2015年06月15日

怪しい店

 有栖川有栖さんの短編集です。収録作品は『古物の魔』『燈火堂の奇禍』『ショーウィンドウを砕く』『潮騒理髪店』『怪しい店』

あらすじ
 「いらっしゃいませ」の言葉とともに得体の知れぬ見知らぬ人を招き入れる店というのは、日常にあるのに異常な空間である。場合によっては悪意まで同時に招き入れる店。ときには悪意までもが招かれて平気で上がりこむ。
 そんな不思議な空間を舞台に、臨床犯罪学者・火村英生と推理作家の有栖川有栖は五つの事件に挑む。

 久々に有栖川有栖さんの小説を読みました。そもそもミステリを読むこと自体かなり久しぶりかもしれません。有栖川さんの作品の魅力は、「紳士的」であることかもしれません。軽妙な要素もありますし、会話も関西弁ですし、むしろ割と読みやすいテンポの良さを持った文体でありながら、どこか気品があります。
 特に『燈火堂の奇禍』『潮騒理髪店』の二作品は、そのようなジェントル・ミステリの最たるものだと思います。前者では、リアリティのある、しかし薄赤いセピアのフィルムを通したようなそれぞれの人間像を脳裏に映写します。本当に短い作品でそこまで踏み入った人間描写はないのに、不思議と冬美ちゃんも半井爺さんにも愛着がわきます。最後の終わり方も、有栖川さんが微笑みを以ってそっと描いているような描き方で好きです。
 『潮騒理髪店』でもセピア色の風景が広がっています。なかなか散髪のシーンを描いた小説というものは目にしませんが、これは切られている様子を読むだけで、気持ちよく感じます。谷崎潤一郎さんの『陰翳礼讃』を読んだときの心地よさにも似ています。こんな店で自分も散髪してもらいたいな〜と。火村と有栖川のやりとりが魅力的なことはもちろんですが、会話の一つ一つ、例えば「奥でおやつをいただいておりました」や「桐杉さんですか」なども温かみを感じて好きです。
 『ショーウィンドウを砕く』は一転現代らしい作品。物欲の強い彼女と、それを愛しく思う彼氏。フォーマットに沿ったような心理ではなく、より生きた人間らしい心理描写です。そういう嗜好はない自分も共感してしまいます。
 もちろん、他の作品も魅力的です。本当に短編集のタイトルがよく内容を表していますが、『怪しい店』です。不気味なのだけれど、どこか心惹かれる。妖怪世界にギリギリ足を踏み入れないくらいの現実世界の隅っこにいるような感覚を受けます。

 ジェントル・ミステリ。久々でしたが、つくづく有栖川さんの文章の魅力を感じました。小学校のころから6年くらいのファンですが、本当に人生を通して読んでいきたい作家さんです。

評価: AA
posted by みさと at 19:12| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(有栖川有栖) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする