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月10日

白骨花図鑑

 甘糟幸子さんの短編集です。収録作品は『白骨花図鑑』『Nevermore』『怖ろしいあの夏の私』『あの夏の花の赤』です。

あらすじ
『白骨花図鑑』 入院している私は病院の中では必要なとき以外しゃべらない。だが、院外では知人達と話し、之花達とも交感する。
 私は死んだ後、自分の亡骸を花で飾ってもらおうと思い、図書館などでどんな花を飾るか考えている……。
『Nevermore』 親戚の子・ちいちゃんが出産のため帰国した。子供のいない私たちは彼女を祝福していた。そんな時分、家にアライグマがよく出没するようになるが……。
『怖ろしいあの夏の私』 私は老いた柴犬を飼っている。夜中いつものように散歩に出たところ、犬を連れた行儀の悪い女とその家族と出会った。それから例の犬が町中に徘徊するようになった。飼い主の女に腹を立てた私は一計を案じる……。
『あの夏の花の赤』 安井は画廊喫茶に絵を飾ってもらっている。ある日、安井は自分の絵を見て「これを描かれた方、野中さんとおっしゃる方じゃありませんか」と言った人がいると知った。野中とは自分の父の姓であるが……。




 花に関する専門知識が多くて、薄さの割に読むのに時間がかかりました……。しかしながら、決して退屈するということはなく、それなりに楽しめましたね。ちょっと切なさを感じるお話ばかりでした。どの話も胸に響くものなので、ぜひ読んでみて下さいね。

評価:B
posted by みさと at 14:02| 大阪 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月25日

図書館の女王を捜して

 新井千裕さんの長編小説です。

あらすじ
 何でも屋を始めた私に、久しぶりの依頼が舞い込んだ。私を絵に描きたいそうだ。一も二もなく承諾した私は、二人の男女と会う。画家と名乗る男は私の絵を描いたが、実は彼は心霊画家で私に憑いている霊を描いたらしい。私は半信半疑であったが……。




 なんだかほんわかとした物語でした。引き込まれる物語とは言えませんでしたがいつまでものんびりと読んでいられました。恩田陸さんの『夜のピクニック』を彷彿とさせます。
 妻に先立たれた夫の寂しさがひしひしと伝わってきました。彼の期待、失望などがなぜかリアルに感じました。
 後書きが印象的ですが、本編の方が私はお気に入りです。

評価:B
posted by みさと at 20:43| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月17日

呪怨 白い老女

 大石圭さんの長編ホラー小説です。

 あらすじ
 クリスマスイブの午後のことであった。萩本文哉はアルバイトでピザの配達をしていた。注文を受けていた家の一つに来たときであった。女性が応対したが様子がおかしい。不思議に思った文哉が家の中に踏み込んでみると、たくさんの惨殺死体があった。先ほどの女性とおぼしき死体もその中に混ざっていた……。




 久々の純粋なホラーでした。工夫されたものではなく、シンプルなホラーだという印象を受けました。最近気に入っている新津きよみ氏のものとは、同じホラーでも全然違う気がします。
 物語性を重視して登場人物の心理を読者に伝えて恐れさせる、という新津ホラーが好きな私はそこまでの感銘を受けることはありませんでしたが、怖かったことは怖かったです。

評価:B
posted by みさと at 21:50| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月12日

棟居刑事の悪の器

 森村誠一さんの中編小説です。

あらすじ
 大槻麻子の家から愛猫のメイが消えた。三日目の朝、メイは帰ってきたが、首輪のポシェットに"副島成実佐賀"と書かれた紙が入っていた。
 ときを同じくして、都内の片隅で三件の事件が一か所にかたまって起こった。新聞集配人が撥ねられた交通事故、そして二つの殺人事件。そのうちの一つの殺人事件の被害者の名前が副島成実であった。
 東京は人を呑み込む悪の器……。




 中々面白い一編でした。
東京に憧れる……それは誰にでもあるでしょう。
 下は仰木の言葉です。これが一番東京を上手く言い表していると思います。
「きみがいま言ったばかりだろう。素晴らしい危険だよ。田舎には決してない素晴らしい危険だ。みんなその危険に賭けたくて東京に憧れるのかもしれないな」(215頁)

 完全に計算された作品と言う印象を受けました。全ての登場人物が関わりあっていて、それが嫌だという人も少なくはないでしょうけど、私はそれを気に入りました。
 気になったのは、少々文章が古い感じがしたことです。昭和の終わりから平成の初めごろくらいの感じと言えば良いのでしょうか。読んでいて少し恥ずかしくなるような会話の連続でした。女性の言葉づかいもまさに女性だ、というような女言葉を多用していました。

評価:B
posted by みさと at 00:00| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月24日

たそがれ清兵衛

 藤沢周平さんの短編集です。収録作品は『たそがれ清兵衛』『うらなり与右衛門』『ごますり甚内』『ど忘れ万六』『だんまり弥助』『かが泣き半兵衛』『日和見与次郎』『祝い人助八』です。

あらすじ
『たそがれ清兵衛』 病んだ妻の世話の為、仕事が終わるとすぐに下城する井口清兵衛。その付き合いの悪さから人は揶揄の念を込めて"たそがれ清兵衛"と呼ぶ。だが、そんな清兵衛は無形流の名手であった。私腹を肥やす家老・堀将監を上意討ちするように言われるが……。
『うらなり与右衛門』 へちまのような顔から三栗与右衛門は"うらなり与右衛門"と呼ばれている。無外流で温厚だが、そのうらなり顔から彼に艶聞は殆ど立たなかった。だが、ある日与右衛門は自分の身に噂が立っていることに気づく……。
『ごますり甚内』 川波甚内はごますりだの、へつらい男だのと評判であった。その目的は立身出世だろうと言われているが、実はそうではない事情があった……。
『ど忘れ万六』 樋口万六は歳による物忘れの多さから退職し、隠居生活を送っていた。ある日、舅に対しても遠慮のない態度をとっている嫁の亀代が泣いている。不思議に思った万六は、彼女に何があったのかと聞いてみるが……。
『だんまり弥助』 杉内弥助は極端な無口の為、変わり者として見られていた。彼のだんまりは悲しい記憶が原因であった。今、その記憶の幻影が再び弥助の前に現れる……。
『かが泣き半兵衛』 わずかな痛みを大げさに周囲に伝えることをかが泣きと言う。鏑木半兵衛はかが泣きが習い性となってしまっている為、周囲に軽く見られがちである。だが、彼は心極流の使い手であった……。
『日和見与次郎』 藤江与次郎は郡奉行下役を務めている。今日は苗木の台風被害を奉行に報告したが、奉行は三浦屋と密会をしている模様。藩政の勢力争いに関係していると推測する。彼は親の失敗から、このことには関わらないでおこう、と思ったが……。
『祝い人助八』 伊部助八は妻と死別してから身だしなみに気を使わなくなった。その汚さから祝い人(ほいと・乞食のこと)と陰口を叩かれている。そんな彼だが、実は剣の達人であった……。




 「冴えない昼行灯の主人公は実は剣豪で、藩政の敵の上意討ちの刺客に選ばれる」というパターン化された作品集でした。
 ワンパターンとおっしゃるなかれ、中々どの作品も楽しめました。細かい設定の違いでこうも飽きないのかと作者の文章力の高さに舌を巻きました。
 時代小説というと難しいと思われがちですが、現代小説と殆ど変わらない読み易さで、短期間で読み終えることができました。

評価:A
posted by みさと at 17:16| 大阪 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月21日

大和川 (再)

 北田敏治さんの歴史小説です。

あらすじ
 大和川流域の村々はたびたび起こる洪水に悩まされていた。川中太兵衛、甚兵衛らはその問題を解決する為に、川違えへ向けて努力する……。




 久しぶりに読みました。以前にもブログに書いたことがある本で、購入の経緯などはそちらをご覧下さい。今は絶版になっている本ですが、中々の傑作です。
 最近は郷土史を調べることが多くなり、前とは少し違う感慨を持って読むことができました。以前読んだときは小説として楽しんだ記憶がありますが、改めて読んでみると調査レポートを小説風に書き換えたような印象を受けました。小説として特筆すべきところは少ないですが、資料としては一級品。そう思います。
 ただ、無理に小説にしない方が良かったのではないか、という気もしました。物語にする以上悪役などを作らざるをえません。その「悪役」にされた人の子孫が現在も残っている可能性は大いにあります。その人たちが読んだらどう思うだろうと考えると、少し複雑な気分になりました。
 小説という独特な形式をとった調査レポート。この形式が良かったかどうかは賛否両論あると思いますが、一読の価値がある本には違いありません。

評価:A
posted by みさと at 21:35| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月18日

ボトルネック

 米沢穂信さんの長編小説です。

あらすじ
 僕・嵯峨野リョウは昔亡くした恋人を悼むべく、彼女が事故死した地・東尋坊を訪れた。僕は、そこでいざなわれるように転落してしまった。
 気がついたら、自分の住む金沢の街にいる。何はともあれ自宅に戻ると見知らぬ女ーー嵯峨野サキと名乗ったーーがいた。太々しくも自分の家のように彼女は僕を奇人視する。話をしているうちに、自分がパラレルワールドに迷いこんだことに僕は気がついたが……。




 軽妙なテンポで物語が進みます。大変読み易く、あっと言う間に読み終わりました。
 中間試験勉強の気分転換に軽い気持ちで読んでいましたが、最後は胸がズキリとしました。軽い小説ですがリョウの心情を読者に伝える工夫が端々に見られ、中々心に響く小説でした。人一人が入れ替わるだけで世界があれほど変わるのかと唖然となり、終盤は本当に重い気持ちで読みました。

 評価:A
posted by みさと at 22:26| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月08日

プリンセス・トヨトミ

 万城目学さんの長編小説です。

あらすじ
 国家予算の使い方を調査する会計検査院に所属する旭・ゲーンズブールと鳥井、そして松平。彼らは大阪の企業を調査するため、現地を訪れていた。しかし、調査対象の中の一つ"社団法人"OJO"に検査をすっぽかされてしまう。そこには重大な意味が……。




 中々「楽しい」話でした。前作「鹿男あおによし」を遥かに上回る馬鹿馬鹿しさで、あまりの展開に唖然となってしまいました。
 「コテコテの大阪」「テレビの中の大阪」とは違う日常の大阪と巻末エッセイで書いておきながら、やはり一般化された大阪を描いているような感じがしました。私が大阪市外住まいであまり市内のことを知らないだけのことかもしれませんが。少なくとも、私が住むところと私が通うところは静かで「コテコテ」からは遥かに離れています。
 これも人物で楽しむ物語で、あまり私の好みには合いませんでした。

評価:C
posted by みさと at 16:47| 大阪 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする