2017年05月27日

魔女の宅急便

 角野栄子さんの小説です。

あらすじ
 キキは魔女の娘。13歳のある満月の晩、黒猫・ジジを連れ、放棄に乗って飛びたった。独り立ちの日であった。キキはコリコという海辺の大きな町に降り立ち、「魔女の宅急便」屋さんを開いたが…。




 13歳の少女がいろいろな人に囲まれながら、少しずつ大人になっていくのがよく描かれていました。幼さ、おてんばさと可愛さ、そして時々覗く「大人」の萌芽がとてもよく伝わってきました。
 空を飛びたい不器用なとんぼくん、好きなひとに恋文を書く女の子、なんにでも腹巻を作ってあげるおばあちゃん…。ほかの登場人物たちも、皆どこか可愛らしくて魅力的です。正月や春の音の話といったストーリーの展開もほのぼのとしていて良い感じです。
 また魔女の魔法がだんだんと失われていっているという描写が印象に残りました。伝統の価値が云々を議論されるまでもなく、「めんどくさい」などの無邪気な、無垢純粋な心情から文化や伝統が失われていくのだというのが象徴的に描かれている気がしました。私は文化主義的な考え方をしがちなのですが、その消失は責められるようなものではないのが難しいところであります…。
 とにかく、読んでいて楽しく癒される一冊でありました。

評価:B
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2017年05月13日

精霊の守り人

 上橋菜穂子さんのファンタジー小説です。

あらすじ
 バルサは熟練の女用心棒。ある日川に落ちた新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムを救う。そのことをきっかけとして、バルサは精霊の卵を体に宿し、父に狙われるようになったチャグムを護衛することになるが…。




 妹が好きな作品で、中高を通して友達からも何度かおすすめされていましたが、大学生となった今になってはじめて読みました。昔はファンタジーが苦手で、どうも読むのが照れくさいと思ったり、中学時代宮部みゆきさんの『ブレイブストーリー』に挫折したりした経験もありましたが、大変楽しく読むことができました。中学時代などは「この年になってファンタジーは、、、」という風に考えていたのですが、今思えば背伸びしてかっこつけているようで、そのことを思い出す方が照れくさいです笑
 さて、この小説の読みどころは、精緻に作られた世界観。文化人類学者というだけあって、特に先住民族・ヤクーの風俗描写が物凄く上手です。家に入る敷居の前で二度足踏みする厄落としなどの風習やヤシロ村の立地・地形・衣食住の描写などがきわめて具体的にかつわかりやすくあらわされており、立体感といいますか、世界が生きたものとなっている気がします。特に鳥<ナージ>の骨を垂らした村境の道切り縄の持つ意味合いは物語の根幹にかかわっており、作者が民俗習慣の観察に慣れていることがよくわかります。
 またヨゴ人とヤクーの関係は、現実世界の国家を思わせます。ヤシロ村などの国家周縁部においても先住民族と支配民族の混血がおこなわれ、「ヤクー」が消滅しようとしている。言語はヨゴ語に統一。風習もクレオール化が進む。しかし、それでいてなお、首都のヨゴ人はヤクーを蔑視している。豊作を祈る夏至祭りの持つ意味も帝祖の偉業を称えるものに変化している。こういうところも、筆者が背景とする文化人類学が強く活かされていて良いです。ある意味この小説を読んだのが大学で文化人類学を少しかじってからでよかったとも思えます。
 バルサが無敵の超人ではなく怪我もし、また星読博士たちが権力闘争に熱を上げたりしているのも、人間臭くて、物語の立体感を助けています。
 テンポの良い物語進行、覇気のあるアクションシーンもあり、かなり読みやすく、読んでいて爽快でした。また続編も読んでみたいです。

評価:A
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2017年04月20日

コンビニ人間

 村田沙耶香さんの小説です。

あらすじ
 古倉恵子は就職もせず、コンビニバイトを続けて18年になる。36歳で、未婚。子供のころから「普通でない」と言われた彼女が「普通」として生きられるのがコンビニバイトという形であった。しかし、彼女が「普通のコンビニ店員」として18年も働き続けるのは「普通でない」と周囲の人は思っており…。




 去年だったか、芥川賞を受賞した作品ですね。「普通であれ」という社会の要請は確かにあります。思春期などはそれをあえて逸脱しようとしたり、それを超えると、その要請に従おうとしたりするものであります。
私は幼いころ、その要請に恐らく気づかずに無視し続け、恵子さんのように「変わった子」と思われたり、中学時代はその世代の子供にありがちなようにあえて抜け出そうとしたり(いわゆる中二病ですね)…。一転中学の終わりごろからは普通であろうとあがいていた記憶があります。一度立ち位置が成立した後普通に戻ろうとするのは極めて難しいものでしたが。特に中高一貫校だったので、心理の変化に応じて立場を変えるのが容易ではありませんでした。
 今ではよくも悪くも人の望む「普通の」大学生に成り下がっている自分に気づきます。それがいいのか悪いのか…真実の自分は「普通」なのか、そうでないのか…。しかし、人はそれ単独で存在できるというわけではなく、他者や世間とのかかわりの中で自己というものを形成しているということを考えると、やはり「普通の」今の自分が自分であるのでしょう。恵子も「普通」から逸脱しているとはいえ、周囲の人の影響を受けながら彼女の「普通」でない自己を形成している。それって何か皮肉な気がします。
 「普通」というものを深く考えさせる良い作品でした。

評価:A
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2017年04月18日

D坂の殺人事件

 江戸川乱歩さんの短編集です。収録作品は『二廃人』『D坂の殺人事件』『赤い部屋』『白昼夢』『毒草』『火星の運河』『お勢登場』『虫』『石榴』『防空壕』です。

あらすじ(表題作)
 私はD坂にある喫茶店「白梅軒」で変わり者の友人・明智小五郎と話しながら珈琲を啜っていたところ、向かいにある古本屋の異変に気付く。駆けつけると、古本屋の細君が首を絞められて倒れていた…。




 久しぶりの乱歩作品です。ワンゲル合宿のお供に読みました。推理小説を中心に、色々な作品が収録されています。ちょっとネタバレ注意かもしれません。
 収録作品の中でも一番有名なのはやはり表題『D坂の殺人事件』でしょう。明智小五郎の初登場作品。中学時代(ですから五年ほど前?)に読んだことがありましたが、意外と結末を忘れているものでした。ミステリマニアだった中学生のころを思い出して少し懐かしい気分になったり…。
 『二廃人』も以前読んだことがありましたが、それでも結末には唸らされました。個人的には『D坂〜』よりもこちらのほうが好み。
 『赤い部屋』。気味の悪いブラックな話。こういうテイストが乱歩の醍醐味ですね。どんよりとした夢幻の空気が陳腐な本性を現すという結末も示唆的で、架空の小説の儚さを感じさせて好きです。
 『白昼夢』『虫』はよく似たテイストのお話。大人向けの乱歩小説らしい、とことんグロテスクながらもどこか美しさを持ったよい作品です。
 『毒草』は当時の貧しい庶民の暮らしを黒く痛烈に描き出した話でした。
 『お勢登場』は他作品ほどの後味の悪さはありませんが、かなり完成度の高いお話な気がします。乱歩版『玄鶴山房』といったところか。主人公の悲惨な運命にかなり辛くなります…。
 『火星の運河』は少し幻想的な、乱歩にしては異色の作品。と思いきや肉感的な美しさ、気味の悪さがあり、やっぱり乱歩。なかなかに好きな掌編です。
 『石榴』はザ・推理小説といった感じ。『二廃人』と同じ空気を持つ佳作です。
 『防空壕』も異色作です。切ないような、恥ずかしいようなお話。
 どの作品も短いながらも、それぞれ読み応えのある良作ばかりでした。久々の乱歩ワールドを満喫できてよかったです。

評価:B
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2017年02月20日

四畳半神話体系

 森見登美彦さんの小説です。

あらすじ
 私は京都大学の三回生。バラ色の大学生活を夢見ていたが、実際のそれは無気力と暗い情熱に包まれた奇妙なものとなっていた。唾棄すべき親友で宿敵でもある小津、孤高な後輩の明石さん、超然とした不思議な自由人・樋口師匠に囲まれて送る私の奇天烈な青春物語。




 京大生の教養のようなところのあるこの小説。大学一回生も終わろうとする今頃、妹に勧められてようやく読みました。
 現実の京大生はここまで奇天烈な生活を送っているわけではありませんが、主人公の感情は京大生男子ならある程度共感できると思います。女っ気もなく(男女比4:1だから仕方ない^^;)、勉強にも左程熱心というわけでもなく、おふざけと怠惰で結構な時間を過ごしてしまう…。作中の主人公はよくいる京大生像を強調しつつも忠実に再現している気がします。
 この小説で示されているのは、人生多少の選択の違いがあっても結局のところ境遇はそう変わらないということ。絶対そうというわけではないでしょうが、自分の性格が変わるわけではないのですから、ある程度真な面もあると思います。「あのときこういう選択をしていれば…」という後悔をすることはよくありますが、ひょっとしたらその選択をしていたとしても現実と最終的な結果は変わっていなかったのかもしれない…。そう思うと、行動判断をもっと思い切って為すことができるようになる気がします。
 ちなみに実在のお店や町名が登場してニヤニヤとしてしまうのもこの小説の醍醐味の一つ。猫ラーメンというのもどうやら実在するようで……。

評価:B
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2017年02月16日

夜叉ケ池

泉鏡花さんの戯曲集です。収録作品は『夜叉ケ池』『海神別荘』『天守物語』です。

あらすじ(表題作)
 三国岳の麓、琴弾谷。萩原晃は妻・百合とともに鐘楼守をしていた。明六つ、暮六つ、夜中丑満に一度ずつ撞かねば、山奥にある夜叉ケ池の水があふれて田地田畠、陸という陸が水に呑まれるという伝説があるのだ。村の信仰も最早廃れ、百合と外から来た自分だけが迫害されながらも鐘の信仰を守っていた。ある旱の夏、晃の旧友の文学士・学円が偶然訪れたが……。




 最近はまりつつある鏡花さんの戯曲。夜叉ケ池、三国岳はワンダーフォーゲル部で訪れたことがある場所でありまして、そのときまでにこの本を読んでいたならばもっと楽しめたのに、と悔しく思うところであります。夜叉ケ池までは登山道もあり、ミニアルプスといった体で景色も美しいところでありました。ところが池を抜けて三国岳のほうへ参りますと、次第に道も消え失せ、完全なヤブ山になります。ワンゲルは精神力の鍛練とルートファインディング(読図)能力の強化のためわざわざヤブに突っ込むなんてことをしているのです。あの時は『夜叉ケ池』という作品の存在は知っていたのですが、「ここが鏡花の戯曲の舞台か」という感慨も何もなく、「ヤブ!痛い!辛い!」みたいな感じでうんざりとしながら歩いていた記憶があります。
 閑話休題。『夜叉ケ池』、かねてより聞いていた通りの名作でした。人の手も入らないヤブ山の鞍部にある涸れることのない大池。未知の領域が大きく神秘性を帯びており、このような小説の舞台にぴったりです。失われつつある伝説を巡って行われる村人たちと晃たちの応酬が個人的には一番の良い場面だと思います。昔話ではなく、現代(執筆当時)を舞台としているのもポイントですね。
『海神別荘』は人間の小ささ、浅ましさがややSFチックな物語を舞台に描き出された佳作。舞台設定としてはSFに近い話なのに、ヴェルヌなどの雰囲気とは全然違います。鏡花の美しい文体ではまた日本の民話であるかのような印象を受けます。
 『天守物語』は人ならぬ者たちの描写が中心のお話。彼女らの美しさ、そして気味悪さが鏡花らしい文体でじわりと沁みてきます。ちなみに、作中で夜叉ケ池の話が出てきておっと思ったり。後半にて妖美な夫人が人間の乙女のように恋い焦がれる様子の描きっぷりはは本当に流石といった感じです。
 鏡花作品のいずれにも言えることなのですが、鏡花は起承転結の「転」が上手だと思います。美しさはそのままに物語が急展開していくダイナミズムは鏡花作品の大きな醍醐味なのかもしれません。

評価:A
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2017年01月29日

高野聖・眉かくしの霊

 泉鏡花さんの小説です。

あらすじ(高野聖)
 ある旅館での夜ーー道連れの僧は飛騨山中の峠越えのとき体験した不思議な出来事を語った。行く道に横たわる大蛇に、雨のように降り注ぐ蛭の森、そして妖しくも美しい女性の暮らす峠の一つ家……。鏡花怪奇譚の名作の一つ。




 以前アンソロジーで読んだ『薬草取』に魅せられ、鏡花をしっかり読んでみようと思い、生協で購入した一冊です。
 妖しく幻想的な中に、どこか俗っぽさというか、親しみやすさが混じるのが鏡花の特徴なのかもしれません。これのあるおかげで不思議な世界に自らを没入させてくれるのかもしれないと思いました。
 鏡花の怪奇譚は妖しさ、気味悪さ、恐ろしさと同時に絶妙な美しさが存在しています。風景や世界観はもちろんですが、『高野聖』ならば、一つ家の女の妙に肉感的で、艶めかしい描写。俗なるもののような、聖なるもののような不思議さに幻想的な靄がかかったような美しさが感じられました。そしてここに「白痴」とされる少年を配することで女の妖しさが増しています。また僧侶も語り手に対して気安い態度をとり、また最終的に女に心惹かれるという俗性を持ちながらも、女に惹かれるのは性欲などではなく「白痴」にたいする優しさを持っているところに由来しており、動物に変えられることもなかったという聖性をも持っているのも一つ。聖俗の交わり、幻想的な美しさの両方がよく顕れており、そういう点で鏡花の良さがよく表れた作品といえるかもしれません。
 ちなみに蛭の森の描写も見どころの一つだと思います。自分はワンゲルで蛭にひどくやられた経験がありトラウマを抉られたということもあるかもしれませんが(汗)、気味悪さがひどく印象に残りました。この肉感的な気持ち悪さが幻想性を帯びた物語のよいアクセントとなっているように思います。

『眉かくしの霊』も佳作。先にもあげた鏡花の魅力がよく伝わってくる作品です。雪の山国のさびれた旅館というのも物語によく合っていて、聖性と俗性の交錯する地点としても、美しさ、妖しさ、そして儚さを醸し出す舞台としてもよく機能しています。日本の伝統的な怪談の妖美さが感じられる短編です。


評価:AA
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2017年01月03日

ピーター・パンとウェンディ

  ジェームズ・M・バリーさんの小説です。

あらすじ
 ウェンディら三姉弟の家にピーターパンが現れた。彼は三姉弟に魔法の粉へとふりかけ、ネバーランドへと一緒に飛び立った。人魚、人食いワニ、インディアン、海賊たちの待つネバーランドではピーターパンを中心に様々な冒険が繰り広げられる。




 ものすごーく久々の海外小説。児童文学と言いつつも、かなり残酷な描写があり、いろいろ深く考えさせるところがあったり、結構大人向けな印象を受けました。「本当は怖いピーターパン」なんていう話(これは大人になった迷子を間引くという記述からだったかと)を聞いた事がありますが、確かに…。なんとなくピーターパンにヒーロー的なイメージを抱いていたので、見事に破られて結構ショックを受けましたが、おもしろかったです。
 ネバーランドというのは、子供達が作る想像の世界なのではないでしょうか。小さい子供って、「ごっこ遊び」をよくします。そうした遊びをするとき、私たちはある一貫した世界(ときにはそれは夢の中にも通じます)を作っていたかと思います。それがネバーランドなのではないでしょうか。三姉弟がある程度共通したネバーランドを持っていたのは同じ環境で育っていたから。そして、ある程度「ご都合主義」もそうした想像の世界では問題がありませんし、ネバーランドにいる間いろいろなことをする「フリ」をして済ませていたのもそうしたことの暗示なのかもしれません。また想像世界の象徴たる妖精・ティンカーベルの死は子供達が大人になってそうした世界が失われたことの象徴とも言えそうです。
 フックを見栄っ張りで冷酷な大人像を崩さないまま殺す一方で、大人の代表格であるウェンディのお父さんが同じく見栄っ張りで卑怯なのにやけに子供っぽく書かれているのが面白いです。この小説は大人と子供を大きく分けているようで、通底するところがあることを認めているのかもしれません。

 この本を読んで、つまらない大人になることに嘆きながらも、それを何の抵抗もなく受け入れようとしている自分に気がつきました。ピーターは記憶を積み重ねないから大人になれない(+なりたくない)のかなぁ、なんて思ったり。

評価:B
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2016年12月12日

少女

 湊かなえさんのミステリ小説です。

あらすじ
 親友の自殺体を目撃した。転校生・紫織の告白に、由紀と敦子、二人の少女は衝撃を受けた。由紀はそれに自慢めいたものを感じ自分はそれ以上のものを見たいと思って、敦子は死体を見たら死を悟ることができるのではないかと思って、それぞれ人の死を目撃したいと願うようになる。そのために由紀は小児科病棟、敦子は老人ホームへとボランティアに行くことにしたが…。




 『告白』『しらゆき姫殺人事件』以来に読んだ湊かなえさん作品。最近映画化されたらしいのですが、それを今日人に教えられて知るという…。高三以降テレビを全然見なくなっているので、世間から取り残されつつあるような気がします(苦笑)。
 さて、ミステリを読んだのがかなり久しぶり(大学生になって初!)でしたが、この小説は本当に精巧に構成されていると思いました。あらゆる記述が伏線となっていて、次々と話がつながっていく様子が気持ちの良いくらい見事でした。
 登場人物群。臆病で人の目を気にしながら生きている敦子。達観して(したつもりになっていて)、他者を下に見ている由紀。彼女らの個性の強さは現実の人間と乖離しているように見えますが、実際多くの人が持っている性質をデフォルメして描いているように思えます。作中に描かれている彼女たちそれぞれの恐怖感、優越感、劣等感などの感情や文章から感じられる視野の狭さ。人間、特に思春期の思考を痛烈に描いていると思います。自分の中高時代の思考を思い出しても、彼女らに重なるところが多く、胸の中がじんじんとするようでした。
 ハッピーエンドで終わるならば中高生の妹や後輩に勧めたいと思っていたのですが、まあこの内容なので。思春期真っ盛りでも、それを過ぎていても、ある程度精神的に落ち着いているときに読んだほうが楽しめるだろうと思います。

評価:A
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2016年11月25日

霧の向こうの不思議な町

 柏葉幸子さん作の児童向けファンタジー小説です。

あらすじ
 小学6年生のリナは父親に提案され、一人で霧の谷へと旅へ出た。小さな田舎町から誘われるように霧の谷の森を抜けると、そこにはどこか日本離れした洋館の立ち並ぶ不思議な町であった。会う人会う人がどこか普通と違う、へんてこりんな町。リナはこの町で働きながら夏休みを過ごすことになるが…。




 映画「千と千尋の神隠し」の原作ということで手に取った一冊であります。児童文学というものを久しぶりに読んだわけですが、読みやすく、面白く、それでいて教訓的な意味合いを持たせていて、ものすごく作りこまれていることがよくわかりました。
 「千と〜」ではアジア風(和風?)な異世界が描かれていますが、『霧の向こうの〜』ではヨーロピアンな世界観。そんな異世界に神社という極めて日本的な空間からつながっているのが面白いです。
まためちゃくちゃ通りは現実世界とは大きくかけ離れているはずなのに、非現実的な浮遊感がないというところも好感です。登場人物の描かれ方がそうさせているのでしょうか。登場人物のもつめちゃくちゃさがどこか私たちの持つめちゃくちゃさに通じている気がします。彼らのめちゃくちゃさを私たちはどこか滑稽に思いながらこの本を読んでいますが、私たち自身も多かれ少なかれ彼らのようなめちゃくちゃさ(非道理さ)を持っていると思います。ある意味親近感を感じるからこそ、彼らに滑稽さを感じるのではないでしょうか。加えて、登場人物は皆私たちが持つべき優しさを持っています。彼らの優しさは彼らの魅力を作るだけでなく、私たちを彼らの近いところまで持ってきてくれているのではないでしょうか。
 優しく、親しみやすく、心躍る良い作品です。児童文学ということで敬遠せず、ぜひ一度お読みください。

評価:A
posted by みさと at 10:19| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする