2017年02月20日

四畳半神話体系

 森見登美彦さんの小説です。

あらすじ
 私は京都大学の三回生。バラ色の大学生活を夢見ていたが、実際のそれは無気力と暗い情熱に包まれた奇妙なものとなっていた。唾棄すべき親友で宿敵でもある小津、孤高な後輩の明石さん、超然とした不思議な自由人・樋口師匠に囲まれて送る私の奇天烈な青春物語。




 京大生の教養のようなところのあるこの小説。大学一回生も終わろうとする今頃、妹に勧められてようやく読みました。
 現実の京大生はここまで奇天烈な生活を送っているわけではありませんが、主人公の感情は京大生男子ならある程度共感できると思います。女っ気もなく(男女比4:1だから仕方ない^^;)、勉強にも左程熱心というわけでもなく、おふざけと怠惰で結構な時間を過ごしてしまう…。作中の主人公はよくいる京大生像を強調しつつも忠実に再現している気がします。
 この小説で示されているのは、人生多少の選択の違いがあっても結局のところ境遇はそう変わらないということ。絶対そうというわけではないでしょうが、自分の性格が変わるわけではないのですから、ある程度真な面もあると思います。「あのときこういう選択をしていれば…」という後悔をすることはよくありますが、ひょっとしたらその選択をしていたとしても現実と最終的な結果は変わっていなかったのかもしれない…。そう思うと、行動判断をもっと思い切って為すことができるようになる気がします。
 ちなみに実在のお店や町名が登場してニヤニヤとしてしまうのもこの小説の醍醐味の一つ。猫ラーメンというのもどうやら実在するようで……。

評価:B
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2017年02月16日

夜叉ケ池

泉鏡花さんの戯曲集です。収録作品は『夜叉ケ池』『海神別荘』『天守物語』です。

あらすじ(表題作)
 三国岳の麓、琴弾谷。萩原晃は妻・百合とともに鐘楼守をしていた。明六つ、暮六つ、夜中丑満に一度ずつ撞かねば、山奥にある夜叉ケ池の水があふれて田地田畠、陸という陸が水に呑まれるという伝説があるのだ。村の信仰も最早廃れ、百合と外から来た自分だけが迫害されながらも鐘の信仰を守っていた。ある旱の夏、晃の旧友の文学士・学円が偶然訪れたが……。




 最近はまりつつある鏡花さんの戯曲。夜叉ケ池、三国岳はワンダーフォーゲル部で訪れたことがある場所でありまして、そのときまでにこの本を読んでいたならばもっと楽しめたのに、と悔しく思うところであります。夜叉ケ池までは登山道もあり、ミニアルプスといった体で景色も美しいところでありました。ところが池を抜けて三国岳のほうへ参りますと、次第に道も消え失せ、完全なヤブ山になります。ワンゲルは精神力の鍛練とルートファインディング(読図)能力の強化のためわざわざヤブに突っ込むなんてことをしているのです。あの時は『夜叉ケ池』という作品の存在は知っていたのですが、「ここが鏡花の戯曲の舞台か」という感慨も何もなく、「ヤブ!痛い!辛い!」みたいな感じでうんざりとしながら歩いていた記憶があります。
 閑話休題。『夜叉ケ池』、かねてより聞いていた通りの名作でした。人の手も入らないヤブ山の鞍部にある涸れることのない大池。未知の領域が大きく神秘性を帯びており、このような小説の舞台にぴったりです。失われつつある伝説を巡って行われる村人たちと晃たちの応酬が個人的には一番の良い場面だと思います。昔話ではなく、現代(執筆当時)を舞台としているのもポイントですね。
『海神別荘』は人間の小ささ、浅ましさがややSFチックな物語を舞台に描き出された佳作。舞台設定としてはSFに近い話なのに、ヴェルヌなどの雰囲気とは全然違います。鏡花の美しい文体ではまた日本の民話であるかのような印象を受けます。
 『天守物語』は人ならぬ者たちの描写が中心のお話。彼女らの美しさ、そして気味悪さが鏡花らしい文体でじわりと沁みてきます。ちなみに、作中で夜叉ケ池の話が出てきておっと思ったり。後半にて妖美な夫人が人間の乙女のように恋い焦がれる様子の描きっぷりはは本当に流石といった感じです。
 鏡花作品のいずれにも言えることなのですが、鏡花は起承転結の「転」が上手だと思います。美しさはそのままに物語が急展開していくダイナミズムは鏡花作品の大きな醍醐味なのかもしれません。

評価:A
posted by みさと at 15:36| 奈良 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月14日

地方創生大全

 木下斉さんの本です。主に「経営」の立場から様々な地域事業の問題点などを考察しています。

 採算の取れないビジネスに延々とつぎ込まれる補助金、結果より手続きが重視される行政政策づくり、耳障りの良い真新しいだけのアイデア、合意ありきの議論…現在なされている地域事業によくある問題点を暴いています。
 実際読んでいて確かにな〜と思う指摘も多いです。当然なようで意外と意識しない観点が含まれていて面白かったと思います。特に「視察にお金を取る」というのははじめ見た時は目を疑いましたが、かなり良い案です。人に自分の事業を解説するのってかなり手間も時間もかかることです。成功したところに集中して視察が押し寄せて無料の解説を要求してはその団体が疲弊することは避けられません。
 ただ気になったのは、地域の活性化をお金の面だけからのみ見ていること。行政がすべきことは、住民の効用を上げることです。それはお金で測ることができるとは限りません。採算面で見ると赤字の事業でも、それによって住民が大きな効用を得られていればそれはやる価値があると思います。金銭利益以外の効用をどうやって評価するというのは難しいところではありますが…(費用便益分析というのがありますがこれも難しいところ。。)
 地域活性事業に関わる人には中々考えさせられる一冊だと思います。

評価:B
posted by みさと at 18:11| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(小説以外) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月05日

島は僕らと

 辻村深月さんの青春小説です。

あらすじ
 瀬戸内海に浮かぶ冴島は人口三千人弱の小さな島。島には中学校まではあるが、高校はない。高校二年生の朱里の学年は彼女のほか網元の娘・衣花、リゾート開発業者の息子・源樹、演劇に熱を上げる新の三人だけ。高校卒業とともに島を出て進学するのを前提に、残り少ない日々を毎日四人で本土にある高校へフェリーで通って過ごしている。Iターンの増加や大人たちの取り組みで変容しつつある島を舞台に、島と本土の様々な人物が交錯する。



 青春小説の名手・辻村深月さんの作品の描いた地方小説です。現代の地方社会を絶妙に描いた名作でした。
 瀬戸内海の島。コミュニティデザイン。株式会社「さえじま」。読んでいてすぐに、兵庫県姫路市の家島がモデルではないだろうか、と思いました。以前紹介した山崎亮さんの本で紹介されている島です。山崎さんの『コミュニティデザイン』を合わせて読むと、おー、となるかも。
 「田舎」を描いた田園小説でありながら、その舞台はコミュニティデザインなど(先進的な)活性化の取り組みが積極的になされ、Iターンなど人口の移動が激しい島。旧態依然とした所謂「ムラ」が良くも悪くも変容しつつある、現代らしい舞台設定です(日本全国で見れば、冴島のようなところはかなり恵まれた「田舎」になるのでしょうが…)。怪しい作家・霧崎ハイジやコミュニティーデザイナー・ヨシノといった「ソト」の人物の目線も中々面白い描かれ方。古きと新しきが交じり合う現代の「田舎」での、複雑で微妙な人間関係の様子がよく描かれており、田園小説としては珠玉の作品だと思います。
 こうした舞台を背景に描かれる四人の青春劇も素敵です。特に、終盤。衣花の島を愛し、網元の娘として責務に従うことを受け入れながらも(あるいは進んでそれを選択した、と言えるかもしれません)、本土へ行く愛する友と別れるのが辛くて泣き叫ぶシーンは特に感情移入してしまいました。古くからのしがらみを打破するような描かれ方をする小説はよくありますが、このように、「しがらみ」を好んで受け入れながらも、それでも他の条件を考えて葛藤が起こるというのがかなりリアルに感じました。私自身の感情によく合っていたというのもあるかもしれませんが。
 大人と子供のあわいの、高校生という目線から見た島の社会、逆にその島の社会が彼女らを規定している様子、また島の社会での彼女らの生き方も注目ポイントです。
 そしてあと、女性の地方社会でのあり方もこの小説の一つのテーマですね。閉塞的・硬直的な地方社会はとりわけ女性をいろいろな形で生き方を規定し、悲しませ、ときには追いやってきた。そうした側面を描きながらも株式会社「さえじま」の代表を務める朱里の母、コミュニティデザイナーとして島の人たちの懐へ入ってゆくヨシノ、さまざまに思い悩み、暗中模索しながらも自らの道を選んできたシングルマザー・蕗子などなど、強く生きる女性たちの姿が描かれています。それを踏まえると、この作品のラストシーンはこれ以上にないほどこのテーマに調和的で、そしてかつ他の青春小説・田園小説としてのテーマも上手に落とし込んだ素晴らしい結末だと思います。

 ただ懐古的にもならず、かといって古きを全否定するわけでもない、良い作品です。田舎で生きるということ、そしてふるさとの意味を考え直させてくれる契機になることと思います。

評価:A
posted by みさと at 14:48| 奈良 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(辻村深月) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする