2020年06月04日

江戸・明治の古地図からみた町と村(金田章裕)

 日本古代の景観史の研究で有名な歴史地理学の金田先生が、近世近代の都市図、村絵図などを対象に読図のガイドをしてくださるという本。敬文社の「日本歴史 私の最新講義」のシリーズで、同シリーズには渡辺尚志さんや倉地克己さんの名前があります。
 ミクロな大縮尺図を扱った事例研究が中心で、実際の読図から地図の表現内容、特性、成立過程の解説が充実しています。地元に近いということもありますが、藤井寺市域の村々の事例が興味深かったです。宝永年間に大和川の付け替えがおこなわれたことは有名な話ですが、これに伴って藤井寺市域ではかつての村の土地が分断され、用水の取り方も変化してきます。また、地図のゆがみに村人の地理認識が表れているのも面白かった。地籍図を用いた景観復元、小字と地割からの条理復元をする事例も勉強になりました。
 内容自体は地理学になじみのある人には平易ですが、全くこの分野に触れたことがないとやや難しいかもしれません。悲しいのは掲載されている地図が小さくて、逐一文章と地図とを確認しながら読むと目が疲れるので、地図によっては読むのをあきらめたものも、、、。とはいえ、面白く勉強になった一冊でした。
posted by みさと at 13:45| 奈良 🌁| Comment(0) | 読書(地理学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月29日

なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか(牧野知弘)

これも読み物的な感じで読んだ本です。不動産業のイメージって、度胸とハッタリでお金を求めて土地を転がす、みたいな悪いイメージがあります。この本では、不動産業をそうしたイメージを作った、短期で転売を繰り返すギャンブラーと、賃貸や管理で長い目で不動産と付き合う大家さんや「町の不動産屋さん」とに分けています。前者を狩猟、後者を農耕にたとえ、土地の永続性と無二性、不動性をもとに、後者を勧めるといった内容になります。
 タイトルになっているクエスチョンを取り上げておきますと、これは、油ばかり売っているように見えても、地元のコミュニティに入って行くことで資産家の持つ不動産の管理業務を獲得し、また相続や売買などが生じたときには、世話をすることで手数料をもらう、という仕組みであります。
 土地に価値を置き、きれいな建物にごまかされるな、という言葉も印象的です。

 土地というものは、人間に関係せず、そこに存在し続けているものであります。人間が資本主義の中でそれをやりとりしているように見えて、土地は決して動くことはなく、実は動いているのは人間と(社会)の方である。そう思うと、何だか不動産業だけでなく、地理や建築みたいな学問についてもですが、私たちはなんて空間を支配しているなんていう幻想に抱かれてい生きているんだろう、と思います。近代的な、デカルト的な考え方はいまだに自分(たち)の中にも息づいているんだな、と感じました。
posted by みさと at 14:26| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(政治/経済,社会科学系) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月26日

近代天皇制と古都(高木博志)

 高木先生は京大の人文研の先生で、授業を取っていることもあって、今期一番論文を読んでいる方。高木先生は天皇制や文化財に関して造詣が深く、本書は「古都奈良」、「古都京都」、「陵墓と世界遺産」の三部構成で近代日本国家の創出と古都の関係を論じています。
奈良は神武創業に始まる神話的古代を表彰する場、京都は日本独自の国風文化や海外に開かれた安土桃山文化を表象する場として顕彰され、天皇を中心とする統治体制の構築に貢献しました。

象徴的なのは、橿原市に作られた神武陵・橿原神宮。神武陵は近世丸山(畝傍山麓)とミサンザイ、二つの候補地があったのですが、丸山には洞という被差別部落があったためという政治的判断で、塚も何もない(寺の基壇跡をつかと勘違いされていた)ミサンザイに神武陵が創建されます。その後、神武帝の橿原宮を顕彰した橿原神宮が創建され、畝傍山・橿原神宮・神武陵が一体として整備が行われて生きます。(洞部落は神武陵を見下すということで移転させられました。)

昨年、百舌鳥・古市古墳群が世界遺産に登録されました。これは「古墳時代の文化の物証」「土製モニュメントの建築的到達点」として評価されたものとのことですが、天皇陵の整備は近代「日本」の創造の過程で整備されたという経緯が縦走しており、古代と同時に近代の遺産としても評価しても良いのではないかとも感じます。(「大仙古墳」ではなく、「仁徳天皇陵」のような名前で登録されたため、議論を読んでいますが、ここには文部科学省の文化財制度「開かれた文化財」と宮内庁の皇室財産「閉じられた文化財」の制度の問題があるとのことです)
 

史料を綿密に収集したかっちりとした研究で、大変勉強になりました。史学系の人はすごいなぁ、とつくづく思います。歴史的な知識をもっとつけないと、、、。
posted by みさと at 10:39| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(歴史学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月25日

クソ物件オブザイヤー(全宅ツイ)

 最近不動産への関心が強まっており、家にあったこの本を読み物として手に取りました。スルガ銀行の「かぼちゃの馬車」事件、南青山の児相反対運あ動、レオパレスの施工不良問題、野立てソーラー…ここ最近の有名な事件がまとめられていて勉強になりました。
新しい接道ができて解消された元旗竿地の竿の部分に建てられた狭小住宅「コニファコート成城学園前U」がとても印象的。
 いろんな事件を知れて面白かったと感じる一方で、土地や建築は「有効利用」するものであり、お金を稼ぐ「資産」であるような書き口にもやもやしたり。一面ではそりゃそうだし(実際私もそれで食べている)、不動産業というのは土地や建築の「資産」である面に注目した業種でありますが、同時に土地や建築は住まう、生きられる「場所」であるということを思うと複雑な思いになります。(この本のタイトルも、若干苦手…。場所に宿る人の生きた痕跡を嘲笑の対象にしている感じがする、、)
とはいえ、土地や建物の持つ「資産」という面を知ることは、人々の行動やその空間に対する経済的規定を知ることに繋がります。この辺の勉強もぼちぼちしていきたいと思います。
posted by みさと at 21:38| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月21日

文人世界の光芒と古都奈良ー大和生き字引・水木要太郎(久留島浩・高木博志・高橋一樹編他)

この本は大和の郷土史家として名高い水木要太郎(1865-1938)の残した史資料のコレクションを題材にした共同研究をまとめたものです。
水木は明治42年に前任の郡山中学から奈良女子高等師範学校(現在の奈良女子大)の国語・漢文部の教授に就任し、そうした中で、水木は奈良県を中心に古代から近世に至る膨大なコレクション(古文書、古瓦、会が、書籍、建築部材…)を形成します。自身論文を書くことはありませんでしたが、古文書学の権威で文化財行政に深く関わった黒板勝美他中央のアカデミズムと深い交流をもち、奈良県史跡勝地調査委員として活躍するなど地方と中央の渡し舟となりました。

「竜田」研究の参考に、と分野の先生にお貸しいただいた本です。アカデミアと地域の文人的知識人の関わり、明治20年代江戸開府300年を機に盛んになる「江戸趣味」、学知と連動した修学旅行…興味深い内容が目白押しなのですが、近代史の勉強をきちんとしていないため、断片的な知識としてしか頭に入ってきていない気がします。また読み直さなきゃ、と思う本の一つです。歴史学ってかなり他の分野との接点の多くとっつきやすいイメージがあり、造園学や歴史地理学を先行研究に歴史を扱った卒論を書いたときも史料批判の難しさ以外そこまで思わなかったのですが、最近史学系の本や論文を多く読むようになって、自分の研究の浅さに気づき、現在自信を無くしているさなかです。
 この本に寄稿している高木博志先生と、丸山宏先生は近代の文化財に関する研究が多く、読み漁らなきゃなぁ、と思っています。(高木先生は京大人文研で文学研究科から授業を開講しているので、履修しています。残念ながらオンラインですが)
posted by みさと at 20:19| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(歴史学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月12日

さいごの色街 飛田(井上理津子)

大阪で遊郭の名残をとどめる飛田新地について、現在の就業のあり方、そこで働く人たちーおねえさん、おばさん、経営者ーの背景、システム、歴史など多彩な点から取材したルポルタージュです。
「飛田」の研究はほとんど存在せず、ciniiをざっと見ても、住友元美(1998)の歴史研究「公娼問題と都市生活−1910年代の大阪、飛田遊廓設置問題を事例に」が唯一見られる程度です。この本は学術書ではありませんが、飛田を精緻に、多面的に描いており、学術上でもとても価値があるものだと思います。

この本を読んで強く感じたのは、生きているものを対象にした研究の難しさであります。飛田は特に法律のグレーゾーンにあるためセンシティブでありますが、どこの街を研究しようとしても、そこに生きている人を傷つけてしまう可能性を持っています。2年ほど前、研究室のプロジェクトで長浜の町並み・町屋の写真を撮影していたとき、地元の人に「誰に許可を取って写真を取ってるんや」と凄まれたことがあります。その時は研究室が観光協会や行政と繋がりがあったため問題なく終わったのですが、個人研究であればどうしていたんだろう。
そもそも、町並みとは、ファサードとはどれ程の公共性を持ったものであるのか、という根源的な問い。国立のマンション訴訟であるとか、鞆の浦の架橋に関する訴訟だとか、公共の景観利益というものが認められつつあるのが今主流の答えではあると思いますが、私個人の信条としては、公共の利益(研究を含む)の旗の下といえども個人の思いに寄り添うことは必要であると思っています。
この本は、飛田の歴史やエスノグラフィーの叙述として価値あるものではあると感じますが、しばしば飛田の人の意思に反して、時に彼らを欺いて調査・叙述されているのにもやもやとしてしまいます。私が臆病にすぎるのかもしれませんし、この本が明らかにしたことによって救われる人もいるかもしれませんが、それでも、なんだか複雑な思いを感じてしまいます。こんなことを言っていては社会学や民俗学、人類学の研究なんてできないでしょうが、それでも…。(だから、私はフィールドワークよりもテクスト研究をしているのかもしれない。ナマモノを扱う度胸がないのです。)
posted by みさと at 10:01| 奈良 | Comment(0) | 読書(民俗学/人類学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月11日

ちぐはぐな身体(鷲田清一)

 筑摩の「プリマー・ブックス」シリーズで1995年に出たものを、2005年にちくま文庫で再版されたものです。
 身体というものは、自分では断片的にしか経験できません。手や足などを見ることはできますが、顔や後頭部、内臓などは見ることはできませんし、そうした可視/不可視の身体の断片を一個の人間に統一する時、自分の身体は「像-イメージ-」でしかないのです。このため、シャワーを浴びるとき、人と体を触れ合うとき、服を着るとき、体全体の皮膚感覚が刺激されて、自己の輪郭を確かにし、精神を安定させることができるのです。
こんなところから、鷲田さんの身体-ファッション論は始まります。高校生を対象に書かれており、ファッションや哲学についての前提知識が一切なくても、明快に読むことができます。こういう本、高校生の時代に読んでいたらどれだけ世界が広がっただろう、と大学院生になった今、心から思います。
学部時代私は思想系の授業を履修したことがなく、関心を持ちながらも哲学に苦手意識があったのですが、こんな感じの一般書だとストレスなくさっと読めますし、どんどん読んで行きたいと感じます。竹田青嗣さんの現象学関係とかも読みたいな。
posted by みさと at 10:09| 奈良 ☁| Comment(0) | 読書(他人文科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月08日

奈良県の百年(鈴木良)

 鈴木良編、山川出版の県民百年史シリーズの一冊です。最近は何冊もの本を並行して読んでいるので、通読し終えることが減ってしまっています。大学院の研究で「竜田」というフィールドをもとに近代奈良県の名所整備について行う予定なのですが、その基礎勉強にと思って読みました。
この本の中心となる鈴木さんは近代の部落史の研究で有名な方ということもあって、被差別部落の存在が奈良の近代史において大きな役割を果たしていたということが強く印象に残りました。奈良県は全国水平社発祥の地(御所市柏原)でもあり農民運動、労働運動などと結びついていたというのももちろんですが、「聖蹟」の創出にもその影を落としています。神武天皇陵の治定には洞部落の存在が決定しており、また神武天皇陵-橿原神宮の神苑の創出の過程で天皇陵を見下ろすということで洞部落は移転を余儀なくされております。

日本は文明開化、国民国家の形成の中で自国の歴史を見直す、創出する必要に迫られますが、その中で博物館というものが登場します。東京、京都とともに真っ先に帝国奈良博物館の置かれた大和は、神武帝が治め、平城京に藤原京などの史跡に満ちています。いわば大和は国全体が博物館であり、建国の聖地であり、そうした皇国史観とともに文化財の整備が進んできました。

ある特定の地域を研究する場合でも、国全体の潮流や地方の歴史を抑えた上で研究することは重要だと思います。文化財制度史や奈良県の近代史をもっと勉強しないといけないと感じます。
 このシリーズ、隣県である大阪のものも読んでおきたいな、、。
posted by みさと at 18:49| 奈良 ☀| Comment(0) | 読書(歴史学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月25日

不動産就活2.0(全宅ツイ)

 軽い読み物として。就活本というより、不動産業界のぶっちゃけ話みたいな感じの本。なんとなく自分の中で、勤め人だと終身雇用が普通みたいな固定概念があったので、この本を読んで、結構転職前提の話をしているのに衝撃を受けました。
 都市開発、地域づくりの仕事に関心があるため不動産関係に関心があります(実家の家業とも繋がるというのもありますし)。
 不動産鑑定士の資格も、ちょっと興味が出たり。中々修士課程の学生だと在学中の取得は難しいかもしれませんが。。
 コロナで景気も悪くなりそうですし、色々将来のことを神経に考えないとなぁ、と思っています。
posted by みさと at 11:34| 奈良 | Comment(0) | 読書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月15日

奈良県の歴史(和田萃他)

修士論文のフィールドにしようと思っている奈良県の通史を知りたいと思って古本屋で購入した本。執筆陣は和田萃さん、安田次郎さん、幡鎌一弘さん、谷山正道さん、山上豊さん。
 山川の県史シリーズ。修士の研究の基礎勉強として通史を押さえておきたいと思って読みました。原始・古代は日本通史とかぶるということでか、近年の発掘調査の紹介などが中心、考古学や古代史の知識のない自分にとっては少し応用的すぎた感じがします。一方で、中世以降は歴史の叙述という感じになっており、かなりわかりやすいです。興福寺という巨大な寺社勢力の影響の変化というものが大和の歴史を考える上で鍵になっているのを強く感じました。
 近代になると御陵の治定や橿原神宮の整備を始め、大和が建国の聖地とみなされ各所で顕彰運動が盛んとなって行きますが、ここが面白くて自分の研究にも関わってきます。鈴木良さんや高木博志の本も読んでもっと詰めよう…。
本書で書かれていたのですが、奈良県は国立博物館や奈文研、橿考研はあるものの、歴史資料館や文書館はなく、考古学研究は盛んなものの、(とりわけ近世以降の)歴史研究があまりできる環境が整っていないということ。公的な県史も未だ編纂されていません。確かに、私も卒論で頼ったのは県立図書情報館。斑鳩町での調査でも機関があるのは古代ばかりで、近世近代が注目されていないのを強く感じました。逆にここがまだ研究の余地が多く残っている、と思えば良いのかも…?
posted by みさと at 15:56| 奈良 | Comment(0) | 読書(歴史学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする