2013年08月15日

屍の聲

 坂東眞砂子さんの短編集です。収録作品は『屍の聲』『猿祈願』『残り火』『盛夏の毒』『雪蒲団』『正月女』です。

あらすじ
 惚けてしまった祖母は行きた屍。少女はそう信じ込んだ。祖母が溺れたとき、正気の祖母は死にたがっているのではないかと思い見殺しにしてしまう。実際は生きたがっていたのではなかったか。そう悩む少女は葬式の夜……。
 表題作他、郊外の地縁社会で起こる怪奇短編集。




 坂東眞砂子の作品を完読したのは、この本が初めてでした。何と言うか……エロティックで、恥ずかしくて読んでいられなくなるのです。この短編集は、そこまでそういう要素がなくて、まだ読みやすかったです。大人になれば、そんなこと気にならなくなるのでしょうか……。
 私は、田舎で起こる、こういうホラーは好きです。重く心の中に沈むような感触。結構癖になります。どれもよかったのですが、個人的には、とりわけ『正月女』と『盛夏の毒』が怖かったです。

評価:B
posted by みさと at 20:52| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月12日

赤い繭

 本日、中学校の最後の国語の授業で、安部公房の『赤い繭』を読みました。この記事を日記に入れようか読書に入れようか悩んだけど、一応読書にします。

あらすじ
 おれは帰る家がない。帰る家を探している。夕暮れの街路をさまよううちに、自分の左足の先が絹糸となっていることにきづく。絹糸は勝手にほぐれていき、おれのからだは消滅しその絹糸は空っぽの繭となってしまった。繭となり踏切とレールの間に落ちていた俺は彼に拾われ、彼の息子のおもちゃ箱に入れられた。



 読み終えて頭の中は「何だこりゃ?」という思いでいっぱい。一体どういうこと? 先生は皆が読み終わったところで、問いを出してくれました。「最後に繭を拾った『彼』は誰か?」
 この回答は割とすぐに分かりました。「彼」は「おれ」。そう考えた理由を文章化しようとしている(というより、何故自分がそう考えたか考えている)最中に問いのヒントが出ました。「この文章の視点を考えよ」。最後の方の文章に、彼の考えが主観的に(「おれ」が考えているように)書かれているから、ということですね。正答が出たところで先生は、夕方だけが「おれ」で、他の時間はずっと「彼」である

 さて、この後。「彼」が「おれ」であるなら、「帰る家がない」とはどういうことか、という問いが出されました。相談OK、定まった答えはなし、で。
 初めの問いが分かった段階で、この答えって一つしかないんじゃないのかな……、と思いましたが、友人と相談するとそうでもないようでした。相談した友人は「ユダヤ人が〜」という、私がただの比喩としてスルーしたところを突っ込んできました。
 そして、先生が生徒を当てる時間。一人目、二人目はほぼ同じ答え。私はこれを聞いて驚きました。一人目は「主人公は恐妻家。家では妻におさえられる」と。二人目は「主人公は離婚している。家はあっても家庭はない」という意味のこと。そんな考え方もできるんや、と思いました。特に二人目はなるほど、と思いました。
 三人目、私が当てられました。私が考えたのは「『おれ』は普段、職場でも家庭でも"キャラ作り"をしていて、ありのままの自分は一人でいる夕方しかない」ということ。すべての人にそう思った経験があるのではないでしょうか。私もあります。私の場合は、家庭と学校であまり変わらないと思います。しかし、そのどちらも演技で、さらに一人でいるときも自分に演技しているのではないかと疑ってしまいます……。ひょっとしたら、誰も本当の自分なんていないのかもしれません。現代人を象徴した小説だと思います。
 ちなみに、先生の解釈は私と表現は大分違いますが、意味は殆ど同じだったそうです。私の考え方は割とスタンダードだったのかな?
 ネットで検索してみると、さらにいろいろな解釈がありました。こういう物語は人によって解釈が変わるのが面白いですね。

評価:A
posted by みさと at 21:28| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月24日

がらくた

 江國香織さんの恋愛小説です。

あらすじ
 翻訳家の私・柊子は母の桐子とともに海外のリゾート地に来ている。日本人の客は私たちと、美しい少女・美海ーーミミと呼ばれているーーとその父親だけ。
 帰国後、妻の私以外にもガールフレンド以外を持っている夫の原は、美海にも近づく。だが、それは私も知っていて許している。彼を所有するために。




 柊子と美海の視点が交互に入れ替わる形態で、私としては美海パートの方が好きでした。同世代ということもありますし。大人と子供の狭間の、もやもやとした気持ち。どこか現実から浮いているような小説ですが、そこは多いに感情移入して読みました。大人に憧れるけど、同時に複雑な気持ちを抱く。中高生なら誰でも感じる気持ちでしょう。
 原さんと美海の父が似たポジションで、比較しながら読みました。同じような夫を持つ柊子と美海の母の経過・行動の違いが興味深かったです。

評価:B
posted by みさと at 23:10| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月22日

アフターダーク

 村上春樹さんの長編小説です。

あらすじ
 零時前ーー浅井マリは「デニーズ」で一人、はっきりとした目的を持たないままたたずんでいた。そこに、一人の男ーー後にタカハシ・テツヤと知ったーーが話しかける。
 同時刻、見えない視線がマリの姉のエリを捉えた……。




 あらすじを読んだだけでは、内容が分からないかもしれないですが……。私自身、登場人物たちが作る上辺の物語は分かるのですが、それが何を表しているのかーー物語の深淵が見えてこないのです。しかし、現代はインターネットというものは便利なもので、知恵袋なるものに物語の意味についての質問がありました。そこの解説は本当にお上手で、納得できました。私のようなはっきり分かっていない者が解説するのも何ですので、検索してみて下さい。
 タカハシの話し方が気に入りました。法月氏の『密閉教室』の工藤順也や、同じく法月氏の法月綸太郎探偵のような、どこか気取った感じの喋り方が癖になります。現実にそんなのがいたら嫌だろうなあ、とは思いますが……。

評価:B
posted by みさと at 22:52| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月23日

武士道シックスティーン

 誉田哲也さんの長編スポーツ小説です。

あらすじ
 武蔵を心の師と崇め、兵法書をいつも読んでいる少女・磯山香織。無敵の実力を誇っていた彼女だが、中学最後の大会で、「甲本」という無名の選手に敗れてしまう。それを気にした彼女は、「甲本」のいる東松学園に入学を決意する。
 東松学園に入学した香織は西荻早苗という女子生徒と出会うが……。



 読み始めてすぐ、いかにも「ツクリモノ」な世界観にちょっと不満を抱きましたが読み進めて行くうちに、違和感は消えて、この世界観を楽しめるようになりました。香織も早苗も現実にいてあまり好ましいタイプではありませんが、この物語観にマッチしていて、巧いと思いました。
 若者向けのライトなスポーツ小説で、段々と成長してゆく少女達がよく描かれていました。試験中の良い気分転換にも成りました。しかし、文章が私の苦手なタイプで、あまり物語に飲み込まれるということがなかったのが残念です。

評価:B
posted by みさと at 21:55| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月17日

剣客商売

 池波正太郎さんの短編集です。収録作品は『女武芸者』『剣の誓約』『芸者変転』『井関道場・四天王』『雨の鈴鹿川』『まゆ墨の金ちゃん』『御老中毒殺』です。

あらすじ
『女武芸者』 巌のように逞しい体躯を誇る腕っ節の強い剣客・秋山大治郎は自分の道場を持っている。もっとも、門弟はおらず出入りするものは食事の世話をしてくれるものだけであるが。そんな彼のもとに一人の男が「ある人物の腕をへし折ってほしい」という依頼を引っさげてやってきた。大治郎は隠棲のような生活を四十も年が離れた女・おはるとともに送っている父・小兵衛にその奇妙な依頼について話した。大治郎達はその奇妙で不審な依頼人について調べることにしたが……。
『剣の誓約』 大治郎のもとに父の弟弟子で、父とともに「竜虎」と謳われた人物である嶋岡礼蔵は訪れてきた。彼は自分の遺恨試合に立ち会ってほしいと頼むが、老いた彼は既に負ける覚悟でいた……。
『芸者変転』 小兵衛の馴染みの料亭・不二楼の料理人と座敷女中から相談があった。彼らは図らずも料亭に出入りしている不良御家人・山田勘助の悪巧みを聞いてしまったのだ。それは何と、大身旗本の石川甲斐守を強請ろうという計画である。小兵衛は一計を案じ、山田勘助を対処しようとするが……。
『井関道場・四天王』 女武芸者・佐々木美冬が出入りする道場・井関道場は美冬を含む四天王と呼ばれる人たちによって経営されている。最近になって四天王の中から正当な道場主を決めようということになった。そんな中、四天王の一人が殺されるという事態になったが……。
『雨の鈴鹿川』 所用あって大和国に下っていた大治郎。その帰り、関の宿場で不審な男女を見た。そのしばらく後に旧知の井上八郎と出会う。井上は仇討ちの返り討ちの手助けをするというが……。
『まゆ墨の金ちゃん』 小兵衛の友人・牛堀九万之助のもとに、三浦金太郎が現れた。彼は女のようにまゆ墨を入れている。三浦は、大治郎の命が狙われていることを話すが……。
『御老中毒殺』 佐々木美冬は知人・飯田平助を襲ったすりを飯田には何も言わずに追いかけた。すりをとっちめ、盗まれたものを取り返したが、その盗まれたものは……。




『女武芸者』最初の作品ということで、世界観を伝えるのが主な役割だと思っていましたが、この短い中によく詰め込めたな、と思えるほどの内容の充実ぶりでした。
『剣の誓約』では剣客達の強い意志を思い知らされ、うむと唸ってしまいました。それ相応の覚悟を持って剣客という生き様を貫く人たちにいたく心を打たれました。
『芸者変転』この辺りから慣れてきてすいすいと読み進んでいきました。小兵衛が格好良いです。
『井関道場・四天王』これは世渡りも上手な小兵衛の活躍ですが、最後の理屈なら小兵衛にも天罰が下るんじゃあないかなぁ。
『雨の鈴鹿川』ではずっと井上が怪しいな、と思っていて見事に外しました。ミステリじゃないんやからと自分で自分にツッコミ……。小説は幅広く読んでいかないといけませんね。
『まゆ墨の金ちゃん』これなんか読むと、「ああ、やっぱり時代小説やな」と思いました。皆剣客として自分の信念を貫き通しているんや、と。私も何か目的を持って生きなければならないかな、とも思いました。
『御老中毒殺』信念を貫き通すのは剣客だけじゃなかった。いや、田沼さんだけじゃなくて平助もです。上に書いた思いがより強くなりました。
 剣客達の人生模様が楽しい小説でした。登場人物の書き分けが巧く、愛着が湧きました。実直で剣一筋な大治郎、飄々として人生のすべてを知り尽くしたような態度をとる小兵衛、そんな小兵衛とお似合いの奥さんで年齢以上に大人びて感じるおはる、颯爽とした女武芸者・佐々木美冬。中でも小兵衛は特に気に入りました。自分もいつかは彼のような思考にたどり着きたいな……。

評価;A
posted by みさと at 13:10| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月29日

 森村誠一さんの長編推理小説です。

あらすじ
 谷せつの兄・木部信夫が急に失踪した。更に、失踪直後に木部の6億円もの不動産が売買されていることが分かった。このことを不審に思ったせつは夫の昭一とともに兄の身に何があったか調べ始める……。
 同じ頃、ある男がタクシー強盗を目論み実行に移すが……。




 文体に森村さんらしさが満載の一冊でした。ちょっと変わった文体ですが、私は結構気に入っています。ちょっと古めかしい感じとでも言うんですかね……?
 物語も精巧に練られていることがよくわかりました。タイトルの物語への絡ませ方も巧いですが、それをあえて物語の中で言わなくても良いんじゃないかと思いましたね。ちょっとわざとらしい感じがします。
 いろいろと気になることは多いけど、なぜか癖になる文章です。

評価:B
posted by みさと at 19:28| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月22日

御家人斬九郎

 柴田錬三郎さんの短編集です。収録作品は『片手業十話』『箱根の山は越えにくいぜ』『あの世で金が使えるか』『美女は薄命だぜ』『座敷牢に謎があるぜ』『青い肌に謎があるぜ』です。

あらすじ
『片手業十話』 松平残九郎はその副業ーーかたてわざーーから斬九郎の異名をとっている。俸禄の少ない彼は表沙汰に出来ない罪人の介錯をしているのだ。食にうるさくて小鼓の達人の母・麻佐女とともに暮らす彼の元に、今日も奇妙な依頼が持ち込まれる……。
『箱根の山は越えにくいぜ』 ある日、斬九郎は夜道を狙われた。相手は相当腕の立つ男であった……。後日、斬九郎は知り合いの与力・西尾伝三郎から自分の名を騙った誰かが天正大判の両替をしたと伝えられた。天正大判と言えば大変高価な貨幣で、持っているだけで罪になるような代物だった。斬九郎はこの間の刺客と何らかの関係があると睨むが……。
『あの世で金が使えるか』 美食家の麻佐女は錦鳳堂という菓子屋に招待された。最初は菓子では腹は満たされぬと後ろ向きだった麻佐女も、菓子屋の女将のある逸話を聞かされて行く気になった。そこで麻佐女を待っていた者とは……?
『美女は薄命だぜ』 斬九郎は西尾伝三郎から依頼を受けた。その依頼というのがこれまた奇妙なもので、一人の女にある男を殺させるーーしかも斬九郎自身は傍観者としてそれに立ち会わねばならんーーという依頼である。自体はさらに奇妙な進展を見せるが……。
『座敷牢に謎があるぜ』 同族の武家娘・須美が斬九郎の家にやってきた。彼女の何も言わずに行方知れずとなった父の居場所を探ってほしいと麻佐女に話していたところ、ちょうど帰ってきた斬九郎が自分が父上からの手紙を受け取っていると言った。だが、その手紙には行き先は書いていなかった。斬九郎は彼女の依頼を受けることにするが……。
『青い肌に謎があるぜ』 斬九郎の元に依頼が舞い込んだ。自分の死に様を見分して、世間に疲労してほしいというものだった。斬九郎と麻佐女は疑問を抱かぬでもなかったが、ともあれ斬九郎は行ってみることにした……。




 中々痛快な時代小説でした。特に最初の『片手業十話』はテンポよく読めて良かったです。スカッとして胸にもやもやが残らない。こういう小説も良いと思います。キャラクターも個性豊かで、愛着がわきました。斬九郎のしゃべり方、性格なども気に入りました。並の作家がこんなキャラクターを作っても、わざとらしくなるだけで良いキャラクターにならないでしょう。やっぱり作者の腕が現れていると思います。

評価:A
posted by みさと at 21:42| 大阪 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月10日

白骨花図鑑

 甘糟幸子さんの短編集です。収録作品は『白骨花図鑑』『Nevermore』『怖ろしいあの夏の私』『あの夏の花の赤』です。

あらすじ
『白骨花図鑑』 入院している私は病院の中では必要なとき以外しゃべらない。だが、院外では知人達と話し、之花達とも交感する。
 私は死んだ後、自分の亡骸を花で飾ってもらおうと思い、図書館などでどんな花を飾るか考えている……。
『Nevermore』 親戚の子・ちいちゃんが出産のため帰国した。子供のいない私たちは彼女を祝福していた。そんな時分、家にアライグマがよく出没するようになるが……。
『怖ろしいあの夏の私』 私は老いた柴犬を飼っている。夜中いつものように散歩に出たところ、犬を連れた行儀の悪い女とその家族と出会った。それから例の犬が町中に徘徊するようになった。飼い主の女に腹を立てた私は一計を案じる……。
『あの夏の花の赤』 安井は画廊喫茶に絵を飾ってもらっている。ある日、安井は自分の絵を見て「これを描かれた方、野中さんとおっしゃる方じゃありませんか」と言った人がいると知った。野中とは自分の父の姓であるが……。




 花に関する専門知識が多くて、薄さの割に読むのに時間がかかりました……。しかしながら、決して退屈するということはなく、それなりに楽しめましたね。ちょっと切なさを感じるお話ばかりでした。どの話も胸に響くものなので、ぜひ読んでみて下さいね。

評価:B
posted by みさと at 14:02| 大阪 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月25日

図書館の女王を捜して

 新井千裕さんの長編小説です。

あらすじ
 何でも屋を始めた私に、久しぶりの依頼が舞い込んだ。私を絵に描きたいそうだ。一も二もなく承諾した私は、二人の男女と会う。画家と名乗る男は私の絵を描いたが、実は彼は心霊画家で私に憑いている霊を描いたらしい。私は半信半疑であったが……。




 なんだかほんわかとした物語でした。引き込まれる物語とは言えませんでしたがいつまでものんびりと読んでいられました。恩田陸さんの『夜のピクニック』を彷彿とさせます。
 妻に先立たれた夫の寂しさがひしひしと伝わってきました。彼の期待、失望などがなぜかリアルに感じました。
 後書きが印象的ですが、本編の方が私はお気に入りです。

評価:B
posted by みさと at 20:43| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする