2020年06月29日

近代造園史(粟野隆)

 主に日本近代の公園・庭園・緑地・造園学の歴史について簡潔にまとめた本です。欧米の近代造園の誕生についても記述があります。
図版が多く、簡潔でわかりやすいですが、造園史をおさえるという意味では分量的に少し物足りないかもしれません。しかし、参考文献の整理と年表が充実しているため、この本を中核に色々調べていくにはうってつけ。値段も2000円と、(学術書にしては)お手頃ですし。
ちなみに、粟野さんは東京農業大学の先生なのですが、東京農業大学は造園が学科として独立して存在しており、充実しています。造園学教室が森林科学科の一教室に過ぎない弊学からするとうらやましい…。農大の造園は、由来が上原敬二の提唱で作られた東京高等造園学校だそうで、造園の名門のようです。
posted by みさと at 12:44| 奈良 | Comment(0) | 読書(森林/造園,農学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月22日

発情装置(上野千鶴子)

 大学生協の古本フェアで扇情的なタイトルに驚いて手にとった本です。人が発情するのは自然現象ではなく、文化的装置である、という構築主義的なところに基づくタイトル。援助交際などの社会現象やニキやダイアナ・ブロック、山岸涼子などの芸術作品、フロイトやフーコーの思想も時には参照しながら様々に論じたエッセイ集であります。
 最近KuToo運動など、フェミニズム的な言説が盛んでありますが、運動に参加する側もそれを批判する側も、政治運動的な、先鋭的なところが目立って、思想的なところがあまり顧みられていないように感じます。色々な言説を見聞きする中でも、フェミニストが社会批判において「今の時代に合わない」なんて半ば思考停止的な言説を発したり、逆にアンチ・フェミニストがフェミニズムとミサンドリーを混同して同じく思考停止的に批判したり、なんだか、感情的な議論になりがちなのが個人的にはもやもやしています。
とは言え、フェミニズム自体が学問であると同時に当事者による社会運動である、という側面も強いため、そんなもんなのかなぁ、とも思ったり。

 面白かったのは、ゲイ・スタディーズとの応酬。フェミニズム的な言説は女性性/男性性を注目するあまり、LGBTQに対して優しくないイメージがあったのですが、フェミニズムのスタンスを理解すると、なるほど、というところ。フェミニズムにとって、ゲイもレズビアンも男性性と女性性の社会的規範に拘束されているものであるのです(だからこそ、ゲイがミソジニーに結びつく)。上野さんはゲイやレズビアンから「同性愛差別者」ととみなされ、上野さん自身も、「批判に値するだけの偏見や無理解に満ちた発言」をしてきたと認めています。
 上野さんの言説は少し過激な形を取りますが、読んでいると、かなり冷静で、実際他者からの批判を丁寧に受け止めて、考えを常に更新し続けているのが見て取れます。

 フェミニズムやセクシュアリティ/ジェンダー研究の全体像を知りたくなりました。色々考えさせる読み物で面白かったです。
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2020年06月19日

地域再生の失敗学(飯田泰之編)

 多種多様な論客を呼び、「地域活性化」のあれこれを、経営、官民連携、グローバリゼーション、村落移転など様々な観点から、対談を中心に論じています。
 飯田さん自身はマクロ経済学の研究者ですが、他の論者は経営系の町おこしで有名な木下斉さん、地域経済学者の川崎一泰さん、経営学者の入山章栄さん、農村計画学者の林直樹さん、千葉市長の熊谷俊人さんです。
 内容は多岐にわたりますが、一言にすると、「公共も経済・経営の感覚をもて」というところに集約されるでしょうか。
 個人的に面白かったのは、グローバリゼーションのあり方を論じた入山さんの「フラット化しない地域経済」です。知識には言語化できる「形式知」と、言語化できない「暗黙知」というものがあります。現代情報化が進み、リモートワークなどで集積する「都市」はむこうになるのではないか、という論が大昔にあったと思うのですが、結局そうならなかったのは、インフォーマルな対面コミュニケーションの中で体得し、着想する「暗黙知」の存在が大きいのだということがあります。このため、グローバリゼーションは一様に進むわけではなく、暗黙知の集まる都市同士が結びつき、ギザギザ状に進むのです。これを入山さんは「スパイキーグローバリゼーション」と呼んでいます。学部一回のころの経済地理学の授業でもこの話、聞いたのを思い出しました。

 最近の地域活性化論の潮流を感じさせるのは、以前に木下さんの著作を読んだことがあるのが大きいかもしれませんが、それでも勉強になりました。感覚的にもわかりやすいし、理論の話もあって面白一冊でした。
posted by みさと at 16:14| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(政治/経済,社会科学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月10日

風景の生産・風景の解放(佐藤健二)

 東京大学の歴史社会学の先生による風景論。内容は絵葉書、考現学、ペスト、柳田の風景論、言語/交通/複製技術から見た風景論です。
 絵葉書と考現学に関しては総論的にまとめられていて、勉強になりました。絵葉書というと、観光地で売られている名所絵葉書のイメージが強かったのですが、記念絵葉書、からくり絵葉書や美人絵葉書など、結構多様なものがあることを知りました。そう言えば、最近でもCDのおまけにアーティストの写真絵葉書が入っていることがありますが、これは美人絵葉書の延長なのでしょうか。
 絵葉書は当然のことながら、郵便制度の発達とともに発展しました。日本でしたら、1900年頃がその黎明期であります。記念絵葉書ではそのコレクション的性質を持ってナショナリズムに組み込まれ、美人絵葉書が戦争の慰問に使われ、名所絵葉書がカメラの普及で陳腐化したというように、歴史と深く結びいて移り変わって行きます。
 ほか面白かったのは鉄道の持つ風景への影響力。鉄道は人々の移動を、観光を支えただけではなく、その車窓は近景を捨象し、遠景をパノラマ化し、抽象し、自然の客体化を支えました。
 内容が多様な本書ですが、読み物としても、勉強としても楽しかったです。特に柳田の風景論のあたりは自分の指導教員の先生の授業で取り上げられていたことなので、先生もこの本読んだのかなぁ、なんて思ったり。
posted by みさと at 00:00| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(社会学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月08日

フィールドワーカーズ・ハンドブック(鏡味治也他編)

 文化人類学は入門書っぽいものばかりたくさん読んでいる気がするのですが、今回も入門書。日本文化人類学会監修、2011年の書です。
2017年に祖父江孝雄の『文化人類学入門』、2016年に内堀基光他の『改定新版 文化人類学』を読んで、前者は概説、後者は各論だった記憶。今回読んだのは方法論。読む順番、概説→方法論→各論のほうがよかったな、という気がしますが、行き当たりばったりの読書なので院生になって漸く方法論の本に至りました。
 文化人類学は、もともと植民地に対する研究として発展しました。研究対象に身を投じ(参与観察)ながら、自らと他者の差異をてこに自らを/他者を相対化し、アブダクション(発想)を創出するという過程は、社会学や民俗学などと似ているようで、かなり立脚点に違いがあります。
社会学など一般的な社会科学では、何か仮説を立て、それをもとに社会調査を行う。質的調査を行う場合でも質問項目を用意することが多いです(構造化されたインタビュー)。一方で文化人類学は、何も仮説を立てないことも多く、インタビューをする際も調査者の調査内容に応じて誘導しつつもできるだけインフォーマントに自由に語らせるような「構造化されていないインタビュー」や雑談の中から対象の世界を探る非公式インタビューを中心に行います。調査者のもつ価値観、固定観念に縛られないように、対象の世界を導くことが重要なのです。
この本を手に取ったのは、地域調査をおこなうものとして、質的調査の方法論を学びたいというのが動機だったのですが、実際読んでみると、人類学的質的調査を行う場合に限らず非常に参考になる内容でした。自分の価値観を相対化するということは、当然のことのようで中々難しいものです。私たちは自らの持つ知識を以て世界を分節し、意味化しているのですから、それを相対化するというのはよほど意識しても完全にはできないものです。
他者(他国の人だけでなく、日常生活でつきあう他人や風景も)の観察を通じてそれを多少なりとも試みるというのが人類学の方法論。日常生活のうちにも、別の学問分野の手法を用いて何かを研究をするうちにも、人類学的な方法論を意識することで何か新しい、有用な気づきが得られるかもしれません。
文化人類学はこうした性質のものですから、固定された方法論というものはありません。実際調査でやっていることが民俗学や社会学と同じこともあります。しかし、その精神性自体が一種方法論といえるものなのだと感じます。
posted by みさと at 20:41| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(民俗学/人類学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月04日

江戸・明治の古地図からみた町と村(金田章裕)

 日本古代の景観史の研究で有名な歴史地理学の金田先生が、近世近代の都市図、村絵図などを対象に読図のガイドをしてくださるという本。敬文社の「日本歴史 私の最新講義」のシリーズで、同シリーズには渡辺尚志さんや倉地克己さんの名前があります。
 ミクロな大縮尺図を扱った事例研究が中心で、実際の読図から地図の表現内容、特性、成立過程の解説が充実しています。地元に近いということもありますが、藤井寺市域の村々の事例が興味深かったです。宝永年間に大和川の付け替えがおこなわれたことは有名な話ですが、これに伴って藤井寺市域ではかつての村の土地が分断され、用水の取り方も変化してきます。また、地図のゆがみに村人の地理認識が表れているのも面白かった。地籍図を用いた景観復元、小字と地割からの条理復元をする事例も勉強になりました。
 内容自体は地理学になじみのある人には平易ですが、全くこの分野に触れたことがないとやや難しいかもしれません。悲しいのは掲載されている地図が小さくて、逐一文章と地図とを確認しながら読むと目が疲れるので、地図によっては読むのをあきらめたものも、、、。とはいえ、面白く勉強になった一冊でした。
posted by みさと at 13:45| 奈良 🌁| Comment(0) | 読書(地理学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする