2020年06月08日

フィールドワーカーズ・ハンドブック(鏡味治也他編)

 文化人類学は入門書っぽいものばかりたくさん読んでいる気がするのですが、今回も入門書。日本文化人類学会監修、2011年の書です。
2017年に祖父江孝雄の『文化人類学入門』、2016年に内堀基光他の『改定新版 文化人類学』を読んで、前者は概説、後者は各論だった記憶。今回読んだのは方法論。読む順番、概説→方法論→各論のほうがよかったな、という気がしますが、行き当たりばったりの読書なので院生になって漸く方法論の本に至りました。
 文化人類学は、もともと植民地に対する研究として発展しました。研究対象に身を投じ(参与観察)ながら、自らと他者の差異をてこに自らを/他者を相対化し、アブダクション(発想)を創出するという過程は、社会学や民俗学などと似ているようで、かなり立脚点に違いがあります。
社会学など一般的な社会科学では、何か仮説を立て、それをもとに社会調査を行う。質的調査を行う場合でも質問項目を用意することが多いです(構造化されたインタビュー)。一方で文化人類学は、何も仮説を立てないことも多く、インタビューをする際も調査者の調査内容に応じて誘導しつつもできるだけインフォーマントに自由に語らせるような「構造化されていないインタビュー」や雑談の中から対象の世界を探る非公式インタビューを中心に行います。調査者のもつ価値観、固定観念に縛られないように、対象の世界を導くことが重要なのです。
この本を手に取ったのは、地域調査をおこなうものとして、質的調査の方法論を学びたいというのが動機だったのですが、実際読んでみると、人類学的質的調査を行う場合に限らず非常に参考になる内容でした。自分の価値観を相対化するということは、当然のことのようで中々難しいものです。私たちは自らの持つ知識を以て世界を分節し、意味化しているのですから、それを相対化するというのはよほど意識しても完全にはできないものです。
他者(他国の人だけでなく、日常生活でつきあう他人や風景も)の観察を通じてそれを多少なりとも試みるというのが人類学の方法論。日常生活のうちにも、別の学問分野の手法を用いて何かを研究をするうちにも、人類学的な方法論を意識することで何か新しい、有用な気づきが得られるかもしれません。
文化人類学はこうした性質のものですから、固定された方法論というものはありません。実際調査でやっていることが民俗学や社会学と同じこともあります。しかし、その精神性自体が一種方法論といえるものなのだと感じます。
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2020年05月12日

さいごの色街 飛田(井上理津子)

大阪で遊郭の名残をとどめる飛田新地について、現在の就業のあり方、そこで働く人たちーおねえさん、おばさん、経営者ーの背景、システム、歴史など多彩な点から取材したルポルタージュです。
「飛田」の研究はほとんど存在せず、ciniiをざっと見ても、住友元美(1998)の歴史研究「公娼問題と都市生活−1910年代の大阪、飛田遊廓設置問題を事例に」が唯一見られる程度です。この本は学術書ではありませんが、飛田を精緻に、多面的に描いており、学術上でもとても価値があるものだと思います。

この本を読んで強く感じたのは、生きているものを対象にした研究の難しさであります。飛田は特に法律のグレーゾーンにあるためセンシティブでありますが、どこの街を研究しようとしても、そこに生きている人を傷つけてしまう可能性を持っています。2年ほど前、研究室のプロジェクトで長浜の町並み・町屋の写真を撮影していたとき、地元の人に「誰に許可を取って写真を取ってるんや」と凄まれたことがあります。その時は研究室が観光協会や行政と繋がりがあったため問題なく終わったのですが、個人研究であればどうしていたんだろう。
そもそも、町並みとは、ファサードとはどれ程の公共性を持ったものであるのか、という根源的な問い。国立のマンション訴訟であるとか、鞆の浦の架橋に関する訴訟だとか、公共の景観利益というものが認められつつあるのが今主流の答えではあると思いますが、私個人の信条としては、公共の利益(研究を含む)の旗の下といえども個人の思いに寄り添うことは必要であると思っています。
この本は、飛田の歴史やエスノグラフィーの叙述として価値あるものではあると感じますが、しばしば飛田の人の意思に反して、時に彼らを欺いて調査・叙述されているのにもやもやとしてしまいます。私が臆病にすぎるのかもしれませんし、この本が明らかにしたことによって救われる人もいるかもしれませんが、それでも、なんだか複雑な思いを感じてしまいます。こんなことを言っていては社会学や民俗学、人類学の研究なんてできないでしょうが、それでも…。(だから、私はフィールドワークよりもテクスト研究をしているのかもしれない。ナマモノを扱う度胸がないのです。)
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2020年02月11日

日本の民家(今和次郎)

民俗学においても建築学においても有名な本。日本国中の民家を採集し、間取りや構造、生活についての論考を書いております。
この本を読んだきっかけは院試勉強でラスキンやモリスの生活美の思想に触れたことがきっかけですが、今和次郎自身もラスキンを引用しており、影響下にあったことがわかります。
この本で面白いのは、建築を見る際、歴史や様式的な美といったものではなく(収録されている民家で文化財指定されているものは少ないそうです)、人々との生活を通じた関係性の中にその魅力を見出しているところであります。解説の藤森照信さんの言葉を借りると、美の発生以前の「人と物との初源の関係の面白さとせつなさ」(岩波文庫,p350)であります。
今さんの文章は記録的でありながらも叙情性、文学性を帯びており、民家やそこに生きる人々を見る彼のまなざしにも、どこか切なさを感じます。

自分が町を、村を歩く時、いかなるまなざしを持って歩いているでしょうか。造形そのものにも関心は行きますが、やはりそこが生活空間である以上、その風景に生活が表出している様にゆかしさを感じます。私は農村風景に対してその感情をとりわけ強く抱くきます。農地を見るときも、農地自体よりもそこに現れる耕作者の営みに魅力を感じます(とりわけ小さな蔬菜園が好きです)。
ここには、郊外化が進んだ地とはいえ、旧農村の香りの残る家に生まれた身としての(過去の)故郷への憧れ、郷愁みたいなものがあるかもしれません。今和次郎の眼差しと私の眼差しは時代の差もあってそれなりに懸隔があることと思いますが、それでもやっぱり今和次郎の影響が少なからずあるのは否定できません。
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2019年10月15日

遠野物語の世界(石井正己)

 先日行ってきた岩手旅行の際に、旅情に駆られて買ってきた本です。柳田國男の序文に現れる遠野紀行について、遠野物語が出来上がるまでの過程、また遠野物語に描かれる世界などが図版たっぷりに説明されています。
 石井氏は国文学系の説話論の研究者で、佐々木喜善や柳田國男の研究をされている方です。

 『遠野物語』の序文は紀行文としても評価されており、田山花袋の編集した『旅と紀行文』にも収録されているそうです。確かに簡潔ではありますが、風景と旅情が味わい深く描かれており、『遠野物語』を読んだのははるか昔の記憶ではありますが、一番印象深いのがこの序文であるかもしれません。
 遠野物語の世界が山・川・里・町に分けて図版と引用を多く織り交ぜながら解説されており、旅をしのぶのによいよすがとなりました。

 『遠野物語』をまた改めて読んでみたいなという意欲が増してきました。先日頭を打って軽い脳震盪になったらしくしばらく体調を崩していたため、色々やることが山積みなので、またしばらく先になるかもしれませんが…。
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2018年05月17日

地名の研究(柳田國男)

 柳田國男さんの地名にまつわる論文をまとめてある本です。地名の形成の仕方や、具体的に色々な地名がいかにして成り立っているのかが書かれています。利用地名、占有地名、分割地名の概念をはじめ、地名を考える上で必要な基礎的な事柄、また具体的な地名の成り立ちの考察などが書かれています。
 地名はそれぞれ独自性の強いもので、その地を調べるならばその地を入念に検討しないといけない、という念が頭にありましたが、当然色々な土地に共通の地名はあるわけで、、、。たくさん採集して比較検討しなければならない分野です。この本一冊を読むだけでたくさんの事例は頭に入ってくるので、地名を考えていきたい人には必読の本ではないでしょうか。
 柳田さんですが、地理学っぽい話、地理学の雑誌で発表した話が多いです。地域研究って民俗学、地理学、農村社会学など色々わかれていますが、結構重複するところも多いなー、と。


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2017年11月10日

日本の祭りと神賑(森田玲)

 森田玲さんの本です。祭りを「神事」と「神賑」に分節し、祭りの構造を解説するとともに、だんじり、布団太鼓、唐獅子、神輿などの練り物について詳述しています。
 中でも面白かったのが神輿の節の、「ミアレ型」「オイデ型」「ミソギ型」に神の道行の分類です。あまりおみこしの出るお祭りになじみがないのですが、「神事」「神賑」について考えるわかりやすい例となっていました。
 また幼いころより慣れ親しんできただんじりや布団太鼓がいかに成立したのかも大変興味深かったです。
 祭りのあり方について深く考える基礎知識をつけるとともに、祭事の民俗学的なフィールドワークをするときの指針を与えてくれたように思えます。
 在野の方の本ですが、参考文献もかなりしっかりしているのでおすすめです。

評価:A
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2017年08月23日

文化人類学入門(祖父江孝雄)

 祖父江孝雄さんの本です。人類学は以前から興味があったのですが、なんだかんだで結局一冊本を読み、授業を一つ受けだだけにとどまっていました。人文地理学、建築史と並んで私の所属する学系(文化環境学系)の専門で、私の興味のある分野と隣接した学問なのでしっかり学んでみたいな、と思って入門書を読んだ次第であります。
 内容自体は平易で、一般的な教科書類と比べると圧倒的に読みやすいです。ただ、書かれたのが昭和54年であり、かなり古い本であります。平成2年に増補改訂版が出されたようでありますが、こちらでも早27年前。とはいえ基礎の基礎を身に着けることはできたと思いますし、これからもっとたくさん文化人類学の関連書籍を読んでいきたいな、と思いました。祖父江さんは県民性の研究で有名ですし、そのあたりの本も読んでみたいです。

評価:B
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2016年12月12日

山怪 山人が語る不思議な話(田中康弘)

 田中康弘さんの本です。山における不思議な話、怖い話をたくさん蒐集しています。何となく遠野物語を髣髴とさせるのですが、筆者の本職がらマタギにまつわるお話がかなりの割合で、内容も狐関係の話がやけに多い印象を受けました。あとがきで書かれていた蒐集方法を読むと、ああなるほど。作者はインタビューをするとき、呼び水としてここまでに蒐集した話を語ってみせているらしいです。
 内容に偏りがあるとはいったものの、やっぱり個々の内容は面白いです。そう遠くない昔の、名前の見える人の話だと思うと、かなりドキドキします。自分もどこかで不思議な体験に遭ってみたい気もしてきます(怖いから遭いたくないという思いもありますが…笑)。
なんだかんだ不思議な民話や怪談が好きな人にとっては十二分に楽しめる一冊だと思います。

評価:B
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2016年10月11日

改訂新版 文化人類学(内堀基光他)

 内堀基光さん、奥野克己さんらによる教科書です。私は将来日本の過疎集落や衰退都市の地域活性化を行いたいと思っているのですが、そこに文化の保全というものが深くかかわってくることに気づき、文化人類学についても少し学んでみようと思ってこの本を読みました。
 ある程度文化の消失を覚悟して新規開発を行うにしても、今ある集落・都市の文化を活かして町おこしをするにしても、その文化を持っている人たちがどうしたいかを考えねばなりません。「文化」というものそれ自体移り変わっていくものなので、それを保全するとはいかなることかということも大きな問題です。文化相対主義は一見わかりやすい思想ですが、そのありかたについてもかなり奥が深いと思います。(また機会があればこのあたりの自分の考えをまとめて改めてブログに載せるかもしれません。)
 文化人類学をかなり広い観点から概論した一冊です。教科書というものはどうも読みにくいもので読了に時間はかかりましたが、学ぶことも多く、時間をかけて読んだ価値はありました。

評価:B
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2016年08月16日

遠野物語(柳田國男)

 柳田國男さんの作品です。言わずと知れた遠野物語。民俗学のバイブル的存在です。小話が無数に連ねられている形式で、7月以来隙間時間に少しずつ読んでいって、先週やっと読了しました。
 淡々と遠野の伝承や文化、民俗を綴っているだけなのに、遥か遠い遠野が不思議と近しい存在に感じてきます。全くの異国のはずなのにどこか郷愁めいたものを感じるのです。
 大学生中に遠野へ旅行してみたいなぁ、とふと思ったり。大学で専門にするわけではありませんが、地元含め、いろんな土地の民俗を調べるのもやってみたいですね。

評価:B
posted by みさと at 17:01| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(民俗学/人類学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする