2015年07月10日

明日の記憶

 荻原浩さんの長編小説です。

あらすじ
 広告代理店営業部長の私・佐伯は50歳にして若年性アルツハイマーだと診断された。仕事の遂行が困難になってゆき、記憶が覚束なくなってくるのが恐ろしく感じた。娘の結婚・出産を控え、私の不安・恐怖はますます募る……。




 妹に勧められて読み始めた一冊です。私は最近社会福祉に興味があって、「こんな本があるのやけれど」と勧められたとき、迷わず読もうと決めました。
 あるはずの将来を奪い、日常を崩し、過去までも蝕ばんでゆく恐ろしい病気。こういう病気こそ周囲の理解が必要ですよね…。
 ともあれば夢の中に入ってしまいそうな不安定さが次第にページを繰っていくごとに増してくる感じがして、読んでいて自分まで不安になってきます。もし自分の身にこんなことが起これば…などと想像すると、本当に怖いです。恐怖と悲しみ、不安。それらすべてが身体にじわじわ染みこんでくるような感じがしました。
 ラストシーンは涙なくしては読めません。感動。電車の中で泣いてしまいそうになりました。社会福祉に興味ある人はもちろん、そうでない人にも是非読んでいただきたい一冊です。

評価:A
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2015年07月01日

春琴抄

 谷崎潤一郎さんの中編小説です。

あらすじ
 盲目の美女・春琴は三味線の達人であったが、吝嗇や嗜虐の気があるわがままな女性であった。少年・佐助は春琴の身の回りの世話をしていたのだが、ふとしたきっかけに年下の彼女を三味線の師匠として仕えるようになる。男女の関係を持つようになっても、春琴は佐助を旦那と認めず、佐助は弟子兼世話役としての生活を長らく続けた。
 あるとき、春琴は誰かに大火傷を負わされるが…。




 谷崎潤一郎さんは、学校の授業で読んだ『陰翳礼讃』に甚く感銘を受けて、興味を持ちました谷崎さんの本を何か読みたい、と思って家の書庫を探していて見つけたのがこの小説であります。あらすじを見てみると「被虐」とか「官能」とか書いていて「これって高校生が読んでもええんやろか…」と思いましたが、まあ江戸川乱歩さんの「芋虫」とか「人間椅子」とか読んでるし今更やなどと思いまして読み始めた次第でございます。
 先に挙げた二作品ほどエグみは少なく予想以上に読みやすかったです江戸川さんの持つ怪奇色は薄くやはり耽美派というだけあって官能的という言葉がよく合っています佐助が己の目を潰す場面には思わず自分まで目を覆いたくなりますが憐憫は殆ど感じず驚きと感嘆と少しの恐ろしさを感じました。盲目になったからこそ敬愛する春琴の永遠の美が保たれるようになったのです同時に複雑な恋愛関係もある意味でさらなる境地へ移行したように思えます中々常人では共感しがたい世界ではありますが読んでいて本当に圧巻されます。
 耽美派…。意外と好きなジャンルかもしれないです。もっと谷崎さんの本を読んでみたいな、と思いました。今年は受験勉強で中々読めないのが残念です…。

 気まぐれで句読点の使い方を真似てみましたが、素人がやったら読みにくいだけでしたね(苦笑

評価:A
 
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2015年04月05日

日本殺人事件

 山口雅也さんの中編集です。収録作品は『微笑みと死と』『侘びの密室』『不思議の国のアリンス』『南無観世音菩薩』

あらすじ
 義母のふるさと・憧れの国である日本へ移り住んだトウキョー・サム。日本は、神仏や侍の精神を色濃く残しながら西洋的文明を取り込んだ奇妙な異国であった。彼は日本で私立探偵事務所を開こうとしていたが、そうするまでもなく三つの事件に巻き込まれる。奇妙な切腹、茶室の密室、花魁の見立て殺人、彼の常識を逸脱する日本人の思考に彼は戸惑うが…。




 山口雅也さんが、沖縄の古本屋で見つけた外国人作家の推理小説を翻訳したという設定の物語です。勘違い外国人が想像したようなちょっぴり奇妙な、デフォルメした日本。大変面白い趣向でした。
 奇天烈な感じは受けるものの、案外日本の特徴を抽出・誇張したものとしては的を射てるのではないかなと思います。少し、デジャブを感じますね。
 同時に、不思議の国を冒険しているような感じもして楽しいです。幼い頃に読んだ不思議島の物語とか、小学校の頃に見ていたファンタジーアニメとかのような、懐かしいドキドキ感も感じられました。
 またミステリにこの舞台設定が上手く活かされていて、本当におもしろかったです。

評価:B
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2015年02月27日

押入れのちよ

 荻原浩さんのホラー中心の短編集です。収録作品は『お母さまのロシアスープ』『コール』『押入れのちよ』『老猫』『殺意のレシピ』『介護の鬼』『予期せぬ訪問者』『木下の闇』『しんちゃんの自転車』です。

あらすじ
 恵太は現在失業中だが、格安で条件のいいアパートを求めることができた。しかし、そこは奇妙な隣人たちに加え、押入れから明治30年生まれの14歳の女の子の幽霊が出る物件であった。恵太は初め、戸惑っていたが、次第に幽霊に情を覚えるようになり始めた…(表題作)。



今回紹介するのは妹に紹介してもらった一冊です。だいぶ熱心に勧めてくれただけあって、良い作品ばかりでした。軽い文体でさくっと読めるのも魅力です。
『お母さまのロシアスープ』は、ミステリ好きな人なら途中くらいから仕掛けがわかると思います。自分は読み始めた当初、人間じゃなくて動物か何かかな、と思っており、途中で異形の何かなんやろな、と気付きました。枯葉剤とシャム双生児に結びついたときは、ああ成る程と手を打ちました。(←ネタバレ・反転)それにしても、こういうのって結構後味重たいですね……。それも含めて、こういう話の魅力です。
『老猫』は、ちょっとポーの『黒猫』を意識してるのかな、と思いました。どこかグロテスクさや官能性を感じさせるところとか、特にそうですね……。じわじわと汚染するように染み込んでくる恐怖がなんとも言えません。
『殺意のレシピ』『予期せぬ訪問者』の狂い具合も秀逸です。
『介護の鬼』、初めに視点となる女を胸糞悪いな、と思いながら読み始めたら…意外な展開で、かなりゾッとしました。かなり恐ろしいと同時にどこか懲悪めいていてスッキリする面もあります。
『木下闇』はホラーミステリの優等生的作品。こういう雰囲気の推理小説大好きです。
『コール』『押入れのちよ』『しんちゃんの自転車』の三つは、所謂ジェントルゴーストストーリー。有栖川有栖さんの『赤い月、廃駅の上に』を読んで以来、こういう物語が大好きです。心温まり、ちょっと切なくなる。そんな感じが大好きです。いずれもミステリの要素が含まれているのもポイントですね。有栖川さんもそうですが、ミステリ作家とジェントルゴーストストーリーって凄くマッチしますよね。

評価: A
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2014年11月02日

エンドロール

 鏑木蓮さんの長編小説です。

あらすじ
 僕は映画監督への道を目指しながら、アパートの管理人のバイトをしていた。ある日住人の通報を受け、新聞が何日も貯まっている一室の扉を開けた。部屋の主である帯屋老人はラジオを聞いたまま永遠の眠りについていた。その後遺品整理をしていると遺品の中から8ミリフィルムを見つけ、ふと興味を持ってそれを見た。内容に心うたれた帯屋老人の人生に魅かれ、ドキュメンタリー映画を作ろうと思ったが……。




 孤独死というのが一つの大きなテーマの小説です。高齢化が進む無縁社会がどんどん進んでいると言われる現代、孤独死というものは結構すぐ近くに見えるようになってきました。ただそのことを憂うだけで終わるのではないのがこの小説の魅力。死んだ瞬間孤独であったとしても、その人生は決して孤独とは限りません。死に様より生き様。そのことをこの小説は教えてくれました。

評価:B
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2014年10月12日

白ゆき姫殺人事件

 湊かなえさんの長編小説です。

あらすじ
 しぐれ谷で美人OLが黒こげ死体となって発見された。鹿尾は勤める化粧会社の商品「白ゆき」に因んで「白ゆき姫」と呼ばれ、世間で話題となった。フリージャーナリストの赤星はネットや人脈を使って情報を集めはじめるが……。




 主人公が探偵役かと思いきや……。ネットやら週刊誌やら噂やらの嫌らしさを思い知らされた作品でした。
 たくさんの人の憶測を含んだ証言が合わさり、次第に現実と乖離した事件像が現れてくるのが本当に恐ろしいと思いました。
 Twitterみたいな「マンマロー」や週刊誌の記事が資料編として載せられていました。斬新な試みですが、それがリアリティーを与えていて良いなと思いました。自分もTwitterやらブログやらの発言は注意しないといけないな、と考えさせられたりします……。

評価:A
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2014年09月28日

こころ

 夏目漱石さんの長編小説です。

あらすじ
 私は海水浴で「先生」と出逢い交流を始めた。先生は奥さんと二人で隠棲のような生活を送っていた。私は毎月雑司ヶ谷の友人の墓にお参りする先生の過去に興味を持ち、聞き出そうとするが、いつか話す約束をして断られる。
 あるとき、前から腎臓の病を煩っていた父の容態が悪しいと連絡を受け、実家に帰るが……。




 学校の課題で読めと言われたのですが、思いのほか面白くて二、三日で読み切ってしまいました。さすが名作と言われるだけあって、確かに古さは感じるのですが読みにくい古さは全く感じません。

 エゴイズムが主題。明治から今と同じようなことが言われていたことに驚きです。平凡な小説は教訓が押し付けがましいことが大井ですが、この小説はそんなことはなく嫌味を感じません。これを読んで、自分の自分勝手さを見つめ直す良い機会となりました。
 危篤のお父さんを放って既に死んでいると思われる先生の元に向かう「私」もかなり自分勝手ですよね……。利己を戒めるはずの手紙が利己的行動のきっかけとなってしまうというのは皮肉に感じます。
 先生のKに対する気持ちが本当にリアルです。自分より優れた人間に嫉妬するというのはよくありますが、僕自身一歩間違えば先生のようになってしまいかねないなと思いました。少しの利己心で人の人生を奪い、自分の人生も無駄にしてしまうことがあると思うと恐ろしいです。

 漱石は以前読んだ「三四郎」があまり面白く感じられなかったので敬遠していたのですが、またたくさん読んでみたいと思いました。「夢十夜」辺り図書館で借りようかな。

評価:AA
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2014年08月28日

死神の精度

 伊坂幸太郎さんの短編集です。

あらすじ
 私は死神。自分の担当の相手の側につき、一週間の観察の後、可か見送りかを決めて上層部に報告する。可の場合、担当の相手は死ぬことになる。一人一人の人間とはたった七日間のつきあいしかないが、それぞれとの付き合いには、いろいろ心に残るものがある……。




 ファンタジーのような設定ですが、ちっともそういう小説にありがちな「馬鹿らしさ」がないというのが凄いと思います。もしこれが、B級のドラマやアニメ、ジュブナイルならば、見ていて嫌になるでしょうが、伊坂さんの文章では全くそんなことがありません。現実から浮いた存在である死神が、あっさりとそこに存在しています。
 この死神、人間離れしているようで、音楽が好きだったり、渋滞が嫌いだったり、人間の行動を見ておもしろがったりと、どこか人間臭くて可愛いさすら感じます。
 この中で面白かったのは、『吹雪に死神』です。ミステリの定番である「吹雪の山荘」が舞台。連続殺人でありますから、もちろん死神が何人もやってくる。全く別のジャンルの小説に推理小説の王道をぶっ込んだのですから、面白い。真相を知りたがって探偵役を買って出るところも人間臭くて良いです。
 最終話の『死神対老女』もおすすめです。死神だけでなく、人間たちの人間くささも感じられるのがこの短編集の魅力だと思いますが、中でも最終話がその魅力が一番発揮されていたと思います。

評価:A
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2014年08月15日

笑う警官

 佐々木譲さんの警察小説です。

あらすじ
 あるアパートで女性の変死体が発見された。所轄の刑事たちは、すぐにその部屋の奇妙な点に気がつくが、詳しい調査もしないまま本庁に捜査の委譲を迫られた。間もなく女性は警察官だと分かり、彼女の元カレが重要参考人とされ、銃殺許可まで降りるが……。




 随分前にレビューした「制服捜査」と同じ世界感の小説です。道警シリーズとでも言うのでしょうか。こちらも映画化されていたそうですが、知りませんでした。確かに、ドラマ向けの盛り上がる作品です。
 これも、小説の中だと、ドキドキしながら読むことができますが、本当にこんなことがあったら怖いでしょうね。世間を取り締まる立場の警察が隠蔽体質で、邪魔者を抹殺する……って、世界のどこにもあってほしくないですね。
 「制服捜査」とどちらが面白いかと言ったら、あちらに軍配が上がりますが、こちらも本当に面白かったです。

評価:B
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2014年07月20日

公開処刑人 森のくまさん

 堀内公太郎さんの長編推理小説です。

あらすじ
 悪人を殺し、ネットの掲示板に犯行声明を公表するという公開処刑人「森のくまさん」の話題で東京は満たされている。人々の畏怖の中で、次第「森のくまさん」をヒーロー視する人々が現れ始める……。




 これもかなり軽いミステリです。なんと二日足らずで読了です。単純なストーリーですが、かなりはまりますね。こういうブラックな小説は結構久しぶりで、一気に読んでしまいました。
 ミステリ的には、途中で「ああ、こうやろうな」と大体予測が立つので割と簡単。ネーミングを考えたらすぐにわかってしまいます。
 実際、正義だって行使の仕方を間違えれば立派な暴力ですよね。この小説ほどではないにしろ、世の中には誤った正義が満ちている気がします。近頃集団的自衛権やら原発問題やらで、右派も左派も極端なことを言っていますが、どちらもある面では良い処方箋となるでしょうし、ある面では暴力的なものになりうると思います。どこで縛るかが大切ですよね。

評価:B
posted by みさと at 00:17| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする