2020年09月16日

星の王子さま(サン=テグジュペリ)

早く読まなきゃ、と思っていた児童文学の名作に、ついに手を伸ばせました。新潮文庫の河野万里子訳で読みました
砂漠に不時着した飛行機パイロットが出会った「星の王子さま」。彼はある小惑星の王子さまで、バラの花と触れ合い、火山の手入れをし、星を破壊するバオバブを退治して過ごしていました。ある時バラとの喧嘩から星を飛び立ち、いくつかの星を巡った末に地球に至ります。
美しく純でいて、寓意に富んだ作品です。特に星を飛び立った王子さまが地球に至るまでに出会うへんてこな人々は、いづれも大人の風刺であります。実体がなくても権威を持ちたい王様、飲むことを恥じている、恥じていることを忘れようと酒を飲む呑んだくれ、指示に忠実に従い続ける点灯人…どの人たちも愛らしくも愚かで、愛おしさと悲しさを感じます。
王子様がキツネと仲良くなり、ただアノニマスな人から互いにかけがえのない存在となり、バラとの触れ合いを振り返る場面も、純で美しい。「お願い……なつかせて!」の場面は、本当に可愛らしくて、心が締め付けられます。これ、訳も良い…。
僕も、数を数えるのが大好きで、権威に影響を受け、時間を惜しんで特急に乗り、仕事の片手間に人の話を聞いたりする、すっかり大人になってしまったなぁ、と感じます。22歳、まだまだ子どもでいたいけど、もう、戻れない。
posted by みさと at 20:37| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(児童文学作品) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月10日

風景の発見(内田芳明)

 ヴェーバー研究で知られる社会思想研究者・内田さんの風景論。
 日本の前近代は、例えば見たこともない中国の洞庭湖になぞらえて八景を定めるなど、社会通念に従った風景観を持っていました。明治に入って写実主義の洋画や自然主義文学、山岳登山、地理学が西洋から移入される中で、そのままの自然を見つめようとする風景観が生まれていきます。これは高橋由一の『鮭図』に、国木田独歩の『武蔵野』に、志賀重昂の『日本風景論』に表れているものであります。
 この議論は国粋主義者の志賀からキリスト者の内村鑑三、進化論のダーウィン、相貌学的地理学のフンボルトへと、時代を、影響をさかのぼるように西洋に移っていきます。
近代西洋はデカルト的な、主客分離・機械論的自然観だけではなく、「自然の側に中心があって、自然が物象の姿・形として現れるその現象を通じて私たちに語りかけてくるものを、人間がみて観得する」(p40)相貌学的なまなざしをも生み出した、というのがこの著作の胆であります。
 美術史から地理、経済、文学、科学史、本当に様々な思想を見事に編み上げた作品です。やや複雑で十分に理解できていない感じもありますが、内田さんの視野の広さに恐れ入るばかりです。
posted by みさと at 19:33| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(社会学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月08日

近世日本文学史 -概説と年表-(吉田弥生)

現在論文で近世の国学者の論考や紀行文を扱っているため、近世文学の大づかみな知識をつけなければいけないな、と思って手に取りました。本文100頁、年表50頁とコンパクトにまとめられており、短時間で全体像を掴むのには丁度良い本でした(やや誤字脱字が多いですが)。
 西行や鴨長明のような憂鬱な隠遁者のイメージの強い中世文学と異なり、狂歌、滑稽本、洒落本、黄表紙…近世文学は明るい庶民的な空気感に包まれています。ここには印刷技術ー整版印刷の普及が背景として存在します。
 研究で必要となってくるのは国学関係の知識ですが、俳諧や読本などは読み物として普通に関心があるので、もう少し知識をつけたいところ…と言っても時間は有限なのでなかなか難しいのですが…。
posted by みさと at 11:19| 奈良 ☔| Comment(0) | 読書(言語学/文学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月04日

建築のしくみ(小沢宏・冨田眞理子)

 しばらく前に読んだ建築の入門書。学際系学部で建築史の研究室に流れ着いたものの、建築学の全体像をしらないな、と思っていた時にブックオフで見かけて買った本。類書はたくさんあると思いますが、学校の図書館でぱらぱらしたものよりはよさそう。と思っていたのですが、今日見つけた雑誌『建築知識』の『世界でいちばんやさしい建築入門』がわかりやすく充実しているので、そちらの方がよい気がします。
 意外と構造以上に計画のことを知らないな、というのを感じました。構造って歴史の勉強するうちになんだかんだ身に付きますが、歴史は主に宗教建築が対象なので、住宅のプランニングが全然わからないんですよね。。またその辺も勉強したいなぁ。
 そういえば、先輩の紹介で住宅系コンサルでアルバイトを紹介してもらえる話が…。勉強の機会にもなるかな。
posted by みさと at 19:11| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(建築/土木,工学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月31日

妄想とツッコミでよむ万葉集(三宅香帆)

万葉集の中に、現代に通じる感覚を見出そう、というのが趣旨のエッセイで、「若者らしい」今風の文体で当時の和歌を取り上げ解説していきます。キラキラネーム、インスタ映え、ナンパ、恋愛ネタ、ラノベ展開…。 出てくるワードも文体も現代全開ですが、ちゃんと万葉集の解説になってる。すごい。
実は筆者の三宅さんは京都大学大学院人間・環境学研究科の修士課程を出られており、短い間とはいえ、万葉集の研究者だったのです。紀要「人間・環境学」にも寄稿されています。
(三宅香帆(2019)「石川女郎大伴田主贈答歌に見る『遊仙窟』の影響 −二人の「風流」をめぐって−」『人間・環境学』 2 8京都大学大学院人間・環境学研究科
  全然関係ない話ですが、古代のアイロン「火熨斗」の話で当方柏原市の発掘成果が引用されていて、少しテンションが上がりました…)

学部も研究室も違いますが、同じ研究科のというので以前より心惹かれていました。古典文学を「楽しむ」、という観点で本当に良い本でした。
多忙で読書紹介が停滞し、1つ1つの紹介も適当になってしまっていますが、今回もこの辺で…。
posted by みさと at 19:22| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(言語学/文学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月10日

はじめてのランドスケープデザイン(八木健一)

 ランドスケープデザインの入門書、農学部の図書室で借りました。エスキス、パース、模型などデザイン表現の基礎から、具体的な公園を例に出しての計画や設計のプロセス、舗装材や構造物などエレメントの概説まで、ざっくりとランドスケープデザインの基本を解説した本です。
 学際系の学部で地理や建築を勉強してきたのですが、研究や勉強を重ねているうちに、だんだん自分の関心が造園/ランドスケープによってきたというのがあります。9月に論文の提出を考えていることもあって、現在、日本造園学会に入会申請中です。
デザインについては、学部時代景観工学の授業で練習しましたが、こうした分野で研究や実務をするならば、もっと練習したほうがいいなと感じます。デザイナーになりたいとは思いませんが、自分の考えていることを図面を使って表現できたら良いだろうなぁ、と思います。
posted by みさと at 11:15| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(森林/造園,農学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月25日

庭園の謎を解く(L・ハリソン)

 イギリスの造園系著述家ロレイン・ハリソンの作です。訳は小阪由佳さん。これも読み物として手に取った本。最近、勉強が書籍<論文になってきています。どっちが良いのかわかりませんが、本が勉強よりも娯楽的要素が強くなりつつあります。
 この本は西洋を中心に、庭園の鑑賞ガイドを行う本で、様式や植栽、構造物などを豊富な写真とスケッチで解説されています。体系だった知識がつく、というものではありませんが、西洋庭園の構成要素について、楽しく意識を高めることができます。難点は、やや訳が読みづらいこと。海外の邦訳を読むと大なり小なり感じることなのですが…。
 日本庭園については小野健吉先生の授業や書籍で学習したことがあったのですが、西洋庭園についてはほとんど知識がなかったため、勉強になりました。風景論の本を読んでいても、西洋の庭園の話はしばしば出てくるので、どこかでしっかり知識を入れておく必要があるなー、と感じます。
posted by みさと at 20:46| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(森林/造園,農学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月08日

怖くて眠れなくなる植物学(稲垣栄洋)

 古本屋で何となく手に取った一冊。植物って、よくよく考えてみたら怖い生き物です。切ってもまた再生するし、別の木ともくっつくし、寄生するし、生殖器は飾り飾ってよく見えるところについているし…。
 ウォーキングパーム、ライオンゴロシ、ネナシカズラのような奇妙な、ちょっと怖い植物から、クローバーにヒガンバナ、ベラドンナなどの植物の人間と植物の関わりの話まで、いろんな小話が集められています。読みやすく、気晴らしに良い一冊でした。
posted by みさと at 20:31| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(他自然科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月29日

近代造園史(粟野隆)

 主に日本近代の公園・庭園・緑地・造園学の歴史について簡潔にまとめた本です。欧米の近代造園の誕生についても記述があります。
図版が多く、簡潔でわかりやすいですが、造園史をおさえるという意味では分量的に少し物足りないかもしれません。しかし、参考文献の整理と年表が充実しているため、この本を中核に色々調べていくにはうってつけ。値段も2000円と、(学術書にしては)お手頃ですし。
ちなみに、粟野さんは東京農業大学の先生なのですが、東京農業大学は造園が学科として独立して存在しており、充実しています。造園学教室が森林科学科の一教室に過ぎない弊学からするとうらやましい…。農大の造園は、由来が上原敬二の提唱で作られた東京高等造園学校だそうで、造園の名門のようです。
posted by みさと at 12:44| 奈良 | Comment(0) | 読書(森林/造園,農学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月22日

発情装置(上野千鶴子)

 大学生協の古本フェアで扇情的なタイトルに驚いて手にとった本です。人が発情するのは自然現象ではなく、文化的装置である、という構築主義的なところに基づくタイトル。援助交際などの社会現象やニキやダイアナ・ブロック、山岸涼子などの芸術作品、フロイトやフーコーの思想も時には参照しながら様々に論じたエッセイ集であります。
 最近KuToo運動など、フェミニズム的な言説が盛んでありますが、運動に参加する側もそれを批判する側も、政治運動的な、先鋭的なところが目立って、思想的なところがあまり顧みられていないように感じます。色々な言説を見聞きする中でも、フェミニストが社会批判において「今の時代に合わない」なんて半ば思考停止的な言説を発したり、逆にアンチ・フェミニストがフェミニズムとミサンドリーを混同して同じく思考停止的に批判したり、なんだか、感情的な議論になりがちなのが個人的にはもやもやしています。
とは言え、フェミニズム自体が学問であると同時に当事者による社会運動である、という側面も強いため、そんなもんなのかなぁ、とも思ったり。

 面白かったのは、ゲイ・スタディーズとの応酬。フェミニズム的な言説は女性性/男性性を注目するあまり、LGBTQに対して優しくないイメージがあったのですが、フェミニズムのスタンスを理解すると、なるほど、というところ。フェミニズムにとって、ゲイもレズビアンも男性性と女性性の社会的規範に拘束されているものであるのです(だからこそ、ゲイがミソジニーに結びつく)。上野さんはゲイやレズビアンから「同性愛差別者」ととみなされ、上野さん自身も、「批判に値するだけの偏見や無理解に満ちた発言」をしてきたと認めています。
 上野さんの言説は少し過激な形を取りますが、読んでいると、かなり冷静で、実際他者からの批判を丁寧に受け止めて、考えを常に更新し続けているのが見て取れます。

 フェミニズムやセクシュアリティ/ジェンダー研究の全体像を知りたくなりました。色々考えさせる読み物で面白かったです。
posted by みさと at 10:24| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(社会学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする