2012年10月23日

武士道シックスティーン

 誉田哲也さんの長編スポーツ小説です。

あらすじ
 武蔵を心の師と崇め、兵法書をいつも読んでいる少女・磯山香織。無敵の実力を誇っていた彼女だが、中学最後の大会で、「甲本」という無名の選手に敗れてしまう。それを気にした彼女は、「甲本」のいる東松学園に入学を決意する。
 東松学園に入学した香織は西荻早苗という女子生徒と出会うが……。



 読み始めてすぐ、いかにも「ツクリモノ」な世界観にちょっと不満を抱きましたが読み進めて行くうちに、違和感は消えて、この世界観を楽しめるようになりました。香織も早苗も現実にいてあまり好ましいタイプではありませんが、この物語観にマッチしていて、巧いと思いました。
 若者向けのライトなスポーツ小説で、段々と成長してゆく少女達がよく描かれていました。試験中の良い気分転換にも成りました。しかし、文章が私の苦手なタイプで、あまり物語に飲み込まれるということがなかったのが残念です。

評価:B
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2012年08月17日

剣客商売

 池波正太郎さんの短編集です。収録作品は『女武芸者』『剣の誓約』『芸者変転』『井関道場・四天王』『雨の鈴鹿川』『まゆ墨の金ちゃん』『御老中毒殺』です。

あらすじ
『女武芸者』 巌のように逞しい体躯を誇る腕っ節の強い剣客・秋山大治郎は自分の道場を持っている。もっとも、門弟はおらず出入りするものは食事の世話をしてくれるものだけであるが。そんな彼のもとに一人の男が「ある人物の腕をへし折ってほしい」という依頼を引っさげてやってきた。大治郎は隠棲のような生活を四十も年が離れた女・おはるとともに送っている父・小兵衛にその奇妙な依頼について話した。大治郎達はその奇妙で不審な依頼人について調べることにしたが……。
『剣の誓約』 大治郎のもとに父の弟弟子で、父とともに「竜虎」と謳われた人物である嶋岡礼蔵は訪れてきた。彼は自分の遺恨試合に立ち会ってほしいと頼むが、老いた彼は既に負ける覚悟でいた……。
『芸者変転』 小兵衛の馴染みの料亭・不二楼の料理人と座敷女中から相談があった。彼らは図らずも料亭に出入りしている不良御家人・山田勘助の悪巧みを聞いてしまったのだ。それは何と、大身旗本の石川甲斐守を強請ろうという計画である。小兵衛は一計を案じ、山田勘助を対処しようとするが……。
『井関道場・四天王』 女武芸者・佐々木美冬が出入りする道場・井関道場は美冬を含む四天王と呼ばれる人たちによって経営されている。最近になって四天王の中から正当な道場主を決めようということになった。そんな中、四天王の一人が殺されるという事態になったが……。
『雨の鈴鹿川』 所用あって大和国に下っていた大治郎。その帰り、関の宿場で不審な男女を見た。そのしばらく後に旧知の井上八郎と出会う。井上は仇討ちの返り討ちの手助けをするというが……。
『まゆ墨の金ちゃん』 小兵衛の友人・牛堀九万之助のもとに、三浦金太郎が現れた。彼は女のようにまゆ墨を入れている。三浦は、大治郎の命が狙われていることを話すが……。
『御老中毒殺』 佐々木美冬は知人・飯田平助を襲ったすりを飯田には何も言わずに追いかけた。すりをとっちめ、盗まれたものを取り返したが、その盗まれたものは……。




『女武芸者』最初の作品ということで、世界観を伝えるのが主な役割だと思っていましたが、この短い中によく詰め込めたな、と思えるほどの内容の充実ぶりでした。
『剣の誓約』では剣客達の強い意志を思い知らされ、うむと唸ってしまいました。それ相応の覚悟を持って剣客という生き様を貫く人たちにいたく心を打たれました。
『芸者変転』この辺りから慣れてきてすいすいと読み進んでいきました。小兵衛が格好良いです。
『井関道場・四天王』これは世渡りも上手な小兵衛の活躍ですが、最後の理屈なら小兵衛にも天罰が下るんじゃあないかなぁ。
『雨の鈴鹿川』ではずっと井上が怪しいな、と思っていて見事に外しました。ミステリじゃないんやからと自分で自分にツッコミ……。小説は幅広く読んでいかないといけませんね。
『まゆ墨の金ちゃん』これなんか読むと、「ああ、やっぱり時代小説やな」と思いました。皆剣客として自分の信念を貫き通しているんや、と。私も何か目的を持って生きなければならないかな、とも思いました。
『御老中毒殺』信念を貫き通すのは剣客だけじゃなかった。いや、田沼さんだけじゃなくて平助もです。上に書いた思いがより強くなりました。
 剣客達の人生模様が楽しい小説でした。登場人物の書き分けが巧く、愛着が湧きました。実直で剣一筋な大治郎、飄々として人生のすべてを知り尽くしたような態度をとる小兵衛、そんな小兵衛とお似合いの奥さんで年齢以上に大人びて感じるおはる、颯爽とした女武芸者・佐々木美冬。中でも小兵衛は特に気に入りました。自分もいつかは彼のような思考にたどり着きたいな……。

評価;A
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2012年07月29日

 森村誠一さんの長編推理小説です。

あらすじ
 谷せつの兄・木部信夫が急に失踪した。更に、失踪直後に木部の6億円もの不動産が売買されていることが分かった。このことを不審に思ったせつは夫の昭一とともに兄の身に何があったか調べ始める……。
 同じ頃、ある男がタクシー強盗を目論み実行に移すが……。




 文体に森村さんらしさが満載の一冊でした。ちょっと変わった文体ですが、私は結構気に入っています。ちょっと古めかしい感じとでも言うんですかね……?
 物語も精巧に練られていることがよくわかりました。タイトルの物語への絡ませ方も巧いですが、それをあえて物語の中で言わなくても良いんじゃないかと思いましたね。ちょっとわざとらしい感じがします。
 いろいろと気になることは多いけど、なぜか癖になる文章です。

評価:B
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2012年07月22日

御家人斬九郎

 柴田錬三郎さんの短編集です。収録作品は『片手業十話』『箱根の山は越えにくいぜ』『あの世で金が使えるか』『美女は薄命だぜ』『座敷牢に謎があるぜ』『青い肌に謎があるぜ』です。

あらすじ
『片手業十話』 松平残九郎はその副業ーーかたてわざーーから斬九郎の異名をとっている。俸禄の少ない彼は表沙汰に出来ない罪人の介錯をしているのだ。食にうるさくて小鼓の達人の母・麻佐女とともに暮らす彼の元に、今日も奇妙な依頼が持ち込まれる……。
『箱根の山は越えにくいぜ』 ある日、斬九郎は夜道を狙われた。相手は相当腕の立つ男であった……。後日、斬九郎は知り合いの与力・西尾伝三郎から自分の名を騙った誰かが天正大判の両替をしたと伝えられた。天正大判と言えば大変高価な貨幣で、持っているだけで罪になるような代物だった。斬九郎はこの間の刺客と何らかの関係があると睨むが……。
『あの世で金が使えるか』 美食家の麻佐女は錦鳳堂という菓子屋に招待された。最初は菓子では腹は満たされぬと後ろ向きだった麻佐女も、菓子屋の女将のある逸話を聞かされて行く気になった。そこで麻佐女を待っていた者とは……?
『美女は薄命だぜ』 斬九郎は西尾伝三郎から依頼を受けた。その依頼というのがこれまた奇妙なもので、一人の女にある男を殺させるーーしかも斬九郎自身は傍観者としてそれに立ち会わねばならんーーという依頼である。自体はさらに奇妙な進展を見せるが……。
『座敷牢に謎があるぜ』 同族の武家娘・須美が斬九郎の家にやってきた。彼女の何も言わずに行方知れずとなった父の居場所を探ってほしいと麻佐女に話していたところ、ちょうど帰ってきた斬九郎が自分が父上からの手紙を受け取っていると言った。だが、その手紙には行き先は書いていなかった。斬九郎は彼女の依頼を受けることにするが……。
『青い肌に謎があるぜ』 斬九郎の元に依頼が舞い込んだ。自分の死に様を見分して、世間に疲労してほしいというものだった。斬九郎と麻佐女は疑問を抱かぬでもなかったが、ともあれ斬九郎は行ってみることにした……。




 中々痛快な時代小説でした。特に最初の『片手業十話』はテンポよく読めて良かったです。スカッとして胸にもやもやが残らない。こういう小説も良いと思います。キャラクターも個性豊かで、愛着がわきました。斬九郎のしゃべり方、性格なども気に入りました。並の作家がこんなキャラクターを作っても、わざとらしくなるだけで良いキャラクターにならないでしょう。やっぱり作者の腕が現れていると思います。

評価:A
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2012年07月10日

白骨花図鑑

 甘糟幸子さんの短編集です。収録作品は『白骨花図鑑』『Nevermore』『怖ろしいあの夏の私』『あの夏の花の赤』です。

あらすじ
『白骨花図鑑』 入院している私は病院の中では必要なとき以外しゃべらない。だが、院外では知人達と話し、之花達とも交感する。
 私は死んだ後、自分の亡骸を花で飾ってもらおうと思い、図書館などでどんな花を飾るか考えている……。
『Nevermore』 親戚の子・ちいちゃんが出産のため帰国した。子供のいない私たちは彼女を祝福していた。そんな時分、家にアライグマがよく出没するようになるが……。
『怖ろしいあの夏の私』 私は老いた柴犬を飼っている。夜中いつものように散歩に出たところ、犬を連れた行儀の悪い女とその家族と出会った。それから例の犬が町中に徘徊するようになった。飼い主の女に腹を立てた私は一計を案じる……。
『あの夏の花の赤』 安井は画廊喫茶に絵を飾ってもらっている。ある日、安井は自分の絵を見て「これを描かれた方、野中さんとおっしゃる方じゃありませんか」と言った人がいると知った。野中とは自分の父の姓であるが……。




 花に関する専門知識が多くて、薄さの割に読むのに時間がかかりました……。しかしながら、決して退屈するということはなく、それなりに楽しめましたね。ちょっと切なさを感じるお話ばかりでした。どの話も胸に響くものなので、ぜひ読んでみて下さいね。

評価:B
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2012年06月25日

図書館の女王を捜して

 新井千裕さんの長編小説です。

あらすじ
 何でも屋を始めた私に、久しぶりの依頼が舞い込んだ。私を絵に描きたいそうだ。一も二もなく承諾した私は、二人の男女と会う。画家と名乗る男は私の絵を描いたが、実は彼は心霊画家で私に憑いている霊を描いたらしい。私は半信半疑であったが……。




 なんだかほんわかとした物語でした。引き込まれる物語とは言えませんでしたがいつまでものんびりと読んでいられました。恩田陸さんの『夜のピクニック』を彷彿とさせます。
 妻に先立たれた夫の寂しさがひしひしと伝わってきました。彼の期待、失望などがなぜかリアルに感じました。
 後書きが印象的ですが、本編の方が私はお気に入りです。

評価:B
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2012年06月17日

呪怨 白い老女

 大石圭さんの長編ホラー小説です。

 あらすじ
 クリスマスイブの午後のことであった。萩本文哉はアルバイトでピザの配達をしていた。注文を受けていた家の一つに来たときであった。女性が応対したが様子がおかしい。不思議に思った文哉が家の中に踏み込んでみると、たくさんの惨殺死体があった。先ほどの女性とおぼしき死体もその中に混ざっていた……。




 久々の純粋なホラーでした。工夫されたものではなく、シンプルなホラーだという印象を受けました。最近気に入っている新津きよみ氏のものとは、同じホラーでも全然違う気がします。
 物語性を重視して登場人物の心理を読者に伝えて恐れさせる、という新津ホラーが好きな私はそこまでの感銘を受けることはありませんでしたが、怖かったことは怖かったです。

評価:B
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2012年06月12日

棟居刑事の悪の器

 森村誠一さんの中編小説です。

あらすじ
 大槻麻子の家から愛猫のメイが消えた。三日目の朝、メイは帰ってきたが、首輪のポシェットに"副島成実佐賀"と書かれた紙が入っていた。
 ときを同じくして、都内の片隅で三件の事件が一か所にかたまって起こった。新聞集配人が撥ねられた交通事故、そして二つの殺人事件。そのうちの一つの殺人事件の被害者の名前が副島成実であった。
 東京は人を呑み込む悪の器……。




 中々面白い一編でした。
東京に憧れる……それは誰にでもあるでしょう。
 下は仰木の言葉です。これが一番東京を上手く言い表していると思います。
「きみがいま言ったばかりだろう。素晴らしい危険だよ。田舎には決してない素晴らしい危険だ。みんなその危険に賭けたくて東京に憧れるのかもしれないな」(215頁)

 完全に計算された作品と言う印象を受けました。全ての登場人物が関わりあっていて、それが嫌だという人も少なくはないでしょうけど、私はそれを気に入りました。
 気になったのは、少々文章が古い感じがしたことです。昭和の終わりから平成の初めごろくらいの感じと言えば良いのでしょうか。読んでいて少し恥ずかしくなるような会話の連続でした。女性の言葉づかいもまさに女性だ、というような女言葉を多用していました。

評価:B
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2012年05月24日

たそがれ清兵衛

 藤沢周平さんの短編集です。収録作品は『たそがれ清兵衛』『うらなり与右衛門』『ごますり甚内』『ど忘れ万六』『だんまり弥助』『かが泣き半兵衛』『日和見与次郎』『祝い人助八』です。

あらすじ
『たそがれ清兵衛』 病んだ妻の世話の為、仕事が終わるとすぐに下城する井口清兵衛。その付き合いの悪さから人は揶揄の念を込めて"たそがれ清兵衛"と呼ぶ。だが、そんな清兵衛は無形流の名手であった。私腹を肥やす家老・堀将監を上意討ちするように言われるが……。
『うらなり与右衛門』 へちまのような顔から三栗与右衛門は"うらなり与右衛門"と呼ばれている。無外流で温厚だが、そのうらなり顔から彼に艶聞は殆ど立たなかった。だが、ある日与右衛門は自分の身に噂が立っていることに気づく……。
『ごますり甚内』 川波甚内はごますりだの、へつらい男だのと評判であった。その目的は立身出世だろうと言われているが、実はそうではない事情があった……。
『ど忘れ万六』 樋口万六は歳による物忘れの多さから退職し、隠居生活を送っていた。ある日、舅に対しても遠慮のない態度をとっている嫁の亀代が泣いている。不思議に思った万六は、彼女に何があったのかと聞いてみるが……。
『だんまり弥助』 杉内弥助は極端な無口の為、変わり者として見られていた。彼のだんまりは悲しい記憶が原因であった。今、その記憶の幻影が再び弥助の前に現れる……。
『かが泣き半兵衛』 わずかな痛みを大げさに周囲に伝えることをかが泣きと言う。鏑木半兵衛はかが泣きが習い性となってしまっている為、周囲に軽く見られがちである。だが、彼は心極流の使い手であった……。
『日和見与次郎』 藤江与次郎は郡奉行下役を務めている。今日は苗木の台風被害を奉行に報告したが、奉行は三浦屋と密会をしている模様。藩政の勢力争いに関係していると推測する。彼は親の失敗から、このことには関わらないでおこう、と思ったが……。
『祝い人助八』 伊部助八は妻と死別してから身だしなみに気を使わなくなった。その汚さから祝い人(ほいと・乞食のこと)と陰口を叩かれている。そんな彼だが、実は剣の達人であった……。




 「冴えない昼行灯の主人公は実は剣豪で、藩政の敵の上意討ちの刺客に選ばれる」というパターン化された作品集でした。
 ワンパターンとおっしゃるなかれ、中々どの作品も楽しめました。細かい設定の違いでこうも飽きないのかと作者の文章力の高さに舌を巻きました。
 時代小説というと難しいと思われがちですが、現代小説と殆ど変わらない読み易さで、短期間で読み終えることができました。

評価:A
posted by みさと at 17:16| 大阪 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月21日

大和川 (再)

 北田敏治さんの歴史小説です。

あらすじ
 大和川流域の村々はたびたび起こる洪水に悩まされていた。川中太兵衛、甚兵衛らはその問題を解決する為に、川違えへ向けて努力する……。




 久しぶりに読みました。以前にもブログに書いたことがある本で、購入の経緯などはそちらをご覧下さい。今は絶版になっている本ですが、中々の傑作です。
 最近は郷土史を調べることが多くなり、前とは少し違う感慨を持って読むことができました。以前読んだときは小説として楽しんだ記憶がありますが、改めて読んでみると調査レポートを小説風に書き換えたような印象を受けました。小説として特筆すべきところは少ないですが、資料としては一級品。そう思います。
 ただ、無理に小説にしない方が良かったのではないか、という気もしました。物語にする以上悪役などを作らざるをえません。その「悪役」にされた人の子孫が現在も残っている可能性は大いにあります。その人たちが読んだらどう思うだろうと考えると、少し複雑な気分になりました。
 小説という独特な形式をとった調査レポート。この形式が良かったかどうかは賛否両論あると思いますが、一読の価値がある本には違いありません。

評価:A
posted by みさと at 21:35| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする