2017年02月05日

島は僕らと

 辻村深月さんの青春小説です。

あらすじ
 瀬戸内海に浮かぶ冴島は人口三千人弱の小さな島。島には中学校まではあるが、高校はない。高校二年生の朱里の学年は彼女のほか網元の娘・衣花、リゾート開発業者の息子・源樹、演劇に熱を上げる新の三人だけ。高校卒業とともに島を出て進学するのを前提に、残り少ない日々を毎日四人で本土にある高校へフェリーで通って過ごしている。Iターンの増加や大人たちの取り組みで変容しつつある島を舞台に、島と本土の様々な人物が交錯する。



 青春小説の名手・辻村深月さんの作品の描いた地方小説です。現代の地方社会を絶妙に描いた名作でした。
 瀬戸内海の島。コミュニティデザイン。株式会社「さえじま」。読んでいてすぐに、兵庫県姫路市の家島がモデルではないだろうか、と思いました。以前紹介した山崎亮さんの本で紹介されている島です。山崎さんの『コミュニティデザイン』を合わせて読むと、おー、となるかも。
 「田舎」を描いた田園小説でありながら、その舞台はコミュニティデザインなど(先進的な)活性化の取り組みが積極的になされ、Iターンなど人口の移動が激しい島。旧態依然とした所謂「ムラ」が良くも悪くも変容しつつある、現代らしい舞台設定です(日本全国で見れば、冴島のようなところはかなり恵まれた「田舎」になるのでしょうが…)。怪しい作家・霧崎ハイジやコミュニティーデザイナー・ヨシノといった「ソト」の人物の目線も中々面白い描かれ方。古きと新しきが交じり合う現代の「田舎」での、複雑で微妙な人間関係の様子がよく描かれており、田園小説としては珠玉の作品だと思います。
 こうした舞台を背景に描かれる四人の青春劇も素敵です。特に、終盤。衣花の島を愛し、網元の娘として責務に従うことを受け入れながらも(あるいは進んでそれを選択した、と言えるかもしれません)、本土へ行く愛する友と別れるのが辛くて泣き叫ぶシーンは特に感情移入してしまいました。古くからのしがらみを打破するような描かれ方をする小説はよくありますが、このように、「しがらみ」を好んで受け入れながらも、それでも他の条件を考えて葛藤が起こるというのがかなりリアルに感じました。私自身の感情によく合っていたというのもあるかもしれませんが。
 大人と子供のあわいの、高校生という目線から見た島の社会、逆にその島の社会が彼女らを規定している様子、また島の社会での彼女らの生き方も注目ポイントです。
 そしてあと、女性の地方社会でのあり方もこの小説の一つのテーマですね。閉塞的・硬直的な地方社会はとりわけ女性をいろいろな形で生き方を規定し、悲しませ、ときには追いやってきた。そうした側面を描きながらも株式会社「さえじま」の代表を務める朱里の母、コミュニティデザイナーとして島の人たちの懐へ入ってゆくヨシノ、さまざまに思い悩み、暗中模索しながらも自らの道を選んできたシングルマザー・蕗子などなど、強く生きる女性たちの姿が描かれています。それを踏まえると、この作品のラストシーンはこれ以上にないほどこのテーマに調和的で、そしてかつ他の青春小説・田園小説としてのテーマも上手に落とし込んだ素晴らしい結末だと思います。

 ただ懐古的にもならず、かといって古きを全否定するわけでもない、良い作品です。田舎で生きるということ、そしてふるさとの意味を考え直させてくれる契機になることと思います。

評価:A
posted by みさと at 14:48| 奈良 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(辻村深月) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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