2020年05月26日

近代天皇制と古都(高木博志)

 高木先生は京大の人文研の先生で、授業を取っていることもあって、今期一番論文を読んでいる方。高木先生は天皇制や文化財に関して造詣が深く、本書は「古都奈良」、「古都京都」、「陵墓と世界遺産」の三部構成で近代日本国家の創出と古都の関係を論じています。
奈良は神武創業に始まる神話的古代を表彰する場、京都は日本独自の国風文化や海外に開かれた安土桃山文化を表象する場として顕彰され、天皇を中心とする統治体制の構築に貢献しました。

象徴的なのは、橿原市に作られた神武陵・橿原神宮。神武陵は近世丸山(畝傍山麓)とミサンザイ、二つの候補地があったのですが、丸山には洞という被差別部落があったためという政治的判断で、塚も何もない(寺の基壇跡をつかと勘違いされていた)ミサンザイに神武陵が創建されます。その後、神武帝の橿原宮を顕彰した橿原神宮が創建され、畝傍山・橿原神宮・神武陵が一体として整備が行われて生きます。(洞部落は神武陵を見下すということで移転させられました。)

昨年、百舌鳥・古市古墳群が世界遺産に登録されました。これは「古墳時代の文化の物証」「土製モニュメントの建築的到達点」として評価されたものとのことですが、天皇陵の整備は近代「日本」の創造の過程で整備されたという経緯が縦走しており、古代と同時に近代の遺産としても評価しても良いのではないかとも感じます。(「大仙古墳」ではなく、「仁徳天皇陵」のような名前で登録されたため、議論を読んでいますが、ここには文部科学省の文化財制度「開かれた文化財」と宮内庁の皇室財産「閉じられた文化財」の制度の問題があるとのことです)
 

史料を綿密に収集したかっちりとした研究で、大変勉強になりました。史学系の人はすごいなぁ、とつくづく思います。歴史的な知識をもっとつけないと、、、。
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2020年05月21日

文人世界の光芒と古都奈良ー大和生き字引・水木要太郎(久留島浩・高木博志・高橋一樹編他)

この本は大和の郷土史家として名高い水木要太郎(1865-1938)の残した史資料のコレクションを題材にした共同研究をまとめたものです。
水木は明治42年に前任の郡山中学から奈良女子高等師範学校(現在の奈良女子大)の国語・漢文部の教授に就任し、そうした中で、水木は奈良県を中心に古代から近世に至る膨大なコレクション(古文書、古瓦、会が、書籍、建築部材…)を形成します。自身論文を書くことはありませんでしたが、古文書学の権威で文化財行政に深く関わった黒板勝美他中央のアカデミズムと深い交流をもち、奈良県史跡勝地調査委員として活躍するなど地方と中央の渡し舟となりました。

「竜田」研究の参考に、と分野の先生にお貸しいただいた本です。アカデミアと地域の文人的知識人の関わり、明治20年代江戸開府300年を機に盛んになる「江戸趣味」、学知と連動した修学旅行…興味深い内容が目白押しなのですが、近代史の勉強をきちんとしていないため、断片的な知識としてしか頭に入ってきていない気がします。また読み直さなきゃ、と思う本の一つです。歴史学ってかなり他の分野との接点の多くとっつきやすいイメージがあり、造園学や歴史地理学を先行研究に歴史を扱った卒論を書いたときも史料批判の難しさ以外そこまで思わなかったのですが、最近史学系の本や論文を多く読むようになって、自分の研究の浅さに気づき、現在自信を無くしているさなかです。
 この本に寄稿している高木博志先生と、丸山宏先生は近代の文化財に関する研究が多く、読み漁らなきゃなぁ、と思っています。(高木先生は京大人文研で文学研究科から授業を開講しているので、履修しています。残念ながらオンラインですが)
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2020年05月08日

奈良県の百年(鈴木良)

 鈴木良編、山川出版の県民百年史シリーズの一冊です。最近は何冊もの本を並行して読んでいるので、通読し終えることが減ってしまっています。大学院の研究で「竜田」というフィールドをもとに近代奈良県の名所整備について行う予定なのですが、その基礎勉強にと思って読みました。
この本の中心となる鈴木さんは近代の部落史の研究で有名な方ということもあって、被差別部落の存在が奈良の近代史において大きな役割を果たしていたということが強く印象に残りました。奈良県は全国水平社発祥の地(御所市柏原)でもあり農民運動、労働運動などと結びついていたというのももちろんですが、「聖蹟」の創出にもその影を落としています。神武天皇陵の治定には洞部落の存在が決定しており、また神武天皇陵-橿原神宮の神苑の創出の過程で天皇陵を見下ろすということで洞部落は移転を余儀なくされております。

日本は文明開化、国民国家の形成の中で自国の歴史を見直す、創出する必要に迫られますが、その中で博物館というものが登場します。東京、京都とともに真っ先に帝国奈良博物館の置かれた大和は、神武帝が治め、平城京に藤原京などの史跡に満ちています。いわば大和は国全体が博物館であり、建国の聖地であり、そうした皇国史観とともに文化財の整備が進んできました。

ある特定の地域を研究する場合でも、国全体の潮流や地方の歴史を抑えた上で研究することは重要だと思います。文化財制度史や奈良県の近代史をもっと勉強しないといけないと感じます。
 このシリーズ、隣県である大阪のものも読んでおきたいな、、。
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2020年04月15日

奈良県の歴史(和田萃他)

修士論文のフィールドにしようと思っている奈良県の通史を知りたいと思って古本屋で購入した本。執筆陣は和田萃さん、安田次郎さん、幡鎌一弘さん、谷山正道さん、山上豊さん。
 山川の県史シリーズ。修士の研究の基礎勉強として通史を押さえておきたいと思って読みました。原始・古代は日本通史とかぶるということでか、近年の発掘調査の紹介などが中心、考古学や古代史の知識のない自分にとっては少し応用的すぎた感じがします。一方で、中世以降は歴史の叙述という感じになっており、かなりわかりやすいです。興福寺という巨大な寺社勢力の影響の変化というものが大和の歴史を考える上で鍵になっているのを強く感じました。
 近代になると御陵の治定や橿原神宮の整備を始め、大和が建国の聖地とみなされ各所で顕彰運動が盛んとなって行きますが、ここが面白くて自分の研究にも関わってきます。鈴木良さんや高木博志の本も読んでもっと詰めよう…。
本書で書かれていたのですが、奈良県は国立博物館や奈文研、橿考研はあるものの、歴史資料館や文書館はなく、考古学研究は盛んなものの、(とりわけ近世以降の)歴史研究があまりできる環境が整っていないということ。公的な県史も未だ編纂されていません。確かに、私も卒論で頼ったのは県立図書情報館。斑鳩町での調査でも機関があるのは古代ばかりで、近世近代が注目されていないのを強く感じました。逆にここがまだ研究の余地が多く残っている、と思えば良いのかも…?
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2020年04月09日

大和川の歴史-土地に刻まれた記憶(安村俊史)

柏原市立歴史資料館館長の安村俊史さんによる大和川の通史です。安村さんのご専門は考古学ですが、この本では自治体の資料館館長の経験による歴史学的な手法も多く使われています。 一般向けのわかりやすい語り口で読みやすい書籍だと思います。

通史と言っても基本的に古代と近世が中心で、古代は古墳、古道、宮跡など河内/大和の遺跡との関わりが主な内容で、近世は大和川の付け替えの話が主な内容であります。
大和川の付け替えについては柏原市の小学生は皆郷土史の授業で習ったことでありますが、大学院生となった今、改めて勉強すると、いろいろな気づきがあるものです。どのような一次史料を使っているのか(一般向けの本なので省略しているところも多いですが)ということはもちろんですが、小学生の頃は、歴史小説的な伝承と、史料に基づく歴史の区別がついていなかっだのだな、ということに驚かされました。
例えば中甚兵衛は大和川の付け替えを主導したヒーロー的なイメージがありましたが、この本では中家文書や柏原家文書などの史料をもとに、実は甚兵衛らの運動は孤立気味で虚偽の押印をするなどかなり無茶な行動をしており、付け替えは民衆の運動のみではなく様々な事情の折り重なった結果であるということを明らかにしています。個人的な関心としては、中甚兵衛のイメージ論、言説論みたいな研究をするのも面白そうだなぁ、と感じました。
また大和川の付け替えの背景として、17世紀人口の急増によって建築材や薪炭材の需要が増えて山林が過剰利用されるようになって森林の水源涵養・土砂災害防止の機能が低下し、土砂の流出が増えて河川が天井川化が進み、洪水被害が大きくなったことが挙げられます。この点も林業のサークルに入っていた身としてとても面白かったです。
近世の研究でも考古学的な調査が行われていることは知識としては知っていましたが、実際の内容を知れて興味深かったです。
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2019年11月11日

「旅」の誕生(倉本一宏)

 卒論で紀行文を扱うことから、「旅」や紀行文についての通史的な知識を入れたいと思って手にとったのがこの本。倉本さんは古代政治史が御専門ですが、この本は中古から近世に至る紀行文学を題材に書かれています。

 古代には、人々の「旅」は国司の着任・帰任や、調・庸などの租税の輸送や防人など兵役への従事のための「移動」に限られていました。中古の『伊勢物語』が「旅」に焦点を当てたはじめの文学作品とされ、後代の紀行文学にも強い影響を見せます。『土佐日記』や『更級日記』がこれに続きますが、この時代の紀行文はいずれも創作性の強いものであります。
 中世になると鎌倉に政治の中心が移り、双方の公使の往来や訴訟・陳情の移動、行商人も現れて交通量が増大し、宿が形成されて行きますが、ほとんどが目的を持った「移動」にとどまります。京・鎌倉往還の増加や文字や紙、仮名文学の普及によって「旅」そのものを描く紀行文学が増加して行きます。この時代の紀行文学は定めなき人生の縮図をも思わせ、自照的な性格を持ちます。『海道記』『とはずがたり』などが挙げられ、中古には三人称的視点であることが多かったのですが、一人称へと移り変わっていくのも特徴です。
近世になると伊勢参詣という契機もあって、武士階級や庶民も含めた遊学や物見遊山の「旅」がされるようになり、多くの紀行文学が描かれます。松尾芭蕉の『野ざらし紀行』、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』のように多様な展開を見せます。

 『伊勢物語』の影響が強いと先述しましたが、興味深いのが、宇津の山に山伏と出会う紀行文がやけに多く、恐らくはそこに山伏がたむろしており、『伊勢物語』を再現して満ちゆく旅人を感動させようとしていたのだろうという推測です。景観を古の故事や文学になぞらえてそれらしく整備した名所は現代でも数しれませんが、中世にこのようなパフォーマンス的な名所の再現がなされていたというのが(事実であれば)中々驚きであります。

 こうした紀行文においては過去の文学が強く参照されますが、とりわけ松尾芭蕉は過去の文人の跡、歌枕を追って旅を行います。歌枕は、ある意味文学作品によって観念化された「場所」でありますが、芭蕉はその地を実際に歩き、実体化していくと同時に新たな名所を生み出していきました。このように、文学が旅を生み、その旅が新たな文学を生むという円環的な図式がここには見られます。
 なんとなく俳句に惹かれることが度々あったのですが(これまでは一茶や山頭火など)、この本を読んで一層関心が強まりました。また勉強しようと思います。

 軽い語り口の一般向けの本ですが、大変興味深く勉強になりました。
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2019年05月22日

古文書はじめの一歩(油井宏子)

 くずし字の入門書です。油井さんは歴史畑出身の方で、中学校教師をへて、NHK学園の古文書の講師をしている方。本書は山城国上狛村の「南組夜番帳」が題材で、漢字が中心となっております。
 上狛は祖母の実家があり、さらにいうならこの夜晩帳は祖母の実家の本家の文書であり、面識のある家の所蔵文書であるため、かなり親しみを持ってテキストに取り組むことができました。
 くずし字に触れたのはこの本が殆ど初めてでしたが、解説はかなり詳しく易しく、抵抗なく入ることができました。一つの史料を読むだけで、結構共通する文字が出てくることが驚きでした。分量的に少し物足りない感があるかもしれませんが、初学者には平易なのが嬉しい。
 今期は国文学系のくずし字の演習の授業を取り、本格的に勉強を始めました。こちらはひらがな中心ですが、仮名漢字を問わず読めるようになりたいものです。
 私は地理学や建築学の基礎を積んで、研究は近代造園史が対象のつもりですが、くずし字が読めれば、使える史料の幅も研究の射程も広がるだろうなぁと感じます(もちろん、今更国文学や史学の本職のようになれるとは思っておりませんが、、、)。
 実家にも古い文書があるのですが、これも読めるようになったら楽しそう。手法の勉強って、割と退屈なことが多いのですが、崩し字は色々と夢が広がって楽しいです。
posted by みさと at 20:14| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(歴史学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月30日

歴史のなかの家族と結婚 ジェンダーの視点から(服藤早苗監修)

 服藤早苗監修、伊集院葉子/栗山圭子/長島敦子/石崎昇子/浅野富美枝執筆。女性研究者五人によって、家族・結婚・女性史をざっと概観しています。
 『家と村の社会学』を読んで以来、「家」や「家族」についての興味が強くなって来ました。結婚も遥か彼方ではなくなっているという年齢に加え、旧庄屋家で自営業という自らの出自も「家」について意識が高まることに資している気がします。
 平易で読みやすく、このジャンルの入門書にはぴったりでした。夫婦別姓論争を始め、「家」「家庭」やジェンダーの問題は、しばしば歴史的事実に反するかなり無責任な議論が繰り広げられています。私も断片的に知識があるため、そうした議論を聞くと首を傾げながらも、自分自身無責任な反論しかできないのをもどかしく思っていました。
 私たちは、普段「昔は〜」というとき、その「昔」の指すものは精々戦後や近代、どんなに戻っても近世にすぎません。「伝統」と呼ばれるものにも、明治維新やGHQの戦後体制で生まれたものも多く含まれます。いくつもパラダイムをまたいだものは、歴史的知識がないと見えないのです。
 肌感覚で「昔」や「伝統」、あるいはそれと比較した「今」「現代」を語るのは、軽率で誤りを招きます。過去対現代の二項対立で社会問題を考察しては、視野狭窄を免れ得ません。「昔」は歴史であり、単一のものとしてみることは誤りです。通史的な把握をしてこそ、社会問題の本質をつかめるのだと思います。

 とは言いながらも、私も「近代」「モダニズム」を考えるとき、前近代との比較で近視眼的に見がちであります。分析の内容によってはそれでも的を得ることもあると思いますが、歴史がグラヂュアルに変化するものであるということ、(さらには地理的な偏差もあること)を常に頭において思考していきたい、と自戒を込めて記しておきたいと思います。
posted by みさと at 23:58| 奈良 ☔| Comment(0) | 読書(歴史学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月21日

日本の歴代総理大臣がわかる本(岩見隆夫)

 岩見隆夫さんの、戦後首相のことをまとめた本です。

 父に借りて読みました。よく知っている首相から、全然聞いたことのないような人まで色々ありました。
 面白いのは、首相たちの人となりが分かることですね。読んでいて、どれだけ批判にさらされている首相でも、やっぱり非凡だったんだと思いました。良いことでも悪いことでも、ほんとに大物って感じがします。
 戦後の政治史なんて殆ど知らなかったので、本当に勉強になった一冊です。まだ一五歳の私が知っているのはせいぜい郵政改革以後。一通り戦後を知ることができて、驚いたこともたくさんありました。自民党と社会党が連立していたとか、社会党に右派左派があったとか、皇族宰相がいたとか……。

評価:B
posted by みさと at 17:24| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(歴史学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月15日

天皇家はなぜ続いたか(梅沢恵美子)

 梅沢恵美子さんの本です。天皇家の誕生について邪馬台国の関係を重視しながら書かれています。
 読むのに時間はかかりましたが、古代史に興味を持つ身としては実に興味深い一冊でした。ついつい見過ごしがちな「トヨ」の存在に注目するとこんな仮説が立つとは……。感嘆しましたね。突っ込みどころがない訳ではないのですが、理路整然とした文章でした。これからもっと多くのこういう文章を読んで、自分も古代について深く考えていきたいと思います。

評価:B
posted by みさと at 19:02| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(歴史学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする