2019年05月11日

木(幸田文)

 幸田文さんの随筆集で、『えぞ松の更新』『藤』『ひのき』『杉』『木のきもの』『安倍峠にて』『たての木 よこの木』『木のあやしさ』『杉』『材のいのち』『花とやなぎ』『この春の花』『松 楠 杉』『ポプラ』が収録されています。
 ボックスの本棚で見かけ、表題に惹かれて手にとった本でありますが、幸田文がこんなに木に親しんできた人だとは知りませんでした。木に親しむ契機には、『藤』にあるように、土地柄、家庭環境が影響していたみたいで、父・露伴も木にかなり親しみを持っていた人物であることが記述されていました。私の貧困な知識では、露伴といえばまず思い浮かぶのが『五重塔』で、木造建築を描いた作品が評価されたのもこうしたところがあるのかな、と思ったり。この随筆集でも、『材のいのち』などで古社寺に関わる棟梁の話が出てきます。
 この本を読んでいると、常に私たちの視界の結構な部分を満たしている木々ーー立ち木であれ、材であれーーを、普段全然気にせず生きていることが痛感されます。私は登山をしており、林業にも関わっており、森林科学にも多少親しんできたのに、木々への感性が薄いと悲しく思います。
 印象的な作品はいくつかありますが、まず心引かれたのは、冒頭の『えぞ松の更新』。エゾマツの倒木更新なんていう、すごく森林科学的な、ニッチな題材で驚いて読み始めると、専門的な題材でありながらも、感性は学者ずれしていない、清新な感性で書かれています。古木の水漬き、乾き、温もり。五感に感ずる、素敵な文章でした。
『灰』も良い。雨に濡れて生コン化した火山灰にまとわりつかれ被害を受けた木々の話なのですが、夏に枝を落としたため秋に青葉を茂らせる楓の不気味さ、悲しさが印象に残ります。
 小川和佑『桜の文学史』を読んで以来、表象される植物や植物の文学的認識に心惹かれています。山屋としても、幸田文のような、文学的感性を持って、植物に接していけるようになりたいなぁ、と刺激になりました。
posted by みさと at 22:14| 奈良 | Comment(0) | 読書(他国内文学作品) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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