2018年07月29日

造園の手引き

 京都府造園組合の本で、庭園史から設計、施工、管理に至るまでを概観しています。かなり平易に造園学の基礎をまとめており、とても読みやすく勉強になりました。とりわけ日本庭園のデザイン特性や空間構成技法が興味深かったです。借景や縮景、見え隠れくらいは知っていましたが、遮り、障り、生け捕りなど知らない技法もたくさん学ぶことができて、日本庭園を見る目が少し向上した気がします。
 かなりテクニカルな話も平易に書かれていて、人文系学生の私が読んでも理解できました。造園や建築の技術的な面を知ることは半ばあきらめている傾向があるのですが。この程度の基礎の基礎くらいを書いてくれていると面白くてうれしいです。
 造園系の人だけでなく、庭園、緑地空間に興味があれば、ぜひ読んでほしい一冊です。
posted by みさと at 16:50| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(農学/林学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月21日

球形の季節

 恩田陸さんの小説です。谷津という地方都市で広がった奇妙な噂をめぐり、「地歴研」の高校生たちがその出どころを確かめようと奔走するところから物語が始まります。
 なんとなく手に取った本なのですが、自分の専門である地理学と深く結びついており、
色々と考えさせられるところがありました。この小説は、谷津という架空都市を舞台に、それの持つ「場所性」というものを強く意識しています。「場所」というものは、ただそこにある、ニュートラルな空間というだけではなく、歴史や文化の積み重なりーー意味や物語を伴うものであります。そう考えると、小説という表象の場は、空間が必ず「場所」であらざるを得ない場であるということができると思います。学校が出てくる時、山が出てくる時、喫茶店が出てくるとき。小説において、場所の描写がされる時、その場所がそこである必然性があるのです。そういう点で、必ず小説の地理は必ず意味を持ち、「場所」であるのです。
 小谷真理さんが、解説で「学校」という場の意味を考察していますが、それがとても興味深いので、要点を引いておきたいと思います。学校は制度で縛ることで架空の「日常」を作り出します。本当は多様な生徒たちに均質性を求めるのです。当然のことながら一つの価値観を求めることは、逸脱者をも多く生み出します。こうした逸脱者が、ファンタジーの源泉となっているということだそうです。
 加えて、予言の自己成就というのは社会学のお話ですし、民俗学的な伝承のお話もあります。そう思うと、人文諸学の要素がたくさん盛り込まれた物語なのだなぁ、と恩田陸さんの教養を強く感じます。

 恩田陸さんというと、中高時代に読み漁った作家さんの一人。今多少学を身につけた上で読むと、色々と深く考えることができているような気がします。
 中高時代は、学校の課題や勉強の枠が設定されており、私はそれを満たして「勉強のできる子」として評価されており、満足していました。今思えば、もっといろいろな本を読んだり、いろんなところに行ったりして学をつけておけば精神生活も変わってきたのかなぁ、と思ってしまいます。
 ちょうどこの小説の題材が高校であります。日常に満足し、そのルーティンの中で変化を厭って生きてきた自分が、少しみのりに重なりました。
posted by みさと at 23:58| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(その他文学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月10日

美学入門

 中井正一さんの本です。私は風景論を専門としたいと考えているのですが、風景には眺めを審美的評価するという意味合いが少なからず含まれています。これまで建築・地理学系からのアプローチが多かったのですが、風景の「美」を考えるためには哲学系の学問である美学の本も読んでおきたいな、と思い、手に取りました。
 とはいえ、思想系の知識が浅いため、やはり表面的理解にとどまっていたり、理解しきれていない部分も多くあります。カント、ヘーゲルなどの知識があれば、もっと理解が進むのでしょうが……。高校倫理の資料集を読んで、広く浅く西洋の思想史を抑えて置こうかな、と思います。

 いくつか印象に残ったことを書き留めておきたいと思います。

 モダニズムの美学への表れについて、知れたことが一つ。この本は1951年の本ですから、今よりもモダニズムがずっと近いところにあります。ものすごく新鮮な視線で、「機械化時代」である近代を論じています。ルネサンスで個人や主観というものが目覚めますが、近代、社会機構の発達、全体主義の台頭などに伴い、再びそれらは解体されて行きます。ダダイズム、シュールレアリスムなどの絵画の描かれ方も、それに対応して変化していきます。
 機械化時代は人間を含めたあらゆるものを商品化・機械化し、機構へ埋没させていきます。それをマルクス主義は批判していますが、芸術の面から不安の声をあげているのが表現主義などの諸派なのです。

 近代の「機械化時代」に生まれた芸術の一つで、映画があります。中井さんは当時極めて先進的で合った映画にも鋭い理論を加えています。映画、というのは思えば不思議なもの。「聖なる一回性」を持つはずの歴史を、歴史の中で再現しています。またコマに切断された空間はそれを繋げる人々の歴史的意識の方向性を要求します。映画は、それらを通じて見る人の人格の中に、歴史的主体性を撃発しているのです。

 また、「さやけさ」「わび」「幽玄」「すき」「いき」「きれい」など、時代によって様々な言葉に表される日本の美についても、興味を惹かれました。日本の美学は時代によって変遷しているように見えて、軽妙さ、重さ・汚れを切り捨てた自由な清新さ、虚ろだが緊張した静けさなどは通時代的に存在しているのです。
 
 理解の及ばないところも多くありましたが、新たな観点を得ることのできた、学び多い読書となりました。これを機に、哲学系の本にも少しずつ手を出して行きたいな、と思います。
posted by みさと at 00:06| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(他人文科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月08日

おせっかいな神々

 星新一さんのショートショート集です。星新一さんの短編集を丸々一冊読んだのは、恥ずかしながらこれが初めて。友人のおすすめで読みました。短いページに切り詰められた一つ一つの作品が、秀逸な諷刺画のようで、面白かったです。人の行動や社会の潮流の愚かさが諧謔に描かれています。ブラックユーモアは中学時代に好んでいたので、その時分に読んでいたら、ハマっていたのだろうな、と思いました。

 星さんの作品は、人の心情の機微には筆を割かないので、かなり硬質な雰囲気を感じます。それが冷笑的なブラックユーモアとよく合っていて、ある魅力を感じさせます。
 このような短編をそれこそ星の数ほど書くことのできる星さんの発想力には、本当に恐れ入ります。
posted by みさと at 20:46| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(その他文学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月05日

日本の美術5 民家と町並み 近畿

 宮本長二郎さんによる本です。近畿地方の民家について、建築史の側面から詳述されています。これまでなんとなく畿内でもどこどこの地域で形が違うな、とか、大和棟の立派なお家があるな、とかを街や村を歩いていて感じることはありましたが、実際に地域差はどのようになっているのか、とか間取りや構造がどうなっているのかをこの本を通じて知ることができて面白かったです。
 特に、広間型や整形四間型、前座敷三間型といった農家住宅の間取りの類型やその変遷、分布を学ぶことができたのが勉強になりました。
 小屋組などの構造の話をはじめ、知らない専門用語がたくさん出てきて、難しかったところもありますが、ちょくちょく調べながら読んで行くうちに、その辺りのことも多少わかるようになってきた気がします。
posted by みさと at 17:54| 奈良 ☔| Comment(0) | 読書(建築学/都市論) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月03日

金閣寺

 三島由紀夫さんの小説です。1950年の金閣寺焼亡事件をモチーフにしたお話で、吃音症をもつ青年が鹿苑寺の小僧となり、美への想念や生や社会に拒まれた恨みを募らせながら金閣寺を焼くに至るまでを描いています。
 主人公がイメージとして思い浮かべる金閣と実際の金閣へ感じる美のズレは、人の普遍的な美の認識をよく表していると思います。自分の中で理想化しすぎて、実際目にしたときあれ、こんなものかと思うことって、よくある気がします。美に限らず、人間や他のものについても。構築主義の話にも通ずるところがありますね。

 永遠に続くであろう建築の美が、空襲で焼けるかと思われるときに、いつになく親しいものに感じられるようになったというくだりも強く印象に残っています。炎に脅かされてはじめて儚い人間と同じ次元に至るのです。戦争が終わったとき、金閣は「音楽の恐ろしい休止のように、鳴り響く沈黙のように、そこに存在し、屹立していたのである。」と描写されています。堅固な永劫の冷たい美をよく表していると思います。
 僧という聖職にありながら、主人公はやけに俗で、しかし、自分を拒否してきた俗を拒否しているのが、強烈な筆致で描かれています。生々しいような、硬いような、美しくも強烈な作風がとても印象的です。

 ものすごく濃い一冊で、考えることも多くありましたし、自分の思考が追いつかないところも多くありました。またそのうち読み返し、作品や三島の美学観をもっと深く考察してみたいと思います。
posted by みさと at 19:30| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(近代文学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする