2014年04月12日

博士の愛した数学

 小川洋子さんの長編小説です。

あらすじ
 家政婦の私が新しく派遣されたのは数学博士の家だった。「ぼくの記憶は80分しかもたない」。そう書かれた紙が背広に貼られていた。事故で遥か昔に時計が止まり、そこから80分しか進まないのだ。戸惑いながらも私は次第に彼に愛着を覚えてくる。彼は私が10歳の子供がいることを話すと、家に連れてくるよう言ってくれ、かわいがってくれたが……。




 結構前に話題となった作品ですよね。今更といった感じはしますが、やっぱり名作です。まず、よくこのような発想をしたものだと思いますし、とっつきにくい数学というテーマを自然ととりこめたな、と思いました。これで数学が好きになる!ということは残念ながらありませんでしたが……。ただ、嫌いだという思いは薄らいだと思います。
 愛情ではないけれど、博士、ルート、私のお互いへの(解説の言葉を借りますと)慕情は、見ていて心温まり、しかし同時に博士のそれが僅かな時間で終わってしまうという淋しさがなんともいえません。
 全然違う立場の人が数学で結びつく。学問は、ただ学ぶというだけでなく人を結びつける力も持っているのだと思うと感慨深いです。もちろん、それを互いに伝達する国語もですが。読んでいる間は数学を本気で考え、嫌悪感など全くいだきませんでした。ルートと「私」だけではなく、僕たち読者すらも繋いでくれたのです。
 この本は一読の価値があると思います。ぜひ、読んでみて下さい。

評価:A
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2014年03月15日

同期

 今野敏さんの長編警察小説です。

あらすじ
 捜査一課の宇田川は、暴力団事務所のガサ入れの最中、逃走した団員に銃撃される。間一髪のところで公安にいる同僚の蘇我に助けられる。公安の蘇我はどうしてここにいたのか。疑問に思って間もなく、蘇我が懲戒免職されたことを聞いた。不審に思った宇田川は調査を始めるが、警察組織の妨害に逢う。一体どういうことなのか……。




 ミステリはよく読みますが、このような、警察の組織を描いたような作品は初めて読みました。これ一冊読むだけで、警視庁や警察庁などの仕組みがよく分かる気がします。
 残念なのは、物語の良さが専門用語の多様で潰されていること。警察の使う略称で、「ガイシャ」とか「ウチコミ」とかくらいなら分かるけど、「マルB」とか「マル対」とか何のことかさっぱり。説明のある用語もありますが、そうでないのも結構あります。 
 前半は魅力的な謎で魅き込まれましたが、後半何となく事件の流れが見えてきた後はいまいち退屈だったかな、という気がします。よくない意味で二時間ドラマ的だと思いました。
 やっぱり私はミステリの方が肌に合う、と思いました。

評価:C
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2013年11月12日

虫とりのうた

 赤星香一郎さんの長編ホラー小説です。

あらすじ
 作家を志して会社をやめ、妻に疎んぜられている赤井は、ある日河川敷で知らない男に追いかけられている、と少女に助けを求められる。しかし男は彼女の父親だと主張する。
 助けようと思ったが、妻や通りかかった老人・青年の言動により、何もせず少女を男に返してしまう。
 後に赤井は少女が殺されたことを知り、責任を感じた私は少女の葬式に参列する。そこで、「虫とりのうた」の呪いの噂を聞くが……。




 久々に読書感想です。嫌いじゃない設定の物語ですが……ゾクッとするのを狙っているような感じもしますが、どちらかというと気分が悪くなる様なタイプのホラー。主人公の人間性がすきになれなかったり、ありがちな設定でだれてきて、中々読み進まない。中盤から結末が見え見えで、ミステリ要素も強くない。虫取りのうたの、つじつまの合う解釈が多すぎて不自然というのも気になりました。
 自分の好みとしては、いまいちでした。上に挙げた「気持ち悪くなる」とか「主人公のうざい人間性」とかは、そういう演出でしょうから、そういうのが好きな人はこの本も好きになれるのでしょう。
 私としては、短編でテンポよく読めるなら、結構高評価だったかもしれません。

評価:C
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2013年10月02日

史上最強の内閣

 室積光さんの長編小説です。

あらすじ
 自由民権党と民権党の二大政党時代、北朝鮮が突然日本に向けた中距離弾道ミサイルに燃料の注入をはじめた。二世三世の議員ばかりの国会では対応できない。浅尾一郎内閣は、自分たちは二軍で、一軍の「影の内閣」がいることを国民に知らせる。突如現れた二条内閣の実力はいかほどか。国民には賛否両論があったが、高い支持率を持って迎えられる。そんな折、予想外の出来事が起こるが……。




 今回は久しぶりですが、紹介するのはいまいちだった小説。読むのがめんどくさく思えたのは久しぶりでした。風刺しているつもりの政治ネタかもしれませんが、読んでいてむかつくほど、つまらない。社会を皮肉ってます、格好良いでしょう、みたいな感じが嫌。心情描写も杜撰で、筆者の右翼的な感じの意見を小説風に書いているだけ。若い世代のいわゆる「ネット右翼」が小説を書けばこんな感じかなと思います。
 風刺内容はある程度まともなところもありましたってところで、政治家たちを馬鹿にしているだけにも聞こえる。どうも好きになれません。
 読んでいてよっぽど朝日新聞と社民党が嫌いなんだな、と思いました。扱いが酷すぎであからさまです。
 解説では、二上内閣の面々は「歴史を知っている人ならニヤリとする」なんて書かれていましたが、見てもアホらしと思うだけ。キャラ作りがわざとらしくて名前も寒くなります。特に浪花秀吉は見ていてむかつくだけのキャラクター。
 人を馬鹿にして嘲笑う酷い小説。それで面白ければまだましですが、これはほんとにひどい。人を褒めた話の方がはるかに健全で良いと思います。
 最後の方、シン・ジャンナムのくだりが少し面白かったからDにしますが、E評価をつけようと思ったほどでした。

評価:D
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2013年08月15日

屍の聲

 坂東眞砂子さんの短編集です。収録作品は『屍の聲』『猿祈願』『残り火』『盛夏の毒』『雪蒲団』『正月女』です。

あらすじ
 惚けてしまった祖母は行きた屍。少女はそう信じ込んだ。祖母が溺れたとき、正気の祖母は死にたがっているのではないかと思い見殺しにしてしまう。実際は生きたがっていたのではなかったか。そう悩む少女は葬式の夜……。
 表題作他、郊外の地縁社会で起こる怪奇短編集。




 坂東眞砂子の作品を完読したのは、この本が初めてでした。何と言うか……エロティックで、恥ずかしくて読んでいられなくなるのです。この短編集は、そこまでそういう要素がなくて、まだ読みやすかったです。大人になれば、そんなこと気にならなくなるのでしょうか……。
 私は、田舎で起こる、こういうホラーは好きです。重く心の中に沈むような感触。結構癖になります。どれもよかったのですが、個人的には、とりわけ『正月女』と『盛夏の毒』が怖かったです。

評価:B
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2013年03月12日

赤い繭

 本日、中学校の最後の国語の授業で、安部公房の『赤い繭』を読みました。この記事を日記に入れようか読書に入れようか悩んだけど、一応読書にします。

あらすじ
 おれは帰る家がない。帰る家を探している。夕暮れの街路をさまよううちに、自分の左足の先が絹糸となっていることにきづく。絹糸は勝手にほぐれていき、おれのからだは消滅しその絹糸は空っぽの繭となってしまった。繭となり踏切とレールの間に落ちていた俺は彼に拾われ、彼の息子のおもちゃ箱に入れられた。



 読み終えて頭の中は「何だこりゃ?」という思いでいっぱい。一体どういうこと? 先生は皆が読み終わったところで、問いを出してくれました。「最後に繭を拾った『彼』は誰か?」
 この回答は割とすぐに分かりました。「彼」は「おれ」。そう考えた理由を文章化しようとしている(というより、何故自分がそう考えたか考えている)最中に問いのヒントが出ました。「この文章の視点を考えよ」。最後の方の文章に、彼の考えが主観的に(「おれ」が考えているように)書かれているから、ということですね。正答が出たところで先生は、夕方だけが「おれ」で、他の時間はずっと「彼」である

 さて、この後。「彼」が「おれ」であるなら、「帰る家がない」とはどういうことか、という問いが出されました。相談OK、定まった答えはなし、で。
 初めの問いが分かった段階で、この答えって一つしかないんじゃないのかな……、と思いましたが、友人と相談するとそうでもないようでした。相談した友人は「ユダヤ人が〜」という、私がただの比喩としてスルーしたところを突っ込んできました。
 そして、先生が生徒を当てる時間。一人目、二人目はほぼ同じ答え。私はこれを聞いて驚きました。一人目は「主人公は恐妻家。家では妻におさえられる」と。二人目は「主人公は離婚している。家はあっても家庭はない」という意味のこと。そんな考え方もできるんや、と思いました。特に二人目はなるほど、と思いました。
 三人目、私が当てられました。私が考えたのは「『おれ』は普段、職場でも家庭でも"キャラ作り"をしていて、ありのままの自分は一人でいる夕方しかない」ということ。すべての人にそう思った経験があるのではないでしょうか。私もあります。私の場合は、家庭と学校であまり変わらないと思います。しかし、そのどちらも演技で、さらに一人でいるときも自分に演技しているのではないかと疑ってしまいます……。ひょっとしたら、誰も本当の自分なんていないのかもしれません。現代人を象徴した小説だと思います。
 ちなみに、先生の解釈は私と表現は大分違いますが、意味は殆ど同じだったそうです。私の考え方は割とスタンダードだったのかな?
 ネットで検索してみると、さらにいろいろな解釈がありました。こういう物語は人によって解釈が変わるのが面白いですね。

評価:A
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2013年02月24日

がらくた

 江國香織さんの恋愛小説です。

あらすじ
 翻訳家の私・柊子は母の桐子とともに海外のリゾート地に来ている。日本人の客は私たちと、美しい少女・美海ーーミミと呼ばれているーーとその父親だけ。
 帰国後、妻の私以外にもガールフレンド以外を持っている夫の原は、美海にも近づく。だが、それは私も知っていて許している。彼を所有するために。




 柊子と美海の視点が交互に入れ替わる形態で、私としては美海パートの方が好きでした。同世代ということもありますし。大人と子供の狭間の、もやもやとした気持ち。どこか現実から浮いているような小説ですが、そこは多いに感情移入して読みました。大人に憧れるけど、同時に複雑な気持ちを抱く。中高生なら誰でも感じる気持ちでしょう。
 原さんと美海の父が似たポジションで、比較しながら読みました。同じような夫を持つ柊子と美海の母の経過・行動の違いが興味深かったです。

評価:B
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2013年01月22日

アフターダーク

 村上春樹さんの長編小説です。

あらすじ
 零時前ーー浅井マリは「デニーズ」で一人、はっきりとした目的を持たないままたたずんでいた。そこに、一人の男ーー後にタカハシ・テツヤと知ったーーが話しかける。
 同時刻、見えない視線がマリの姉のエリを捉えた……。




 あらすじを読んだだけでは、内容が分からないかもしれないですが……。私自身、登場人物たちが作る上辺の物語は分かるのですが、それが何を表しているのかーー物語の深淵が見えてこないのです。しかし、現代はインターネットというものは便利なもので、知恵袋なるものに物語の意味についての質問がありました。そこの解説は本当にお上手で、納得できました。私のようなはっきり分かっていない者が解説するのも何ですので、検索してみて下さい。
 タカハシの話し方が気に入りました。法月氏の『密閉教室』の工藤順也や、同じく法月氏の法月綸太郎探偵のような、どこか気取った感じの喋り方が癖になります。現実にそんなのがいたら嫌だろうなあ、とは思いますが……。

評価:B
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2012年10月23日

武士道シックスティーン

 誉田哲也さんの長編スポーツ小説です。

あらすじ
 武蔵を心の師と崇め、兵法書をいつも読んでいる少女・磯山香織。無敵の実力を誇っていた彼女だが、中学最後の大会で、「甲本」という無名の選手に敗れてしまう。それを気にした彼女は、「甲本」のいる東松学園に入学を決意する。
 東松学園に入学した香織は西荻早苗という女子生徒と出会うが……。



 読み始めてすぐ、いかにも「ツクリモノ」な世界観にちょっと不満を抱きましたが読み進めて行くうちに、違和感は消えて、この世界観を楽しめるようになりました。香織も早苗も現実にいてあまり好ましいタイプではありませんが、この物語観にマッチしていて、巧いと思いました。
 若者向けのライトなスポーツ小説で、段々と成長してゆく少女達がよく描かれていました。試験中の良い気分転換にも成りました。しかし、文章が私の苦手なタイプで、あまり物語に飲み込まれるということがなかったのが残念です。

評価:B
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2012年08月17日

剣客商売

 池波正太郎さんの短編集です。収録作品は『女武芸者』『剣の誓約』『芸者変転』『井関道場・四天王』『雨の鈴鹿川』『まゆ墨の金ちゃん』『御老中毒殺』です。

あらすじ
『女武芸者』 巌のように逞しい体躯を誇る腕っ節の強い剣客・秋山大治郎は自分の道場を持っている。もっとも、門弟はおらず出入りするものは食事の世話をしてくれるものだけであるが。そんな彼のもとに一人の男が「ある人物の腕をへし折ってほしい」という依頼を引っさげてやってきた。大治郎は隠棲のような生活を四十も年が離れた女・おはるとともに送っている父・小兵衛にその奇妙な依頼について話した。大治郎達はその奇妙で不審な依頼人について調べることにしたが……。
『剣の誓約』 大治郎のもとに父の弟弟子で、父とともに「竜虎」と謳われた人物である嶋岡礼蔵は訪れてきた。彼は自分の遺恨試合に立ち会ってほしいと頼むが、老いた彼は既に負ける覚悟でいた……。
『芸者変転』 小兵衛の馴染みの料亭・不二楼の料理人と座敷女中から相談があった。彼らは図らずも料亭に出入りしている不良御家人・山田勘助の悪巧みを聞いてしまったのだ。それは何と、大身旗本の石川甲斐守を強請ろうという計画である。小兵衛は一計を案じ、山田勘助を対処しようとするが……。
『井関道場・四天王』 女武芸者・佐々木美冬が出入りする道場・井関道場は美冬を含む四天王と呼ばれる人たちによって経営されている。最近になって四天王の中から正当な道場主を決めようということになった。そんな中、四天王の一人が殺されるという事態になったが……。
『雨の鈴鹿川』 所用あって大和国に下っていた大治郎。その帰り、関の宿場で不審な男女を見た。そのしばらく後に旧知の井上八郎と出会う。井上は仇討ちの返り討ちの手助けをするというが……。
『まゆ墨の金ちゃん』 小兵衛の友人・牛堀九万之助のもとに、三浦金太郎が現れた。彼は女のようにまゆ墨を入れている。三浦は、大治郎の命が狙われていることを話すが……。
『御老中毒殺』 佐々木美冬は知人・飯田平助を襲ったすりを飯田には何も言わずに追いかけた。すりをとっちめ、盗まれたものを取り返したが、その盗まれたものは……。




『女武芸者』最初の作品ということで、世界観を伝えるのが主な役割だと思っていましたが、この短い中によく詰め込めたな、と思えるほどの内容の充実ぶりでした。
『剣の誓約』では剣客達の強い意志を思い知らされ、うむと唸ってしまいました。それ相応の覚悟を持って剣客という生き様を貫く人たちにいたく心を打たれました。
『芸者変転』この辺りから慣れてきてすいすいと読み進んでいきました。小兵衛が格好良いです。
『井関道場・四天王』これは世渡りも上手な小兵衛の活躍ですが、最後の理屈なら小兵衛にも天罰が下るんじゃあないかなぁ。
『雨の鈴鹿川』ではずっと井上が怪しいな、と思っていて見事に外しました。ミステリじゃないんやからと自分で自分にツッコミ……。小説は幅広く読んでいかないといけませんね。
『まゆ墨の金ちゃん』これなんか読むと、「ああ、やっぱり時代小説やな」と思いました。皆剣客として自分の信念を貫き通しているんや、と。私も何か目的を持って生きなければならないかな、とも思いました。
『御老中毒殺』信念を貫き通すのは剣客だけじゃなかった。いや、田沼さんだけじゃなくて平助もです。上に書いた思いがより強くなりました。
 剣客達の人生模様が楽しい小説でした。登場人物の書き分けが巧く、愛着が湧きました。実直で剣一筋な大治郎、飄々として人生のすべてを知り尽くしたような態度をとる小兵衛、そんな小兵衛とお似合いの奥さんで年齢以上に大人びて感じるおはる、颯爽とした女武芸者・佐々木美冬。中でも小兵衛は特に気に入りました。自分もいつかは彼のような思考にたどり着きたいな……。

評価;A
posted by みさと at 13:10| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする