2016年10月25日

神去なあなあ日常

 三浦しおんさんの小説です。

あらすじ
 平野勇気は高校卒業後フリーターで食いつないでいこう、と思っていた。しかし、担任の計らいで「緑の雇用制度」に勝手に応募され、三重県神去村で林業をすることとなる。はじめこそ慣れない山仕事に反発していた勇気だが、次第に神去村の美しい自然と林業の面白さに魅了され、個性あふれる村人たちにもなじんでゆく…。



 私は現在大学で林業のサークルに入っているのですが、それまでほとんど林業というものを意識したことがありませんでした。柏原の山村はいずれも農業が主要な産業で、林業に触れ合う機会がなかったのです。都市の若者にとって林業というのは縁遠い存在であることが多く(多摩の林業は有名ですから東京はそうでないかもしれませんが)、農業や漁業でなくそんな林業に焦点を置いたことがこの小説の良いところだと思います。
 軽快なタッチで勇気やヨキら村人たちの生活の様子が生き生きと描かれています。勇気の現代っ子らしさや神去村の古き良き田舎らしさは少しステレオタイプにすぎる感はありますが、ここまではっきり描かないと物語の躍動性は生まれなかったのだろうな、とも思います。
先月同じくステレオタイプな田舎像を描いた『夏美のホタル』をリアリティがない、と辛口に評価しましたが、こちらは林業をとりあげる過程で村人の生活が表出しており、リアリティに欠けていながらも、物語の裏にしっかりとしたものが敷かれている感じがして高評価できます。
また美しい感動譚ではなく、騒動劇的な形にしたのも、軽い文体がうまく生かされて良かったと思います。
続編『神去なあなあ夜話』も近く読んでみたいです。

 ちなみに、、「緑の雇用制度」もあって林業の担い手は若返ってるという統計データが出ていたり…。いや、林業って興味深いです。本当に。

評価:A
posted by みさと at 11:50| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(その他の著者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月11日

改訂新版 文化人類学

 内堀基光さん、奥野克己さんらによる教科書です。私は将来日本の過疎集落や衰退都市の地域活性化を行いたいと思っているのですが、そこに文化の保全というものが深くかかわってくることに気づき、文化人類学についても少し学んでみようと思ってこの本を読みました。
 ある程度文化の消失を覚悟して新規開発を行うにしても、今ある集落・都市の文化を活かして町おこしをするにしても、その文化を持っている人たちがどうしたいかを考えねばなりません。「文化」というものそれ自体移り変わっていくものなので、それを保全するとはいかなることかということも大きな問題です。文化相対主義は一見わかりやすい思想ですが、そのありかたについてもかなり奥が深いと思います。(また機会があればこのあたりの自分の考えをまとめて改めてブログに載せるかもしれません。)
 文化人類学をかなり広い観点から概論した一冊です。教科書というものはどうも読みにくいもので読了に時間はかかりましたが、学ぶことも多く、時間をかけて読んだ価値はありました。

評価:B
posted by みさと at 17:55| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(小説以外) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月01日

猫と針

 恩田陸さんの小説です。

あらすじ
 高校時代の友人の葬式の後、高校の映画研究会の同級生四人が集まった。久々に集まった面々は四方山話に花を咲かせるが…。




 「人はその場にいない人の話をする」というテーマのお話です。実際面と向かった相手の話題を出すのってやはりどこか抵抗がある感じはします。第三者について話す方が比較的遠慮なく、おしゃべりを楽しめるのでしょうね…。
 さて、この小説は恩田陸さんが書いた戯曲の脚本です。実は私はもともとこれを、恩田さんが戯曲の台本を書いたという小説で、戯曲自体が架空のものだと思っていました。キャストの女優さんの名前をグーグル検索して初めて劇団や戯曲が実在のものと知ったのです。さらに、劇中でさらに劇を作っているという描写があるので実世界と劇のあわいが曖昧になったような感じがします。噂話という主題の特性も虚構と現実の曖昧さに拍車をかけています。
 形だけを見れば恩田作品の中では異色ですが、中身や手法を見れば恩田ワールド炸裂ですね。

評価: B
posted by みさと at 23:35| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(恩田陸) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする