2018年07月08日

おせっかいな神々

 星新一さんのショートショート集です。星新一さんの短編集を丸々一冊読んだのは、恥ずかしながらこれが初めて。友人のおすすめで読みました。短いページに切り詰められた一つ一つの作品が、秀逸な諷刺画のようで、面白かったです。人の行動や社会の潮流の愚かさが諧謔に描かれています。ブラックユーモアは中学時代に好んでいたので、その時分に読んでいたら、ハマっていたのだろうな、と思いました。

 星さんの作品は、人の心情の機微には筆を割かないので、かなり硬質な雰囲気を感じます。それが冷笑的なブラックユーモアとよく合っていて、ある魅力を感じさせます。
 このような短編をそれこそ星の数ほど書くことのできる星さんの発想力には、本当に恐れ入ります。
posted by みさと at 20:46| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月29日

孤高の人(上)(下)

 新田次郎さんの山岳小説です。地下足袋を履き、超人的な速さで一人山を歩く単独行の加藤文太郎が主人公。

 私はワンダーフォーゲル部で沢登りをしていますが、彼みたいな、少し世間離れした、偏屈な人間というのは、山をやる人間の一つの理想であるような気がします。なぜ山に登るのか。この本のテーマの一つもそれです。その理由は色々あるでしょう。加藤文太郎は、山を登ることで自らを見つめ直す、自らや自然と語り合う、と書いていたような気がします。そう言った認識は、多くの登山家にあるのではないでしょうか。世間からの離脱が目的の一つなのです。

 私はどうでしょう? 私は、ある意味人とのつながりを求めて山に行っているような気がします。山は本来的に人のいないところであるからこそ、そこで会える/一緒に行っている人と親しくなれる、という気がします。加藤文太郎が、他のパーティーに合流したがったのも良くわかります。高校時代、柏原の高尾山の山頂で、色々な登山者と一緒に長時間話し込んだこともたくさんありました。
 もちろん、美しい風景や自然の営みを全身で感じたり、岩や滝を攀じる時の興奮もあります。岩や滝。死と隣り合わせにあるからこそ、自らの生命が下界の何処にいるよりも輝いて感じ、自らのあり方を考える見方も変わりました。
 山は人から離れつつも、人に近づくことのできる両義的な場であると言えるかもしれません。



 ワンゲルの仲間ーー特に沢登りをしている仲間は、世間を少し軽蔑しているきらいがあります。世間から離れ、山に打ち込む「孤高の人」が一つの理想像であると感じます。

 私は加藤文太郎のような単独行はできません。簡単なハイクや縦走路ならば、一人歩き道ゆく人と言葉を交わすのを楽しむかもしれませんが、沢登りや岩登りのようなことは、仲間がいるからこそ、物理的にも精神的にも安心して、楽しむことができる気がします。私は「孤高の人」という登山者の理想からは、かけ離れた存在です。

 
 また所帯を持ち、山から離れていく終盤の文太郎を見ると、少し身につまされる思いもあります。私は古い家に生まれたからか「イエ」意識が高く、こんな危ないことをするのはイエや家族に対して無責任なのではないか、と自問自答します。加藤と順序は逆ですが、怪我で山を休んでいる間に恋人ができたりもしました。ハードな山と社会生活を両立することは難しいということはよく頭に浮かぶことです。後輩に、「先輩は守るべきものが多すぎる」と言われました。そうかもしれない。私は、他のワンゲラーと比べて社会的なつながりが多いです。
 そういうことでずっと煩悶しながら沢登りを続けてきました。皮肉にも膝を怪我し、ハードな山行からは強制退場ということになってしまいましたが、、、。


 色々自分の登山観について考えることのできる一冊でした。個人的なことばかり書いてしまいました。乱文失礼。
posted by みさと at 17:59| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月17日

死国

 坂東眞砂子さんの小説です。

あらすじ
 明神比奈子は20年ぶりに故郷の高知・矢狗村を訪れる。幼馴染の莎代里が18年前に事故死をしていたことを知り、衝撃を受けるが、さらにその母親の照子が彼女を黄泉の国から呼び戻そうと、四国八十八箇所を逆に回る「逆うち」をしていることに気づき、さらに愕然とする……。




 坂東眞砂子さんといえば、「伝奇」「民俗」「土俗的感性」などの文句にひかれ、小学生か中学生の頃に手にとったことがあります。『屍の声』だったかな。性に目覚めるか目覚めないかのその当時、そこに描写されている強烈な性の描写に衝撃を受けた記憶。最後まで読みきれなかったような気がします。
 そのころと比べると、私も(多分)大人になり、受け入れられるようになってきました。伝奇ものや民俗と「性」はかなり相性の良いというか、切り離せないもので、てらいなく強烈な性の描写を入れてくる坂東眞砂子さんの作風は、伝奇小説に素晴らしくあっていると思います。
 あらすじ自体はどこかにありそうな内容でしたが、一気に読めるくらい楽しめました。『屍の声』を再読したり、直木賞を受賞した『山妣』を読んだりもしてみたいな、と思います。


メモ的に、感想をまだ書いていない本のリスト
谷崎  『細雪』
ベルク 『日本の風景 西欧の景観』
フロム 『愛するということ』
posted by みさと at 10:17| 奈良 | Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月16日

乳と卵

 川上未映子さんの小説です。ふと本棚にあるのを見つけて読みました。関西弁の口語体の文章で、豊胸手術をしようとする母親と、母親に対して口をきかなくなった思春期の少女を描いています。
 関西弁の文章は文としては破綻しているところもありますが、不思議と読みやすく引き込まれます。
 同時に収録されている『あなたたちの恋愛は瀕死』はたまたま不幸な形で出会う男女の模様が描かれています。個人的には、こちらの方が好みかな。
posted by みさと at 16:39| 奈良 ☔| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月27日

わたしはここにいる、と呟く。

 新津きよみさんの短編集です。収録作品は『わたしを探して』『時のひずみ』『あなたの居場所』『忘れはしない』『思い出を盗んだ女』『あの日あの時』『その日まで』です。
 ザ・新津作品と言った感じの日常系ミステリ集です。一応ミステリに分類されるのか、ノンジャンルと言うべきか。作品に登場する人物の立場は様々ですが、総じて30代後半くらいの女性が多く、子供や認知症に向かっていく老人のモチーフも頻繁に登場しています。新津さんが執筆当時この年代だったのか、この年代の体験が大きな記憶に残っているのでしょうか。
 他の短編集であったような、ゾッとする、と言うほど怖い作品はありません。少し後味が悪かったり、あるいはホッとするような作品もあります。
 『時のひずみ』は、探し物が得意な奥さんの話。そんな奥さんがどうしても見つけられないものがあって、、、と言うあらすじです。子供の健気な行為が、温かな気持ちになれます。
 作品展開的にドラマチックで好きなのが、『思い出を盗んだ女』『あの日あの時』の二作品。過去と現在の偶然の符合が見事な形で現れます。

 この作品は、と言うほどものすごく大好きな作品があったわけではありませんが、どの短編もコンパクトな佳作揃いで、試験期間中の良い息抜きになりました。
posted by みさと at 18:06| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月23日

フルコースな女たち

 新津きよみさんの短編集です。収録作品は『転落――食前酒』『ゼンサイのような女――前菜』『散骨――スープ』『水難の相――魚料理』『薬――お口直し』『男狩り――肉料理』『スイーツ・バイキング――デザート』『マタニティ・メニュー』です。

あらすじ
 陶芸家、ハンター、料理人である三人の女は、富永英作という男をそれぞれ憎んでいた。三人はふとしたことで知り合い、男を殺す計画を立てるが…。(男狩り――肉料理)




 久々に市立図書館で本を借り、久々に読んだ新津作品。料理にまつわった後味悪い系のお話が満載です。この感じ、懐かしい。
 一番印象に残ったのは「散骨――スープ」です。粉骨された「骨を飲む」という人間の倫理観を絶妙に利用した描写。しばしばミステリに出てくる人肉食というのは、見た目にもグロテスクですが、粉になった骨を飲むというのは見た目のおぞましさを伴わないがゆえの気味悪さを感じます。スープとの結びつき方、落としどころも秀逸です。
 他のお話も総じて佳作揃い。後味悪いお話を「食」と結びつけているところに作者の皮肉を感じます。コース料理のように、ぜひゆっくり味わって読んでください。

評価:B
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2017年08月01日

われも恋う

 堀田あけみさんの連作集です。収録作品は『両手一杯にかすみ草』『桔梗のかなしみ』『われもこう』『クリスマスの花』『グッバイ ナルシス』『So Many Roses たくさんの薔薇の花』です。

あらすじ
 大学生の俺は、自分が信仰するように恋する有紀子のために起こした行動をきっかけに、花屋でアルバイトすることになった。六つの花をめぐる、六つの恋の物語。




 サークルの本棚でふと手に取ってみた本です。殆ど恋愛小説というものは読んだことがなかったのですが、中々楽しんで読めました。
吾亦紅の花、個人的に好きで手に取ったということもあります。すぎもとまさとさんの歌もあってか、もの悲しいイメージが強い花ですが、この小説でちょっとだけイメージが変わった気がします。われも、また、紅い。
一番のおすすめは『両手一杯にかすみ草』ですね。女性の不器用さ、変化がとても良い感じ。強がって着飾る女性と可憐なかすみそうの対比も好きです。両手一杯のかすみそう、素敵ですね。
『桔梗のかなしみ』も、花のイメージと物語があっていてよいな、と思いましたが、「トルコキキョウ」は私のイメージしていた桔梗とは違うみたいで……。でも、ちょっとやるせなくて、切なくて、悲しい良いお話です。
 ちょっといじっぱりで古風な主人公とか、かすみ草に出てくる女性とか、これが書かれた1991年だからでてきた発想なのだろうな、と思いました。現代のジェンダー観とか文化とかだと全然違うものが出てくる気がします。現代なら、携帯電話――ましてやスマートフォーン、ラインがあって恋愛の形も全然違ったものとなっていることでしょうし(19歳でありながら去年スマホを持ってから恋愛したことがない、自分に苦笑いですが)。

 いつ役に立つことがあるんや、なんて思いながらも花言葉を覚えてみたいな、とも少し思いました。


評価:B
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2017年05月04日

まひるの月を追いかけて

 恩田陸さんのミステリ小説です。

あらすじ
 異母兄の研吾が奈良で消息不明になった。ほとんどあったこともない研吾の恋人に連れられて、私は奈良へと旅立った。旅が進むにつれ、事実が少しずつ明らかになっていく。虚偽と真実が入り混じる旅の中、私は――。




 奈良を舞台にした恩田さんの小説ということで読んでみました。設定だけを聞くとありがちな二時間ドラマのような感じがしますが、陳腐にならず、見事に恩田ワールドになっていました。さすがです。
 知ってる風景が多く出てくると、なかなか物語に現実感が出てきて不思議な感じです。しかもそれが、少し幻想的な恩田作品なだけに、なおさら……。

評価:B
posted by みさと at 15:18| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月20日

コンビニ人間

 村田沙耶香さんの小説です。

あらすじ
 古倉恵子は就職もせず、コンビニバイトを続けて18年になる。36歳で、未婚。子供のころから「普通でない」と言われた彼女が「普通」として生きられるのがコンビニバイトという形であった。しかし、彼女が「普通のコンビニ店員」として18年も働き続けるのは「普通でない」と周囲の人は思っており…。




 去年だったか、芥川賞を受賞した作品ですね。「普通であれ」という社会の要請は確かにあります。思春期などはそれをあえて逸脱しようとしたり、それを超えると、その要請に従おうとしたりするものであります。
私は幼いころ、その要請に恐らく気づかずに無視し続け、恵子さんのように「変わった子」と思われたり、中学時代はその世代の子供にありがちなようにあえて抜け出そうとしたり(いわゆる中二病ですね)…。一転中学の終わりごろからは普通であろうとあがいていた記憶があります。一度立ち位置が成立した後普通に戻ろうとするのは極めて難しいものでしたが。特に中高一貫校だったので、心理の変化に応じて立場を変えるのが容易ではありませんでした。
 今ではよくも悪くも人の望む「普通の」大学生に成り下がっている自分に気づきます。それがいいのか悪いのか…真実の自分は「普通」なのか、そうでないのか…。しかし、人はそれ単独で存在できるというわけではなく、他者や世間とのかかわりの中で自己というものを形成しているということを考えると、やはり「普通の」今の自分が自分であるのでしょう。恵子も「普通」から逸脱しているとはいえ、周囲の人の影響を受けながら彼女の「普通」でない自己を形成している。それって何か皮肉な気がします。
 「普通」というものを深く考えさせる良い作品でした。

評価:A
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2017年02月20日

四畳半神話体系

 森見登美彦さんの小説です。

あらすじ
 私は京都大学の三回生。バラ色の大学生活を夢見ていたが、実際のそれは無気力と暗い情熱に包まれた奇妙なものとなっていた。唾棄すべき親友で宿敵でもある小津、孤高な後輩の明石さん、超然とした不思議な自由人・樋口師匠に囲まれて送る私の奇天烈な青春物語。




 京大生の教養のようなところのあるこの小説。大学一回生も終わろうとする今頃、妹に勧められてようやく読みました。
 現実の京大生はここまで奇天烈な生活を送っているわけではありませんが、主人公の感情は京大生男子ならある程度共感できると思います。女っ気もなく(男女比4:1だから仕方ない^^;)、勉強にも左程熱心というわけでもなく、おふざけと怠惰で結構な時間を過ごしてしまう…。作中の主人公はよくいる京大生像を強調しつつも忠実に再現している気がします。
 この小説で示されているのは、人生多少の選択の違いがあっても結局のところ境遇はそう変わらないということ。絶対そうというわけではないでしょうが、自分の性格が変わるわけではないのですから、ある程度真な面もあると思います。「あのときこういう選択をしていれば…」という後悔をすることはよくありますが、ひょっとしたらその選択をしていたとしても現実と最終的な結果は変わっていなかったのかもしれない…。そう思うと、行動判断をもっと思い切って為すことができるようになる気がします。
 ちなみに実在のお店や町名が登場してニヤニヤとしてしまうのもこの小説の醍醐味の一つ。猫ラーメンというのもどうやら実在するようで……。

評価:B
posted by みさと at 13:24| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする