2017年04月27日

日本村落の社会地理

 浜谷正人さんによる地理学の書籍です。大学でお世話になっている教授に貸していただいた本です。
 日本はしばしば狭い島国だ、などと言われますが、実際は世界の国々と比べても広い上に、地形も多様。景観的(集村、散村、疎塊村…)にも、制度・生活空間的(標準型、須恵村型、煙山村型…)にも日本の村落は極めて多様であります。
 私は中学時代より柏原市、三郷町、王寺町を中心に河内・大和地域の村落の形態についていろいろ考えていたものでした。関西は集村卓越地域でありますが、三郷町立野、平群町信貴畑、千早赤阪村小吹など山間地域は結構小村的な様式の村々もあることを面白く思っていた記憶があります。柏原市雁多尾畑の枝村の横尾・生津をいかに評価するかも面白いところ。
 この本を読んで、これまでの私は景観的な要素ばかりに注目して、制度・生活空間的な村落の結びつきについて探求することはほとんどなかったことに気が付きました。水利・農業・自治・祭祀などにおいて村々がどの単位で如何に結びついているのか。大学で学んでいる地理学を踏まえ、これまで見てきた村々についてもう一度考察してみたいと思います(それを卒業研究にしてもよいかも、と考えていたり…)。
 手に入るハードルは高いかもしれませんが、民俗学や地理学に興味のある人はぜひ読んでほしい一冊でした。

評価:A
posted by みさと at 11:19| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(小説以外) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月20日

コンビニ人間

 村田沙耶香さんの小説です。

あらすじ
 古倉恵子は就職もせず、コンビニバイトを続けて18年になる。36歳で、未婚。子供のころから「普通でない」と言われた彼女が「普通」として生きられるのがコンビニバイトという形であった。しかし、彼女が「普通のコンビニ店員」として18年も働き続けるのは「普通でない」と周囲の人は思っており…。




 去年だったか、芥川賞を受賞した作品ですね。「普通であれ」という社会の要請は確かにあります。思春期などはそれをあえて逸脱しようとしたり、それを超えると、その要請に従おうとしたりするものであります。
私は幼いころ、その要請に恐らく気づかずに無視し続け、恵子さんのように「変わった子」と思われたり、中学時代はその世代の子供にありがちなようにあえて抜け出そうとしたり(いわゆる中二病ですね)…。一転中学の終わりごろからは普通であろうとあがいていた記憶があります。一度立ち位置が成立した後普通に戻ろうとするのは極めて難しいものでしたが。特に中高一貫校だったので、心理の変化に応じて立場を変えるのが容易ではありませんでした。
 今ではよくも悪くも人の望む「普通の」大学生に成り下がっている自分に気づきます。それがいいのか悪いのか…真実の自分は「普通」なのか、そうでないのか…。しかし、人はそれ単独で存在できるというわけではなく、他者や世間とのかかわりの中で自己というものを形成しているということを考えると、やはり「普通の」今の自分が自分であるのでしょう。恵子も「普通」から逸脱しているとはいえ、周囲の人の影響を受けながら彼女の「普通」でない自己を形成している。それって何か皮肉な気がします。
 「普通」というものを深く考えさせる良い作品でした。

評価:A
posted by みさと at 15:27| 奈良 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

都市・集まって住む形

 鳴海邦碩さんの本です。世界中のさまざまな都市をとりあげてそ形成の過程や集住における知恵を紹介しています。
風土が違えば住まいのあり方も全然違うのかと思いきや、意外と同様の形式の住まいがあることに驚きました(台湾の亭仔客と日本の雁木など…)。
 以前読んだ本にもありましたが、各戸を繋ぐ空間(アパートの共用スペースや、路地空間など)の重要性を強く思います。植木鉢などの表出があれば見た目にうるおいが生じるだけでなく、近所同士でのつながりも増え、人の目も増えるため防犯効果も上がります。そして、ブラジリアがよい逆例となっているように、ある程度雑然としているほうが人間的な、にぎわいのある空間となっているというのも確かだと思います。
近年では画一的、没地方性な、そして隣家とかかわりを持たない家がたくさん生まれていますが、古い家の、そしてそれが構成する町や村のあり方を見つめなおすことが必要なのではないでしょうか。

評価:B
posted by みさと at 10:36| 奈良 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(小説以外) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月18日

D坂の殺人事件

 江戸川乱歩さんの短編集です。収録作品は『二廃人』『D坂の殺人事件』『赤い部屋』『白昼夢』『毒草』『火星の運河』『お勢登場』『虫』『石榴』『防空壕』です。

あらすじ(表題作)
 私はD坂にある喫茶店「白梅軒」で変わり者の友人・明智小五郎と話しながら珈琲を啜っていたところ、向かいにある古本屋の異変に気付く。駆けつけると、古本屋の細君が首を絞められて倒れていた…。




 久しぶりの乱歩作品です。ワンゲル合宿のお供に読みました。推理小説を中心に、色々な作品が収録されています。ちょっとネタバレ注意かもしれません。
 収録作品の中でも一番有名なのはやはり表題『D坂の殺人事件』でしょう。明智小五郎の初登場作品。中学時代(ですから五年ほど前?)に読んだことがありましたが、意外と結末を忘れているものでした。ミステリマニアだった中学生のころを思い出して少し懐かしい気分になったり…。
 『二廃人』も以前読んだことがありましたが、それでも結末には唸らされました。個人的には『D坂〜』よりもこちらのほうが好み。
 『赤い部屋』。気味の悪いブラックな話。こういうテイストが乱歩の醍醐味ですね。どんよりとした夢幻の空気が陳腐な本性を現すという結末も示唆的で、架空の小説の儚さを感じさせて好きです。
 『白昼夢』『虫』はよく似たテイストのお話。大人向けの乱歩小説らしい、とことんグロテスクながらもどこか美しさを持ったよい作品です。
 『毒草』は当時の貧しい庶民の暮らしを黒く痛烈に描き出した話でした。
 『お勢登場』は他作品ほどの後味の悪さはありませんが、かなり完成度の高いお話な気がします。乱歩版『玄鶴山房』といったところか。主人公の悲惨な運命にかなり辛くなります…。
 『火星の運河』は少し幻想的な、乱歩にしては異色の作品。と思いきや肉感的な美しさ、気味の悪さがあり、やっぱり乱歩。なかなかに好きな掌編です。
 『石榴』はザ・推理小説といった感じ。『二廃人』と同じ空気を持つ佳作です。
 『防空壕』も異色作です。切ないような、恥ずかしいようなお話。
 どの作品も短いながらも、それぞれ読み応えのある良作ばかりでした。久々の乱歩ワールドを満喫できてよかったです。

評価:B
posted by みさと at 15:57| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする