2019年06月21日

ムーミン谷の彗星(トーベ・ヤンソン)

 フィンランドの児童文学作家・ヤンソンによるムーミン・シリーズの二番目の作品。第一作品『小さなトロールと大きな洪水』によって住処を追われ、ムーミン谷に住み着くことになったムーミン一家ですが、ある日ジャコウネズミがやってきて、「ムーミン谷」に彗星が近づいてきて、地球にぶつかることを予言し、宇宙と星を見に天文台を目指すムーミンの旅が始まります。
 この小説の魅力は、何よりその舞台と登場人物からなる世界観にあります。
 子どもっぽいわがままを言うけど憎めないスニフ、学者気質でどこかかたいところのあるスノーク、冷静なさすらいの旅人・スナフキン、切手や虫のコレクションに夢中になるへムル族、「どうしても思ったところへ行きつけなくて、いつもどこかを憧れている」謎めいたニョロニョロ、、、  それぞれの言動はかなりわがままだったりむちゃくちゃで、それに誘導される物語の展開もナンセンスなところ(そもそも彗星がくるから天文台に向かうというところから…)が多いですが、それがとても心踊り、楽しい感じがします。
 登場人物たちの種族は様々でありますが、皆仲良く?関係を築いています。それぞれの種族の設定が、「世界の動物図鑑」だとか「おばけ図鑑」だとかにハマった子供心をくすぐって、魅力的であります。トロールというと「三びきのやぎのガラガラドン」に出てくるような、おどろおどろしい怪物をイメージしますが、この作品のムーミントロールは、カバのような温厚な見た目。スノークはムーミントロールにそっくりですが、体の色が変わる別の種族。人間に見えるスナフキンも、実はムムリクという種族。ニョロニョロのつかめない、たくさんいるのにどこか孤独な感じも素敵です。

「ムーミン谷」という舞台もナンセンスで、けれど、子供心をくすぐります。筏で川を降って行ったらいつの間にか山に入っていく。滝から落ちて危機一髪のところで、地面の割れ目から救い出される。。地形を想像すると、一体どうなっているのか、と感じますが、作品の不思議な世界観を作るのに良い働きをしています。講談社の新装版で読んだのですが、海底を竹馬で歩いているシーンを描いた表紙も素敵な雰囲気。
 原作を読んだのは初めてでしたし、アニメを見た記憶も遥か彼方で、新鮮な気分で読み始めたのですが、こんなに魅力的な世界観なら、人気シリーズになるのもさもありなん、と感じます。良い作品でした。
posted by みさと at 11:42| 奈良 | Comment(0) | 読書(児童文学作品) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月20日

【第二版】地域共生の都市計画(三村浩史)

 院試勉強シリーズ。昨年授業の教科書になっていたのに結局使わなかったものなのですが、折角なのでこの機会に読みました。三村さんは京大建築系の都市計画学者で、西山夘三の門下です。
 内容としましては、都市計画史を踏まえた上で、マスタープラン、土地利用計画、緑地、交通、景観基本計画といった都市のマクロな視点のを紹介し、地区計画や建築規制のミクロな話題に移る、というもの。広く浅く都市計画全体を抑えていますが、計画・制度の基礎的紹介が中心の印象。独自の観点があるというよりは、普遍的な、教科書的な内容であります。図版が多く、初学者にはわかりやすいとは思いますが、多少都市計画の勉強をしたことがあれば新しく得るものは少ないかもしれません。復習にはなったかな。
 参考図書が充実しており、各分野・項目でおすすめの書籍もわかりやすいので、ここから先の勉強の参考にもなりそうです。計画史についてはもう少し勉強したいと感じます。
 院試勉強関係は教科書的な書籍が多く、感想も単調で無機質になってしまいがちですね。。
posted by みさと at 15:20| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(建築/土木,工学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月15日

雪国(川端康成)

 「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という冒頭があまりにも有名な作品。隧道の真っ暗な断絶から、広がる暗く白い夜の雪景色が広がる様が頭に浮かび、物語の始まりとして実に視覚的、演劇的で、素敵です。
 川端康成の作品は以前に『古都』を読んだのみでありますが、本作はまた少し違う印象を受けました。『古都』は人物を描くという以上に、人物を通して美しい古都の四季を描いていたような印象であったのですが、本作はその逆な感じ。美しい雪国の風景が背景になっており、その舞台背景は作品にとって大きな役割を演じているのには違いないのですが、本作品では「雪国」や「温泉町」はアノニマスなそれであり、駒子ーーと、葉子ーーを美しく浮き出すための背景である印象を受けました。
 感覚的、官能的な描写が作品全体を通じて見られるのですが、決して淫靡な感じはなく、雪国の透き通った、少し哀しいひんやりとした、暗い美しさの中にそうした感覚的な描写と人物の激しい情動が取り込まれて、何とも綺麗な作品であります。

「美しい血の蛭の輪のように滑らかな唇は、小さくつぼめた時も、そこに映る光をぬめぬめ動かしているようで、そのくせ唄につれて大きく開いても、また可憐に直ぐ縮まるという風に、彼女の体の魅力そっくりであった。(中略)白粉はなく、都会の水商売で透き通ったところへ、山の色が染めたとでもいう、百合か玉葱みたいな球根を向いた新しさの皮膚は、首までほんのり血の色が上がっていて、なにより清潔であった」(岩波新書、p76)
 上の描写がいみじく心に残っております。蛭という、一般的に嫌悪の対象となるような吸血環形動物を、このような、肉感的で、しかし、澄んで美しい記述に取り込んでいるのが良いです。

 駒子に焦点の当たることが多いですが、静かで激しい駒子の側に葉子が影のようにちらちら儚く悲しく現れるのも印象的。闇夜にしんと冷えわたる、夜の雪のような、美しい物語であります。
posted by みさと at 20:13| 奈良 ☔| Comment(0) | 読書(近代文学作品) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月09日

図説 建築の歴史 西洋・日本・近代(西田正嗣/矢ヶ崎善太郎編)

 院試勉強第二弾。建築史を一通りおさえるのに良いよ、と言われて手に取りました。執筆者は京都工芸繊維大学系の先生方。
 私は西洋、日本の建築史ーーほとんど宗教建築ばかりですがーーは授業で一応習ったことがあったのですが、近代が全く知らない状態でした。内容は一般的なものでそう特筆すべきところはありませんが、何よりも図版を豊富に使ってわかりやすく書かれているので、基礎的な流れを抑えるのにはちょうどよかったと思います。日本、西洋については授業ノートを見直して、近代については、もう一冊くらい本読んでおきたいといった感じです。
 近代建築史に触れてみると、哲学の思想史的な勉強をしていたら、もっと面白いんだろうなぁ、とも感じます。「デコンストラクション」建築というものに初めて触れましたが、デリダに始まる脱構築思想についてろくに知識がないのがもどかしい。
posted by みさと at 19:27| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(建築/土木,工学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月07日

日本人の景観認識と景観政策(土岐寛)

 早くも6月。こないだ春分を迎えたばかりだと思ったのに、もう夏至が間近に近づいています。9月に大学院の入試を受験予定なのですが、そろそろそれを見据えて関連する本を読んで行こうと思い、先輩に勧められた本を手にとってみました。

 土岐さん自身は法学畑で地域自治や都市政策を専攻されている方ですが、「景観」問題は都市計画学、建築学、都市社会学、景観工学、地理学など文理問わず幅広い分野の関わる問題であります。
 この本の構成は、日本の貧困な都市景観を背景に、日本における景観研究/都市美運動の軌跡を分野横断的に辿り、日本人の風景観や都市史/景観史を確認した上で、「景観に関する意識調査」を参照したり、各地の景観条例や景観訴訟をたずねながら良い都市のあり方を追求するというものになっております。
 かなり多様なトピックに渡りますが、この本に通底する筆者の問題意識としては、日本は欧米諸国と比べ、私的所有権が強いことや伝統的な建築・都市空間のあり方の歴史などの経緯から、私的空間の造形意識は高いが、公共空間への意識が低く、街並みが乱雑醜悪なものになってしまっているということがあげられます。こうした言説は都市論の世界ではかなり一般的で、そろそろ慣れてきたし納得はしていますが、私自身初めて聞いたときは、日本人は集団意識、同調圧力が強いというイメージがあったため、少し驚いた記憶があります。

 都市史/景観史については知りたい内容が網羅されていたわけではなかったのが残念でしたが、日本の都市景観論の研究史がざっとまとめてあったのが参考になりました。また今後もっと各論に触れた本を読んで勉強していきたいと思います。

 ぼうっとしていたら院試三ヶ月前。まだ対して何も勉強していないので、いい加減積極的に勉強していかないとなぁと感じます。頑張らないと。
posted by みさと at 14:34| 奈良 ☔| Comment(0) | 読書(政治/経済,社会科学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする