2018年09月07日

紙婚式

 山本文緒さんの短編集です。収録作品は『土下座』『子宝』『おしどり』『貞淑』『ますお』『バツイチ』『秋茄子』『紙婚式』。
 結婚、夫婦の綻びをテーマにした短編集で、妹に勧められて読みました。
 夫婦生活というものは安定したものというイメージがありますが、外観の安定の中、実際の心中はどのようにあるのでしょうか。この短編集はそうした心情を描いた作品群です。印象に残ったのは『子宝』『秋茄子』『紙婚式』。
 『子宝』は「生」とその裏返しにある「死」がキーになったお話。梶井基次郎の『桜の樹の下には』を夫婦生活に落とせばこのようであろうか、という感じです。死が恐ろしいという気持ちが生のグロテスクさと繋がっているというのはよくわかります。
『秋茄子』は唯一?後味の良い終わり方をしている作品です。口ではああ言いながらも、母親への愛に溢れる旦那さんは子供っぽい一方で可愛らしくて、良い終わり方だと思います。
『紙婚式』はテーマが良い。婚姻届は単なる紙切れと言っても、本来他人であったものを家族にするという呪術性を持ったもの。契約というとドライなようですが、人間を深く結びつけるものでもあると思います。
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2018年07月21日

球形の季節

 恩田陸さんの小説です。谷津という地方都市で広がった奇妙な噂をめぐり、「地歴研」の高校生たちがその出どころを確かめようと奔走するところから物語が始まります。
 なんとなく手に取った本なのですが、自分の専門である地理学と深く結びついており、
色々と考えさせられるところがありました。この小説は、谷津という架空都市を舞台に、それの持つ「場所性」というものを強く意識しています。「場所」というものは、ただそこにある、ニュートラルな空間というだけではなく、歴史や文化の積み重なりーー意味や物語を伴うものであります。そう考えると、小説という表象の場は、空間が必ず「場所」であらざるを得ない場であるということができると思います。学校が出てくる時、山が出てくる時、喫茶店が出てくるとき。小説において、場所の描写がされる時、その場所がそこである必然性があるのです。そういう点で、必ず小説の地理は必ず意味を持ち、「場所」であるのです。
 小谷真理さんが、解説で「学校」という場の意味を考察していますが、それがとても興味深いので、要点を引いておきたいと思います。学校は制度で縛ることで架空の「日常」を作り出します。本当は多様な生徒たちに均質性を求めるのです。当然のことながら一つの価値観を求めることは、逸脱者をも多く生み出します。こうした逸脱者が、ファンタジーの源泉となっているということだそうです。
 加えて、予言の自己成就というのは社会学のお話ですし、民俗学的な伝承のお話もあります。そう思うと、人文諸学の要素がたくさん盛り込まれた物語なのだなぁ、と恩田陸さんの教養を強く感じます。

 恩田陸さんというと、中高時代に読み漁った作家さんの一人。今多少学を身につけた上で読むと、色々と深く考えることができているような気がします。
 中高時代は、学校の課題や勉強の枠が設定されており、私はそれを満たして「勉強のできる子」として評価されており、満足していました。今思えば、もっといろいろな本を読んだり、いろんなところに行ったりして学をつけておけば精神生活も変わってきたのかなぁ、と思ってしまいます。
 ちょうどこの小説の題材が高校であります。日常に満足し、そのルーティンの中で変化を厭って生きてきた自分が、少しみのりに重なりました。
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2018年07月08日

おせっかいな神々

 星新一さんのショートショート集です。星新一さんの短編集を丸々一冊読んだのは、恥ずかしながらこれが初めて。友人のおすすめで読みました。短いページに切り詰められた一つ一つの作品が、秀逸な諷刺画のようで、面白かったです。人の行動や社会の潮流の愚かさが諧謔に描かれています。ブラックユーモアは中学時代に好んでいたので、その時分に読んでいたら、ハマっていたのだろうな、と思いました。

 星さんの作品は、人の心情の機微には筆を割かないので、かなり硬質な雰囲気を感じます。それが冷笑的なブラックユーモアとよく合っていて、ある魅力を感じさせます。
 このような短編をそれこそ星の数ほど書くことのできる星さんの発想力には、本当に恐れ入ります。
posted by みさと at 20:46| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月29日

孤高の人(上)(下)

 新田次郎さんの山岳小説です。地下足袋を履き、超人的な速さで一人山を歩く単独行の加藤文太郎が主人公。

 私はワンダーフォーゲル部で沢登りをしていますが、彼みたいな、少し世間離れした、偏屈な人間というのは、山をやる人間の一つの理想であるような気がします。なぜ山に登るのか。この本のテーマの一つもそれです。その理由は色々あるでしょう。加藤文太郎は、山を登ることで自らを見つめ直す、自らや自然と語り合う、と書いていたような気がします。そう言った認識は、多くの登山家にあるのではないでしょうか。世間からの離脱が目的の一つなのです。

 私はどうでしょう? 私は、ある意味人とのつながりを求めて山に行っているような気がします。山は本来的に人のいないところであるからこそ、そこで会える/一緒に行っている人と親しくなれる、という気がします。加藤文太郎が、他のパーティーに合流したがったのも良くわかります。高校時代、柏原の高尾山の山頂で、色々な登山者と一緒に長時間話し込んだこともたくさんありました。
 もちろん、美しい風景や自然の営みを全身で感じたり、岩や滝を攀じる時の興奮もあります。岩や滝。死と隣り合わせにあるからこそ、自らの生命が下界の何処にいるよりも輝いて感じ、自らのあり方を考える見方も変わりました。
 山は人から離れつつも、人に近づくことのできる両義的な場であると言えるかもしれません。



 ワンゲルの仲間ーー特に沢登りをしている仲間は、世間を少し軽蔑しているきらいがあります。世間から離れ、山に打ち込む「孤高の人」が一つの理想像であると感じます。

 私は加藤文太郎のような単独行はできません。簡単なハイクや縦走路ならば、一人歩き道ゆく人と言葉を交わすのを楽しむかもしれませんが、沢登りや岩登りのようなことは、仲間がいるからこそ、物理的にも精神的にも安心して、楽しむことができる気がします。私は「孤高の人」という登山者の理想からは、かけ離れた存在です。

 
 また所帯を持ち、山から離れていく終盤の文太郎を見ると、少し身につまされる思いもあります。私は古い家に生まれたからか「イエ」意識が高く、こんな危ないことをするのはイエや家族に対して無責任なのではないか、と自問自答します。加藤と順序は逆ですが、怪我で山を休んでいる間に恋人ができたりもしました。ハードな山と社会生活を両立することは難しいということはよく頭に浮かぶことです。後輩に、「先輩は守るべきものが多すぎる」と言われました。そうかもしれない。私は、他のワンゲラーと比べて社会的なつながりが多いです。
 そういうことでずっと煩悶しながら沢登りを続けてきました。皮肉にも膝を怪我し、ハードな山行からは強制退場ということになってしまいましたが、、、。


 色々自分の登山観について考えることのできる一冊でした。個人的なことばかり書いてしまいました。乱文失礼。
posted by みさと at 17:59| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月17日

死国

 坂東眞砂子さんの小説です。

あらすじ
 明神比奈子は20年ぶりに故郷の高知・矢狗村を訪れる。幼馴染の莎代里が18年前に事故死をしていたことを知り、衝撃を受けるが、さらにその母親の照子が彼女を黄泉の国から呼び戻そうと、四国八十八箇所を逆に回る「逆うち」をしていることに気づき、さらに愕然とする……。




 坂東眞砂子さんといえば、「伝奇」「民俗」「土俗的感性」などの文句にひかれ、小学生か中学生の頃に手にとったことがあります。『屍の声』だったかな。性に目覚めるか目覚めないかのその当時、そこに描写されている強烈な性の描写に衝撃を受けた記憶。最後まで読みきれなかったような気がします。
 そのころと比べると、私も(多分)大人になり、受け入れられるようになってきました。伝奇ものや民俗と「性」はかなり相性の良いというか、切り離せないもので、てらいなく強烈な性の描写を入れてくる坂東眞砂子さんの作風は、伝奇小説に素晴らしくあっていると思います。
 あらすじ自体はどこかにありそうな内容でしたが、一気に読めるくらい楽しめました。『屍の声』を再読したり、直木賞を受賞した『山妣』を読んだりもしてみたいな、と思います。


メモ的に、感想をまだ書いていない本のリスト
谷崎  『細雪』
ベルク 『日本の風景 西欧の景観』
フロム 『愛するということ』
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2018年03月16日

乳と卵

 川上未映子さんの小説です。ふと本棚にあるのを見つけて読みました。関西弁の口語体の文章で、豊胸手術をしようとする母親と、母親に対して口をきかなくなった思春期の少女を描いています。
 関西弁の文章は文としては破綻しているところもありますが、不思議と読みやすく引き込まれます。
 同時に収録されている『あなたたちの恋愛は瀕死』はたまたま不幸な形で出会う男女の模様が描かれています。個人的には、こちらの方が好みかな。
posted by みさと at 16:39| 奈良 ☔| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月27日

わたしはここにいる、と呟く。

 新津きよみさんの短編集です。収録作品は『わたしを探して』『時のひずみ』『あなたの居場所』『忘れはしない』『思い出を盗んだ女』『あの日あの時』『その日まで』です。
 ザ・新津作品と言った感じの日常系ミステリ集です。一応ミステリに分類されるのか、ノンジャンルと言うべきか。作品に登場する人物の立場は様々ですが、総じて30代後半くらいの女性が多く、子供や認知症に向かっていく老人のモチーフも頻繁に登場しています。新津さんが執筆当時この年代だったのか、この年代の体験が大きな記憶に残っているのでしょうか。
 他の短編集であったような、ゾッとする、と言うほど怖い作品はありません。少し後味が悪かったり、あるいはホッとするような作品もあります。
 『時のひずみ』は、探し物が得意な奥さんの話。そんな奥さんがどうしても見つけられないものがあって、、、と言うあらすじです。子供の健気な行為が、温かな気持ちになれます。
 作品展開的にドラマチックで好きなのが、『思い出を盗んだ女』『あの日あの時』の二作品。過去と現在の偶然の符合が見事な形で現れます。

 この作品は、と言うほどものすごく大好きな作品があったわけではありませんが、どの短編もコンパクトな佳作揃いで、試験期間中の良い息抜きになりました。
posted by みさと at 18:06| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月23日

フルコースな女たち

 新津きよみさんの短編集です。収録作品は『転落――食前酒』『ゼンサイのような女――前菜』『散骨――スープ』『水難の相――魚料理』『薬――お口直し』『男狩り――肉料理』『スイーツ・バイキング――デザート』『マタニティ・メニュー』です。

あらすじ
 陶芸家、ハンター、料理人である三人の女は、富永英作という男をそれぞれ憎んでいた。三人はふとしたことで知り合い、男を殺す計画を立てるが…。(男狩り――肉料理)




 久々に市立図書館で本を借り、久々に読んだ新津作品。料理にまつわった後味悪い系のお話が満載です。この感じ、懐かしい。
 一番印象に残ったのは「散骨――スープ」です。粉骨された「骨を飲む」という人間の倫理観を絶妙に利用した描写。しばしばミステリに出てくる人肉食というのは、見た目にもグロテスクですが、粉になった骨を飲むというのは見た目のおぞましさを伴わないがゆえの気味悪さを感じます。スープとの結びつき方、落としどころも秀逸です。
 他のお話も総じて佳作揃い。後味悪いお話を「食」と結びつけているところに作者の皮肉を感じます。コース料理のように、ぜひゆっくり味わって読んでください。

評価:B
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2017年08月01日

われも恋う

 堀田あけみさんの連作集です。収録作品は『両手一杯にかすみ草』『桔梗のかなしみ』『われもこう』『クリスマスの花』『グッバイ ナルシス』『So Many Roses たくさんの薔薇の花』です。

あらすじ
 大学生の俺は、自分が信仰するように恋する有紀子のために起こした行動をきっかけに、花屋でアルバイトすることになった。六つの花をめぐる、六つの恋の物語。




 サークルの本棚でふと手に取ってみた本です。殆ど恋愛小説というものは読んだことがなかったのですが、中々楽しんで読めました。
吾亦紅の花、個人的に好きで手に取ったということもあります。すぎもとまさとさんの歌もあってか、もの悲しいイメージが強い花ですが、この小説でちょっとだけイメージが変わった気がします。われも、また、紅い。
一番のおすすめは『両手一杯にかすみ草』ですね。女性の不器用さ、変化がとても良い感じ。強がって着飾る女性と可憐なかすみそうの対比も好きです。両手一杯のかすみそう、素敵ですね。
『桔梗のかなしみ』も、花のイメージと物語があっていてよいな、と思いましたが、「トルコキキョウ」は私のイメージしていた桔梗とは違うみたいで……。でも、ちょっとやるせなくて、切なくて、悲しい良いお話です。
 ちょっといじっぱりで古風な主人公とか、かすみ草に出てくる女性とか、これが書かれた1991年だからでてきた発想なのだろうな、と思いました。現代のジェンダー観とか文化とかだと全然違うものが出てくる気がします。現代なら、携帯電話――ましてやスマートフォーン、ラインがあって恋愛の形も全然違ったものとなっていることでしょうし(19歳でありながら去年スマホを持ってから恋愛したことがない、自分に苦笑いですが)。

 いつ役に立つことがあるんや、なんて思いながらも花言葉を覚えてみたいな、とも少し思いました。


評価:B
posted by みさと at 14:53| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月04日

まひるの月を追いかけて

 恩田陸さんのミステリ小説です。

あらすじ
 異母兄の研吾が奈良で消息不明になった。ほとんどあったこともない研吾の恋人に連れられて、私は奈良へと旅立った。旅が進むにつれ、事実が少しずつ明らかになっていく。虚偽と真実が入り混じる旅の中、私は――。




 奈良を舞台にした恩田さんの小説ということで読んでみました。設定だけを聞くとありがちな二時間ドラマのような感じがしますが、陳腐にならず、見事に恩田ワールドになっていました。さすがです。
 知ってる風景が多く出てくると、なかなか物語に現実感が出てきて不思議な感じです。しかもそれが、少し幻想的な恩田作品なだけに、なおさら……。

評価:B
posted by みさと at 15:18| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする