2019年02月01日

卍(谷崎潤一郎)

 谷崎潤一郎の小説です。二人の女性の同性愛を中心に展開する卍がらみの人間関係をえがいた作品。一人称の女性が作者に語りかけるという形式で、訴えかけるような迫力があります。関西弁の一人称というのはなかなか珍しく、地の文にも使われている関西弁は、関西人の私にとっても、少し取っつきづらい感じがありますが、いざ作品に入り込むと抜け出せず、臨場感を高める役割を大いに果たしていると思います。
 この作品の一番の見所は、やはり登場人物たちの情動の描き方。ものすごく濃密で、複雑で、たくさんの感情が堆積し、撹乱され、圧縮された感じ。触るとドロッと糸を引きそうな。そのような激情を感じたことのない私にとって、読んでいて混乱するような、恥ずかしくなるような、不思議な感覚を覚えました。
 手紙の引用を持ち出すのも、かなり効果的に作品を盛り上げています。一定の長さの内容を持ち得て、かつ感情をそのまま吐露できるというのは、会話文や地の文の描写にできない手紙ならではの特色だと思います。
 終盤の光子の描かれ方は、『痴人の愛』のナオミと共通するところがあります。破滅的な、奔放な女性にあらゆるものをぐちゃぐちゃにされるというものが谷崎の理想美の一つなのかもしれません。
 作品の展開ごとに複雑に絡み合っていく人間関係、肉体関係、情動。「卍」というタイトルはミステリアスでありながら、それをよく表していて、この作品のえも言われぬ雰囲気をよく形成していると思います。
 そういえば、最近の若者言葉で「マジ卍」というものがあるのですが、それもこの作品を読みながら呟くのにぴったりの言葉だな〜、なんて、しょうもないことを考えたり。
posted by みさと at 16:25| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(近代文学作品) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする