2019年11月06日

人魚の嘆き 魔術師(谷崎潤一郎)

 中公文庫。谷崎の中でも、ややマイナーな初期短編2編が収録された作品です。
 前者は清朝の時代、財産と美貌、知性に恵まれ、この世の贅沢を尽くして飽き果てていたところ、人魚を連れた西洋人が現れるという物語。
 後者は、怪奇趣味を持った男が、恋人に誘われ、異形の見世物がはびこる公園の中に位置する美しい魔術師の見世物小屋を訪ねるお話。

 中井英夫氏の解説では、一種の美文調であまり現代の読者には響かないと中々辛辣な評価がされていますが、どちらも微妙な味わいのある作品。人魚や魔術師のもつ魔性の美しさは、確かに馴染みの浅い漢語が多く、後の谷崎作品の流麗さはないものの、その世界観に共通するところは多分にあります。
 前者は少し童話的な印象を受ける一方、後者はポオや乱歩のようなゴシック的怪奇小説の空気感があります。公園という空間が俗悪な人工物と人混みで溢れ、奇々怪々な見世物があちこちに乱舞する、ある種爛熟した醜悪な美しさを持ったものとして表現されているのも見どころです。公園というと、現在では爽やかなパブリック・スペースとしてのイメージの方が強いですが、しばしば寺社地などから割譲される経緯もあってテキ屋や見世物などが多く出される、俗な(しかし、もともと縁日などで聖と結びついていた)空間でもあります。ゴシック小説では森や古城、廃墟、墓場など暗く怪しいところを背景とする傾向がありますが、この俗悪な夜の公園の中、蝙蝠のような白楊樹の植栽がされた魔術師の小屋は、こうした舞台装置にぴったりであります。乱歩の『踊る一寸法師』を彷彿として、中々好きな作品です。
posted by みさと at 13:34| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(近代文学作品) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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