あらすじ
平野勇気は高校卒業後フリーターで食いつないでいこう、と思っていた。しかし、担任の計らいで「緑の雇用制度」に勝手に応募され、三重県神去村で林業をすることとなる。はじめこそ慣れない山仕事に反発していた勇気だが、次第に神去村の美しい自然と林業の面白さに魅了され、個性あふれる村人たちにもなじんでゆく…。
私は現在大学で林業のサークルに入っているのですが、それまでほとんど林業というものを意識したことがありませんでした。柏原の山村はいずれも農業が主要な産業で、林業に触れ合う機会がなかったのです。都市の若者にとって林業というのは縁遠い存在であることが多く(多摩の林業は有名ですから東京はそうでないかもしれませんが)、農業や漁業でなくそんな林業に焦点を置いたことがこの小説の良いところだと思います。
軽快なタッチで勇気やヨキら村人たちの生活の様子が生き生きと描かれています。勇気の現代っ子らしさや神去村の古き良き田舎らしさは少しステレオタイプにすぎる感はありますが、ここまではっきり描かないと物語の躍動性は生まれなかったのだろうな、とも思います。
先月同じくステレオタイプな田舎像を描いた『夏美のホタル』をリアリティがない、と辛口に評価しましたが、こちらは林業をとりあげる過程で村人の生活が表出しており、リアリティに欠けていながらも、物語の裏にしっかりとしたものが敷かれている感じがして高評価できます。
また美しい感動譚ではなく、騒動劇的な形にしたのも、軽い文体がうまく生かされて良かったと思います。
続編『神去なあなあ夜話』も近く読んでみたいです。
ちなみに、、「緑の雇用制度」もあって林業の担い手は若返ってるという統計データが出ていたり…。いや、林業って興味深いです。本当に。
評価:A
【関連する記事】